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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年3月30日06時00分 日本海西部 2 船舶の要目 船種船名
漁船和福丸 総トン数 18トン 全長 22.66メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 定格出力
380キロワット 回転数 毎分2,030 3 事実の経過 和福丸は、平成元年11月に進水した、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、主機として株式会社小松製作所が製造したEM665A-Aと称するディーゼル機関と油圧クラッチ付減速逆転機を装備していた。 主機は、船首側を1番として6番までシリンダ番号が付けられ、各シリンダヘッドに吸気弁2個、排気弁2個、燃料弁、動弁装置のロッカーアームなどを配置して潤滑油の飛散を防止するために各シリンダヘッド毎にシリンダヘッドカバーで覆っていた。 排気弁は、弁棒がシリンダヘッド内の弁ガイドを貫通し、シリンダヘッド上で同芯の2本のコイルばねとばね受けで閉弁状態で取り付けられ、ロッカーアームで抑えられて開弁するもので、ロッカーアームに潤溝油が供給されていた。 主機の過給機は、排気ガスで駆動されるタービンのロータ軸に、吸気を圧縮するブロワが取り付けられ、同軸中央部を円筒形の軸受で支える構造で、主機の潤滑油が軸受の上部から供給され、軸受両端のロータ軸に潤骨油の漏洩(えい)を防止するシールリングが取り付けられていた。 潤滑油装置は、油だめの潤滑油が潤滑油ポンプで加圧され、潤滑油冷却器と潤滑油こし器を経て潤滑油主管とピストン冷却管に至り、軸受、過給機、ロッカーアーム等の各部で潤滑と冷却を終えたのち再び油だめに戻る流れを構成していた。 ところで、主機は、木造船の主機として2年間使用されたのち和福丸に搭載され、1箇月当たり390時間ほど運転されており、平成6年11月にピストン抜き整備が行われたが、その後の運転で3番及び4番シリンダの排気弁棒と弁ガイドの摩耗が進行して排気ガスがシリンダヘッド上部に吹き出し、同部に付着した排気ガス中の燃焼生成物により潤滑油が短時間で汚損するようになった。 A受審人は、進水時から船長として機関の運転と整備に携わり、潤滑油や潤滑油こし器のフィルタの取替えを定期的に行っていたが、平成9年2月ごろからシリンダヘッドに吹き出す排気ガスがクランク室に回ってオイルミスト管から放出されるようになり、同じころ潤滑油の消費量が増加していることに気付き、また同年3月10日に潤滑油と同こし器のフィルタを取り替えた際に潤滑油の汚れがひどいことを認めたが、近いうちに主機の陸揚げ整備をするのでそれまで大丈夫だろうと思い、鉄工所に依頼して主機の開放整備をすることなく、取替え後も短時間で潤滑油と同こし器が汚損するままに運転を続けた。 和福丸は、A受審人ほか1人が乗り組み、平成9年3月29日15時30分福岡県博多港を発し、18時ごろ沖ノ島北東方約8海里の地点に至って操業を行っているうち、潤滑油の性状が劣化して過給機の軸受とシールリングが異常摩耗し、潤滑油が過給機タービン側及びブロワ側に漏れ、翌30日05時ごろ操業を終了して主機を増速していたところ、油だめの潤滑油液面が低下して潤滑油ポンプがエアを吸い、潤滑油圧力低下の警報が吹鳴したので、同受審人が主機を停止後、潤滑油を標準量まで捕給して主機を再始動した。 こうして、和福丸は、主機を回転数毎分1,600にかけて長崎県美津島町に向かっていたところ、06時00分沖ノ島灯台から真方位297度14.6海里の地点で再び潤滑油圧力低下警報が吹鳴し、煙突から黒煙と潤滑油を吹き出した。 当時、天候は曇で風力3の北西風か吹いていた。 A受審人は、煙突から潤滑油が吹き出しているのを見て機関室に入り、主機を停止して油だめの潤滑油がなくなっているのを認め、運転不能と判断し、僚船に曳(えい)航を依頼した。 和福丸は、長崎県三浦湾漁港に引きつけられ、精査の結果、3番及び4番シリンダの排気弁の弁ばねが折損しており、クランクピンに段付き摩耗が、またシリンダライナに縦傷が、更に吸入ケーシングと接触した過給機のブロワ翼に欠損がそれぞれ生じているのが判り、のち主機が換装された。
(原因) 本件機関損傷は、主機の排気弁と同ガイドの隙間から漏れた排気ガスで潤滑油か急激に汚損する状況になった際、主機の開放整備が不十分で、潤滑油性状が劣化したまま運転が続けられ、主要部の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、定期整備で潤滑油と同こし器を取り替えたときに潤滑油の汚れがひといことに気付いた場合、オイルミスト管から排気ガスが放出するなど異状が見られたのであるから、主要部の潤滑が阻害されることのないよう、直ちに鉄工所に依頼して主機の開放整備を行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、潤滑油と同こし器を定期的に取り替えており、近いうちに主機の陸揚げ整備をするのでそれまで大丈夫だろうと思い、主機の開放整備を行わなかった職務上の過失により、主要部の潤滑油阻害を招き、過給機の軸受、シールリング、クランクピン軸受、クランクピンに異常摩耗を、またシリンダライナに縦傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |