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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年4月18日09時30分 広島県尾道糸崎港第6区三原南方沖合 2 船舶の要目 船種船名
貨物船第五光信丸 総トン数 493トン 金長 49.90メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力
809キロワット 回転数 毎分395 3 事実の経過 第五光信丸は、昭和51年4月に進水した、平水区域を航行区域とする鋼製給水船で、主機として阪神内燃機工業株式会社が製造した6LU-28型と称するディーゼル機関を装備し、各シリンダには船首側を1番として6番までの順番号が付され、操舵室に主機の回転計及び潤滑油圧力計などの各計器並びに冷却水温度上昇及び潤滑油圧力低下の各警報装置が組み込まれた主機遠隔操縦装置を設けていた。 主機の船尾側上部に備えられた過給機は、石川島汎用機械工業株式会社製のVTR-250型と呼称する軸流排気タービン過給機で、その本体が排気入口ケーシング、タービン車室及びブロワケーシングからなっており、主機の1、2及び3番シリンダを1群として伸縮継手を介して同入口ケーシング上側入口へ、同様に4、5及び6番シリンダを1群として伸縮継手を介して同入口ケーシング下側入口へ各シリンダの排気ガスを導き、そこから本体内のタービンノズル及びタービン車室を経て煙突から同ガスを大気に放出するようになっていて、排気通路となる同入口ケーシング及びタービン車室には、冷却水室が設けられ、主機の冷却水が循環するようになっていた。 主機の冷却水系統は、同機直結の冷却海水ポンプにより船底の海水吸入弁から吸引加圧された海水が、潤滑油冷却器及び空気冷却器を順に経て冷却水入口主管に至り、同主管から各シリンダのシリンダジャケット及びシリンダヘッドを冷却するものと、過給機を冷却するものとに分かれ、各部を冷却して冷却水出口集合管で合流したのち、吐出弁から船外へ排出されるようになっていたが、平成6年2月同海水ポンプを取り外して新たに電動の冷却清水ポンプを設け、機関室に近接する容量約175トンの4番右舷貨物タンク内の工業用水を同清水ポンプで吸引加圧して潤滑油冷却器に送水し、主機及び過給機各部を冷却したのち、同集合管の出口側から同タンクに戻るよう清水冷却式に変更された。 ところで、過給機の排気入口ケーシング及びタービン車室は、冷却水による冷却水側壁面の電食や排気ガスによる同ガス側壁面の硫酸腐食の影響を受けて、それぞれのケーシングの水冷壁が衰耗して肉厚が薄くなるので、機関メーカーでは、使用後2年を経過したものについては半年ごとに水冷壁の肉厚を計測し、その肉厚が3ミリメートル以下になっているところが計測されたならば、できるだけ早い機会に交換することを推奨していた。 本船は、昭和63年6月A有限会社が購入したのち、広島県尾道糸崎港第6区三原(以下「三原」という。)を基地として、同県高根島周辺海域で海砂採取に従事する砂利採取運搬船へ海砂を除塩するための工業用水を給水する運航に就いていた。 A受審人は、本船購入時から機関長として乗り組み、機関の運転と保守管理に従事していたもので、過給機については、修理業者に依頼して定期検査工事ごと及び主機の燃焼状態が不良となった際にそれぞれ開放整備を行いながら月間約130時間主機を運転していた。しかしながら、同人は、主機の運転時間が少ないので大丈夫と思い、同業者に指示するなどして、過給機を開放した際に同機ケーシングの水冷壁の肉厚計測をすることなく、主機の運転を続けていたので、長期間継続使用していたタービン車室の水冷壁の腐食が進行して、その肉厚が著しく衰耗するようになり、いつしか水冷壁に破口を生じるおそれのある状況となっていることに気付かないまま、運転を続けていた。 こうして、本船は、A受審人ほか2人が乗り組み、砂利採取運搬船に給水する目的で、工業用水約950トンを載せ、船首4.4メートル船尾4.5メートルの喫水をもって、平成9年4月18日07時00分三原を発し、同時40分高根島西方海域に至って砂利採取運搬船に給水を開始し、09時10分給水を終えて主機を回転数毎分280にかけて帰港中、かねてから肉厚が著しく衰耗して薄くなっていたタービン車室の水冷壁に破口が生じて冷却水が排気ガス側に漏出し、09時30分高根島灯台から真方位019度2海里の地点において、排気ガス色が白変し、主機の回転数が低下した。 当時、天侯は晴で風力1の南南東風が吹き、海上は穏やかであった。 操舵室で見張りに当たっていたA受審人は、主機の異常に気付いて機関室に急行し、直ちに機側操縦ハンドルを操作して主機を止め、各シリンダの指圧器弁を開弁のうえターニングを行ったところ、4番シリンダの同弁から冷却水が噴き出すのを認めて運転不能と判断し、事態を船長に報告した。 本船は、救助を求め、付近を航行していた砂利採取運搬船によって三原に引き付けられ、同地において、過給機を開放して精査した結果、タービン車室の水冷壁上部に直径約3ミリメートルの破口を生じていることが判明し、のち同車室が新替えされた。
(原因) 本件機関損傷は、主機過給機ケーシングの水冷壁の肉厚計測が不十分で、タービン車室の水冷壁が腐食して著しく衰耗したまま使用されていたことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、過給機付主機の保守管理に当たる場合、長期間過給機ケーシングの取替えを行っていなかったから、同ケーシングに破口を生じることのないよう、修理業者に指示するなどして、過給機を開放した際に同ケーシングの水冷壁の肉厚計測をすべき注意義務があった。しかしながら、同人は、主機の運転時間が少ないので大丈夫と思い、過給機を開放した際に同ケーシングの水冷壁の肉厚計測をしなかった職務上の過失により、過給機タービン車室の水冷壁の肉厚が著しく衰耗していることに気付かず、同車室に破口を生じさせ、主機の運転を不能にさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |