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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年5月23日05時30分 鹿児島県奄美大島東方 2 船舶の要目 船種船名
漁船仁庄丸 総トン数 17トン 登録長 14.99メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力
433キロワット 回転数 毎分1,900 3 事実の経過 仁圧丸は、平成3年4月に進水し、主として九州から南西諸島周辺海域でまぐろ延縄漁業に従事するFRP製漁船で、主機として三菱重工業株式会社が製造したS6A3-MTK型と称するディーゼル機関と油圧クラッチ付逆転減速機を装備し、主機の左舷船首側にベルトで駆動する発電機を備えていた。 主機は、清水冷却方式で、海水による熱交換器を内蔵した清水タンクの冷却水が冷却清水ポンプ(以下「冷却水ポンプ」という。)で加圧され、潤滑油冷却器で潤滑油を冷却したのちシリンダ毎の冷却ジャケットに分かれて各シリンダライナ、シリンダヘッドを冷却し、排気マニフォルドの外周部を冷却しながら再び集合し、バイメタル式のサーモスタットで一部が冷却水ポンプに直接吸引され、残りは清水タンクに戻るようになっていた。また、容量約2リットルの半透明のプラスチック製リザーブタンクが清水タンクとほぼ同じ高さの機関室側壁に置かれ、清水タンクの補給キャップ取付口につながる連絡管を通して予備冷却水が補給されるようになっており、リザーブのタンクの水位を見れば冷却水量の減少を確認できるようになっていた。 また、潤滑油系統は、クランク室底部の油だめに入れられた約90リットルの潤滑油が主機直結の潤骨油ポンプで加圧され、潤滑油こし器、同冷却器を経て各軸受、ピストン、伝動歯車、過給機軸受、冷却水ポンプ軸受等に送られて潤滑及び冷却を行い、再び油だめに戻るもので、潤滑油こし器が目詰まりすると、安全弁が作動してバイパスし、目詰まり警報が吹鳴するようになっていた。また、主機右舷側の中央部のクランク室には、油だめの潤滑油量を点検するために上限及び下限の目盛りが刻まれた検油捧が差し込まれていた。 冷却水ポンプは、主機船首側のプーリにかけたベルトを介して駆動される遠心渦巻ポンプで、ポンプ軸の船首尾端にポンププーリとインペラを取り付けて軸中間部を2個の玉軸受で支持する構造で、潤滑油が給油される軸受部の両端をオイルシールで仕切り、ポンプインペラの船首側をメカニカルシールで密封し、メカニカルシールとオイルシールとの間にドレン穴を設けて冷却水又は潤滑油の漏えいを点検できるようになっていたが、ドレン穴が異物で塞がるとメカニカルシールから漏えいした冷却水がポンプ軸を伝ってクランク室に入るおそれがあった。 仁庄丸は、平成7年9月にA受審人が中古船として購入し、陸岸から100海里以内の海域で1週間程度の操業を行い、同人が主機の潤滑油や潤滑油こし器のフィルタを適宜取り替えるなど、機関の運転管理を行っていたもので、購入前の冷却水の取り替え時期が不明のまま、購入後も冷劫水が取り替えられずに運転されていたところ、いつしか冷却水ポンプのメカニカルシールが摩耗して冷却水が漏えいし始め、同8年5月初旬ごろドレン穴が錆(さび)屑などの異物で塞がり、外部に排出されない冷却水がポンプ軸を伝ってクランク室に入るようになり、潤滑油が乳化し始めた。 A受審人は、同年5月7日に冷却水を補給して出港したのち、翌8日第1回目の投縄後の漂泊中及びその後の操業中にリザーブタンクの水位の低下に気付き、蒸発量が増えたものと考えて減少分を補給しておけば大丈夫と思い、合計4リットルを超える冷却水を補給したが、冷却水ポンプのドレン穴など冷却水の漏えい箇所を点検することなく、また、その間に潤滑油こし器が詰まって目詰まり警報が2度にわたって発生したので同こし器エレメントをその都度取り替えたが、潤滑油に係る異状を不思議に思いながらも油だめの潤滑油量を点検することなく、油だめの量が増加していることに気付かないまま運転を続けた。 A受審人は、操業を終えて水揚げしたのち宮崎港に帰港し、同月17日に油だめの潤滑油を取替えのために全量をくみ出した際、潤滑油の汚れ具合を確認しなかったので乳化していることに気付かず、くみ出した潤滑油のサンプルを採って検査を依頼するなど潤滑油の性状を点検しないまま、新油を標準量まで補給して2日間の休みに入った。 こうして、仁庄丸は、5月20日01時00分A受審人ほか3人が乗り組み、船首1.2メートル船尾2.0メートルの喫水をもって宮崎港を発し、翌21日から奄美大島東方の漁場で操業を開始し、23日05時20分主機を回転数毎分1,300にかけて第3回目の投縄を始めたところ、出港後再び冷却水が入り始めた潤滑油が乳化して主機の潤滑が阻害され、クランクピン軸受のケルメットがクランクピンと焼き付き、過給機ロータ軸受が異常摩耗し、05時30分北緯29度05分東経131度50分の地点で、過給機ブロアがケーシングに接触して異音を発し、煙突から白煙を生じた。 当時、天候は曇で風力1の北西風が吹いていた。 A受審人は、主機を停止して点検したところ、過給機が異状に過熱していることを認めたので、操業を中止して潤滑油量を確認のうえ主機を再始動し、減速運転として帰港した。 仁庄丸は、のち損傷したクランク軸、各軸受、シリンダライナ、過給機冷却水ポンプ等が取り替え修理された。
(原因) 本件機関損傷は、主機の冷却水の補給量が増加し、同時期に潤滑油こし器の目詰まりが頻発した際、冷却水の漏えい箇所の点検と潤滑油量の点検がいずれも不十分で、冷却水ポンプのメカニカルシールからの漏水がクランク室に入り、潤滑油が乳化するまま運転が続けられたことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、主機の冷却水の補給量が増加し、同時期に潤滑油こし器の目詰まりが頻発した場合、冷却水ポンプのドレン穴など冷却水の漏えい箇所を点検すべき注意義務があった。ところが同受審人は、減少分を補給しておけば大丈夫と思い、冷却水の漏えい箇所を点検しなかった職務上の過失により、冷却水がクランク室に入り、潤滑油が乳化して軸受の潤滑阻害を招き、クランク軸、各軸受、過給機等に損傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |