日本財団 図書館




1998年(平成10年)

平成9年門審第64号
    件名
引船第七たかとう丸被引土運船501養殖施設損傷事件〔簡易〕

    事件区分
施設等損傷事件
    言渡年月日
平成10年6月4日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

伊藤實
    理事官
蓮池力

    受審人
A 職名:第七たかとう丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
のり養殖用支柱1,800本曲損

    原因
曳航準備不十分

    主文
本件養殖施設損傷は、土運船501を曳航するに当たり、曳航準備が不十分で、曳索が切断し、同船が、のり養殖施設に向かって漂流したことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年3月11日16時45分
大分県中津港北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 引船第七たかとう丸 土運船501
総トン数 19.68トン
積トン数 500立方メートル
全長 13.3メートル 39.0メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 404キロワット
3 事実の経過
第七たかとう丸(以下「たかとう丸」という。)は主として大分県中津港において、しゅんせつ作業に従事する、曳(えい)航フックを備えた引船で、出渠する非自航の土運船501(以下「土運船」という。)を曳航する目的で、A受審人ほか、1人が乗り組み、船首1.0メートル船尾2.1メートルの喫水をもって、平成9年3月11日08時00分中津港を出港して11時00分造船所のある関門港田野浦区に着き、船首、船尾とも1.0メートルの喫水とした土運船を船尾に引き、たかとう丸の船首から土運船の船尾までの長さを約72メートルとした引船列とし、12時00分同港を発して中津港に向かった。
ところで、A受審人は、土運船を曳航するに当たり、曳航準備として、土運船の船首からとって曳索に連結するワイヤーロープのペンダントが古かったので、代わりに直径約50ミリメートルの化学合成繊維製のロープ2本をペンダントに使用し、土運船の船首から約1メートル後方で船体中心から約2メートル外側にある両舷の各ビットにとり、これをそれぞ約2メートル延ばしてシャックルにつなぎ、また、同質、同径の23メートルのロープを曳策に使用し、その後端を同シャックルに連結してY字形の状態とし、その先端をたかとう丸の機関室囲壁後部の曳航フックに掛けて曳航準備を終えたものの、洋上で長時間曳航するには曳索の長さが短いうえ、全体が古くてやや擦れており、シャックル部分の前方約30センチメートルの箇所が土運船の船首部に接触していて、長時間曳航したり、海上模様が悪化すると船体の振れ回りやその動揺により、この接触部で曳索が更に擦れて切断するおそれがあったが、07時前のテレビ天気予報を見ただけで、天候が良好で海上が平穏であると予想されるので同策が切断することはないものと思い、曳索の接触部に擦れ当てを施すことなく、また、曳索を延長したり、取り替えたりすることのできる予備の曳索を用意するなどの曳航準備を十分行わなかった。
こうして、A受審人は、見張りと操舵に当たり、機関を微速力前進にかけて曳航を始め、徐々に増速して5.0ノットの曳航速力とし、部埼を替わしたのち、甲板員と適宜操舵を交代しながら、九州東岸に沿って南下し、15時00分苅田港南防波堤灯台から098度(真方位、以下同じ。)2.0海里の地点に達したとき、針路を131度に定め、機関を半速力前進にかけ、8.0ノットの曳航速力として進行した。
15時30分宇島港西防波堤灯台から353度6.3海里付近に至ったころ、急に北寄りの風が吹き出し、土運船の船体が風を左舷船尾方から受けて左右に大きく振れ回るようになり、曳索が土運船の船首の接触部で擦れて切断するおそれが生じたが、A受審人は、曳索の状態を点検して同索の擦れ当てを施す措置をとらず、予備の曳索がなかったので、曳索を延長したり取り替えたりする措置もとることができないまま、同時50分、操舵を甲板員から引き継いで続航中、16時30分中津港北防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から332度2.6海里の地点で、曳索がシャックルの前方30センチメートルの土運船の船首の接触部のところで切断した。
そのため、土運船は、風下の沿岸に向かって漂流を始め、16時45分、防波堤灯台から323度2.2海里付近の中津市漁業協同組合が設置したのり養殖施設区域内に入り、のり養殖用の支柱群に接触した。
当時、天候は晴で風力5の北寄りの風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、07時45分大分地方気象台から波浪注意報が発表されていた。
A受審人は、曳索が切断したとき、機関を中立回転とし、甲板員と切断した曳索を引き揚げ、予備の曳索がなかったので、切断した曳索の後端に、土運船のビットに掛けるためのアイを作成したのち、機関をかけて土運船に向かって接舷を試みたものの、磯波が高くて困難をきわめているうち、たかとう丸が浅所に乗り揚げ、間もなく自力離礁したが、のり養殖施設区域内の浅所に流された土運船に接近することができず、17時15分、中津港にある会社の事務所に救援を依頼した。
18時00分、救援の作業員の乗船した漁船が現場に到着し、土運船の漂流を止める作業に取り掛かり、運搬してきた錨を使用して20時00分、防波堤灯台から281度1.2海里付近で、土運船の錨止めを終えたのち、A受審人は、23時00分、満潮を待って土運船を養殖施設区域内から曳き出し、同船を曳航して翌12日00時00分中津港に入港した。
その結果、たかとう丸及び土運船には損傷がなかったものの、鉄製及びグラスファイバー製で、いずれも直径約40ミリメートル、長さ2.7メートルののり養殖用支柱1,800本に曲損などの損傷が生じた。

(原因)
本件養殖施設損傷は、土運船を関門港から大分県中津港まで曳航するに当たり、曳航準備が不十分で、曳索と土運船との接触部に擦れ当てを施すことも、同索を延長したり取り替えたりすることのできる予備の曳策を用意することもしないまま、中津港北方沖合を航行中、風力が強くなった際、曳索が切断して土運船が漂流し、養殖施設に向かって圧流されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、土運船を関門港から大分県中津港まで曳航する場合、曳索が切断しないよう同索と土運船との接触部に擦れ当てを施したり、曳索を延長したり取り替えたりすることのできる予備の曳索を用意するなど、曳航準備を十分行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、天候が良好で海上が平穏であると予想されるので曳索が切断することはないものと思い、同索に擦れ当てを施すなど曳航準備を十分行わなかった職務上の過失により、中津港北方沖合を曳航中、北寄りの風力が強まった際、曳索が土運船との接触部で切断し、土運船が漂流して風下ののり養殖施設に向かって圧流され、同施設の支柱に曲損などの損傷を発生させるに至った。






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION