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1998年(平成10年)

平成10年神審第6号
    件名
貨物船幸栄丸のり養殖施設損傷事件

    事件区分
施設等損傷事件
    言渡年月日
平成10年5月14日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

工藤民雄、佐和明、山本哲也
    理事官
中谷啓二

    受審人
A 職名:幸栄丸船長 海技免状:二級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
のり養殖施設の網やロープなどに損傷

    原因
水路調査不十分

    主文
本件のり養殖施設損傷は、水路調査が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年1月21日23時22分
播磨灘
2 船舶の要目
船種船名 貨物船幸栄丸
総トン数 429トン
全長 61.21メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,103キロワット
3 事実の経過
幸栄丸は、瀬戸内海各港間において砂の輸送に従事する、船首にジブクレーン1基を装備した、船尾船橋型の砂利採取運搬船で、A受審人ほか5人が乗り組み、砂1,200トンを載せ、船首3.8メートル船尾4.9メートルの喫水をもって、平成9年1月21日12時10分愛媛県今治港を発し、大阪港に向かった。
A受審人は、冬型の気圧配置が強まって北西寄りの風が増勢する状況であったので、平素航行している播磨灘では推薦航路線によらず、小豆島の北側から家島諸島の南側、さらに鹿ノ瀬北側を東行したのち、カンタマと高蔵瀬の間を抜け明石海峡に向かうこととした。
ところで、鹿ノ瀬一帯には、毎年9月から翌年5月までの間、のり養殖施設が広範囲に設置され、その範囲は、江埼灯台からそれぞれ276度(真方位、以下同じ。)15,300メートル、264度14,100メートル、261度24,200メートル、266度24,400メートル及び273度22,400メートルの各地点を順に結んだ線で囲まれる海域で、周縁には4秒1閃光の点滅式黄色灯浮標が多数設置されていて、五管区水路通報でもこのことが周知されていた。
A受審人はこれまでに播磨灘を何度も航行し、鹿ノ瀬の北側も二度航行したことがあり、鹿ノ瀬付近にのり養殖施設が存在することを知っていたものの、同施設の具体的な位置や配置を把握していなかった。ところが、同人は、それまで鹿ノ瀬の北側を航行したときに同施設を確認して無難に航行できたことから大丈夫と思い、発港前あらかじめ五管区水路通報や兵庫県瀬戸内海のり、わかめ養殖漁場図を入手するなど同施設の具体的な位置や配置を把握するための水路調査を十分に行わなかった。
19時10分ごろA受審人は、備讃瀬戸の井島水道付近で、単独の船橋当直に就き、小豆島北側を東行して播磨灘に入り、21時45分家島諸島南端松島灯台から168度700メートルの地点で、北寄りの強風による偏位を考慮し、針路を080度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの強い北西風を左舷後方から受け6度右方に圧流されながら、8.0ノットの対地速力で、次第にのり養殖施設に向かう状況となって進行した。
A受審人は、操舵室で肉眼による見張りやレーダー監視に当たり、家島諸島の島陰から離れるに従って、風浪が一段と強まり、波しぶきが絶えず船橋に降りかかる状況となったなか、GPSプロッターにより船位を確認して、次第に風下に圧流されていることを知りながら続航した。
やがて、A受審人は、鹿ノ瀬に近づいたので、そのうちのり養殖区画を示す灯火やレーダーにより同施設を確認できるものと思い、波しぶきのなかに目を凝らしていたところ、23時15分右舷正横方に鹿ノ瀬西方灯浮標の灯火を視認した。そのころ前路1海里にのり養殖施設が存在していたが、水路調査を行っていなかったので、同施設の具体的な位置が分からず、このことに気付かずに進行した。
その後、A受審人は、右舷前方にほぼ自船に並行する黄色の明かり数個を一瞬かすかに認めたとき、これをのり養殖区画の北端沿いに設置された灯火であろうと判断し、レーダーでは海面反射が強く、のり養殖施設の映像も探知することができないまま、同施設の北側を航行しているものと思いながら続航中、23時22分江埼灯台から269度12.7海里の地点において、幸栄丸は、原針路、原速力のまま、のり養殖施設に進入し、これを乗り切った。
当時、天候は曇で風力7の北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期にあたり、海上は波浪が高かった。
A受審人は、のり養殖施設に進入したことに気付かずに航行を続けていたところ、23時45分ごろ船体に異常な振動を感じるとともに機関の回転数が落ちたことを知り、船体及び機関を調査したところ、船尾方に漁網の浮子らしき物を引っ張っていることを発見し、その後、減速して明石海峡を通峡したのち、投錨して改めて船体を調べた結果、プロペラに絡網していることを知り、事後の措置に当たった。
その結果、船体には損傷がなかったが、のり養殖施設の網やロープなどに損傷を生じ、のち修理された。

(原因)
本件のり養殖施設損傷は、夜間、小豆島北側から播磨灘家島諸島の南側を経て明石海峡に向かうにあたり、水路調査が不十分で、鹿ノ瀬に設置されたのり養殖施設に向け進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、小豆島北側から家島諸島の南側を経て明石海峡に向かうこととして今治港を発港する場合、鹿ノ瀬ののり養殖施設の具体的な位置や配置を知らなかったのであるから、同施設に進入することのないよう、五管区水路通報や兵庫県瀬戸内海のり、わかめ養殖漁場図を入手するなど、同施設の位置や配置などの詳細を把握するための水路調査を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、それまで鹿ノ瀬の北側を航行したときに同施設を確認して無難に航行できたことから大丈夫と思い、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、のり養殖施設に向かうようになっていることに気付かずに進行して同施設に進入し、プロペラは絡網したほか、のり養殖施設に損傷を与えるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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