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1998年(平成10年)

平成9年神審第83号
    件名
貨物船青海丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年12月15日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

山本哲也、工藤民雄、西林眞
    理事官
岸良彬

    受審人
A 職名:青海丸機関長 海技免状:三級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
主発電機のロータ軸曲損、回転子焼損、ケーシング熱変形ほか

    原因
不可抗力(主発電機のロータ軸が異常振動)

    主文
本件機関損傷は、主発電機のロータ軸が異常振動したことによって発生したものである。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年10月17日07時40分
石川県金沢港
2 船舶の要目
船種船名 貨物船青海丸
総トン数 3,479トン
全長 103.80メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 2,427キロワット
回転数 毎分240
3 事実の経過
青海丸は、新潟県姫川港を積出し港として、秋田県秋田港から京都府舞鶴港にかけての日本海側各港ヘセメントのばら積み輸送に従事する、船首及び船尾にサイドスラスタを装備した船尾船橋機関室型の鋼製貨物船で、機関室下段中央に主機を据え付け、同機の動力取出軸で前方に設置した揚荷用空気圧縮機を駆動できるようになっていた。また、発電装置として、450ボルト350キロボルトアンペアの主発電機を、同圧縮機の左右両側と同室中段の前部右舷側とにそれぞれ装備していたほか、下段右舷側主発電機の右側に同電圧50キロボルトアンペアの停泊用発電機を備えていた。
主発電機3台は、いずれも西芝電機株式会社が製造したNTAKL型自励交流発電機で、共通機関台上に、定格出力308キロワット同回転数毎分1,200のディーゼル原動機(以下「補機」という。)と軸心を合わせて据え付け、ロータ軸船首側先端のフランジ継手を補機のフライホイールとボルトで直接連結し、後部左右を2本のノックピンで位置決めしたうえ、4隅を呼び径20ミリメートル(以下「ミリ」という。)のボルト及びナットで締め付けてあった。そして、機関室中段に設置のものが1号機、下段右舷側のものが2号機、同左舷側が3号機(以下、主発電機はそれぞれ「1号機」、「2号機」及び「3号機」という。)とそれぞれ呼ばれていた。
主発電機のロータ軸は、数段の段付きとなった一体構造の鍛鋼軸で、全長が1,615ミリ、前端のフランジ部直径が280ミリあり、両端が軸受で支持され、両軸受の間に回転子を中心として船首側に通風ファン、船尾側に整流子及び励磁用電機子がそれぞれキー止めされており、段付き各部の直径は最大がファン嵌入(かんにゅう)部の180ミリ、最小は船尾側軸受部の110ミリで、船首側軸受部は140ミリであった。
同軸受は、裏金にホワイトメタルを鋳込んだ上下2つ割れの軸受メタルを使用し、船首側軸受箱には8リットル、船尾側同箱には6リットルの潤滑油を入れ、それぞれ2本のオイルリングでかき上げで潤滑するようになっていた。また、上半が軸受カバーで覆われた両軸受箱は、潤滑油が外部に漏洩(ろうえい)しないよう、ロータ軸貫通部がラビリンス形状に工作されていて、軸受カバー上面に温度計が軸受箱側面にサイトグラス式の丸形油面計がそれぞれ取り付けられていた。
ところで、機関室中段の1号機は、機関台に沿わせて下段天井側から船首尾方向に山形鋼2本を溶接し、床プレートが補強されていたが、補強材の強度が不足していたものか、就航後運転が繰り返されるうち、同機右舷側に設置した主空気圧縮機2台の運転中の振動が大きなこともあり、補機とともに軸受など各部が経年摩耗するのに伴って振動が発生し始めた。
A受審人は、昭和61年3月、運航開始後約3年を経過した本船に機関長として乗り組み、以来休暇を挟んで乗下船を繰り返しながら機関の運転管理に従事していたもので、1号機について、同年9月ごろ航海中の振動が他の発電機に比べて大きいことを認めて注意していたところ、喫水や主機回転数により程度の差があるものの、航行中主機とともに運転したときの振動が大きく、停泊中の振動は、揚荷用空気圧縮機駆動のため主機を運転しても、気にかかるほどではないことに気付いた。
そこで同人は、1号機を停泊中専用、2及び3号機を航海中専用と使い分け、荷役がない停泊時には停泊用発電機を単独運転することとした。しかし、入出港スタンバイ中の各1時間ばかりは、サイドスラスタを使用するため、負荷容量的に主発電機3台を並列運転する必要があり、この間主機の使用状況によっては、1号機が振動するまま運転を繰り返すうち、振動が徐々に増大し始めたことを認めた。
このため同人は、1号機の現状を会社の工務監督に報告して対策を依頼したが、床プレート増強にも他機関への影響など問題があり、しばらく様子を見るように指示され、補機は計画に従って整備していたので、特に発電機側に注意を払うこととし、振動の影響は軸受に現れると考えたが、軸受間隙(かんげき)の計測が構造的に困難だったことから、平素から両軸受について、当直ごとに温度を記録し、油面計で潤滑油の色相に注意するとともに、同油の新替え基準を遵守して運転を続けていた。
ところが、平成3年ごろ同工務監督が退職し、以後同監督の後任が任命されないまま、本船機関の管理実務を任せられるようになったA受審人が、それまでと同様に1号機の運転管理を続けていたところ、本船と相前後して竣工した同型姉妹船で、機関室中段に設置した主発電機の軸受が焼損する事故が発生した。
同事故のことを知ったA受審人は、1号機につき、潤滑油を年に2ないし3度新替えするようにしてメタル摩耗粉の有無を点検し、同7年3月定期検査工事の際には、両軸受を開放して軸受間隙を計測させ、経年摩耗力が許容範囲内であることを確認した。このように同人は、同機の運転に一層の注意を払っていたうえ、入出港時相変わらず大きく振動することがあったが、同機の軸受温度や潤滑油汚損度などに特に異常な変化はなかったことから、機関台に歪(ひず)みが生じて軸心の狂いが徐々に進行していることを知ることができなかった。
こうして本船は、A受審人ほか11人が乗り組み、セメント3,670トンを積載し、同8年10月16日17時50姫川港を出港して石川県金沢港に向かい、翌17日07時ごろ入港に備えて停止中の1及び3号機が始動され、同時25分サイドスラスタの使用を開始し、主発電機3台を全負荷運転として着岸操船中、主機の使用に伴い、軸心の狂いが進行した1号機ロータ軸が、船体の振動に共振して異常振動したことから、船首側軸受箱の軸受メタルが急速に過熱して焼損し、07時40分大野灯台から真方位127度1,310メートルの地点で、機関制御室で当直中の一等機関士が、同室窓越しに同軸受箱付近から激しく白煙が上がっていることに気付いた。
当時、天候は曇で風力2の北東風が吹き、港内は穏やかであった。
船橋で主機操作にあたっていたA受審人は、一等機関士から1号機異常の連絡を受け、船長の了解を得たうえ船尾サイドスラスタの使用を中止して1号機を停止させた。そして着岸後船首側軸受箱を開放して点検したところ、軸受メタルが焼損し、ロータ軸が軸受箱と接触して円周方向にかき傷を生じていることを認め、同メタルを予備と交換して運転を試みたが、振動が激しく運転を断念した。
本船は、その後のメーカーの調査により、1号機ロータ軸が曲損して修復不可能であることが判明し、使用不能のまま運航を続けて同軸の製造を待ち、翌9年3月入渠工事の際、補機とともに開放して精査した結果、前示損傷のほか回転子が焼損し、ケーシングが熱変形していること等が判明し、ロータ軸か損傷部品をすべて新替えしたうえ、機関台の歪みをライナ調整し、補機との軸心を整合して修理された。

(原因)
本件機関損傷は、機関室中段に設置された主発電機が、機関台の歪みにより軸心に狂いを生じ、金沢港において入港着岸中、主機の運転に伴って船体の振動と共振し、ロータ軸が異常振動したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。






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