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1998年(平成10年)

平成9年神審第86号
    件名
漁船竹内宝幸丸機関損傷事件〔簡易〕

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年11月20日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

山本哲也
    理事官
岸良彬

    受審人
A 職名:竹内宝幸丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
全主軸受メタル、全クランクピンメタル焼損、クランク軸曲損、台板熱変形

    原因
潤滑油管系の点検不十分

    主文
本件機関損傷は、主機始動後の潤滑油管系の点検が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年8月22日10時30分
高知県宇佐漁港
2 船舶の要目
船種船名 漁船竹内宝幸丸
総トン数 19.90トン
登録長 14.95メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 308キロワット(定格出力)
回転数 毎分1,900(定格回転数)
3 事実の経過
竹内宝幸丸は、小型第2種の従業制限を有し、まぐろ延縄(はえなわ)漁業に従事する昭和49年に進水したFRP製漁船で、主機として、同63年に換装して新たに搭載された三菱重工業株式会社製S6A2-MTK型セルモータ始動式のディーゼル機関を備え、操舵室に同機の遠隔操縦装置及び警報装置が設けられていた。
主機の潤滑油系統は、直結の歯車式ポンプによりオイルパンから吸引された循環油量約100リットルの同油が、潤滑油冷却器及び複式こし器を経て入口主管に至り、各部に分岐して主軸受、ピストンピン軸受のほか、調時歯車、動弁装置等を潤滑したのち、いずれもオイルパンに戻って循環するようになっていた。
また、同系統には、主機始動前のプライミングやオイルパンの潤滑油排出の際に使用する手動式のウイングポンプ(以下「プライミングポンプ」という。)を備え、ポンプ出口に取り付けた三方コックの出口管の一方が、逆止弁を介して潤滑油冷却器の入口管に接続され、他方にはビニールホースを取り付け、その先端が床プレート下に導いてあった。
ところで、同コックは、栓の頂面に流路の方向を示すL形の切り込みが刻まれ、専用の切替えレバーは取り付けずにモンキーレンチ等を使用して切り替えられており、小さなコックだったので切替えのとき同栓の位置がずれ、プライミング及び排出の両吐出管が共通となるおそれがあり、コックを操作したのち主機を運転するときは、流路の方向を同切り込みで確認して正しく運転位置としておく必要があった。
本船は、北陸沖合や南洋海域を漁場として1航海20日ないし30日の操業を繰り返し、毎年7月前後に1箇月ばかりの期間を休漁とし、この間に高知県宇佐漁港で船体及び機関の整備を行っていたもので、平成7年7月31日フィリピン諸島東方の漁場から高知県高知港に帰港し、水揚げを終えたのち宇佐漁港に回航されて船体整備が行われ、機関については、過給機の開放整備のみが行われた。
A受審人は、借入金の返済終了時に名義を書き換える契約で、平成5年に本船を購入して船長として乗り組んだ実質的な所有者で、出漁期間中は機関長を雇用して乗り組ませ、機関の取扱いをすべて任せていた。そして、同31日高知港で機関長を下船させ、その後過給機の開放整備を整備業者に依頼して陸揚げし、8月21日同業者が同機を復旧したうえ10分ばかり主機を運転して試運転を行った際、これに立ち会って異常がないことを確認した。
ところでA受審人は、主機始動前のプライミングの重要性や修理業者等が必ずこれを守っていることを知っていたが、自ら主機を始動する機会は少なく、かつ休漁期に短時間運転するだけのことが多かったので、プライミングを行う習慣をつけていなかった。
翌22日早朝A受審人は、数日後に控えた出漁に備えて市場前の岸壁にシフトするため、1人で主機の始動準備に取り掛かり、清水タンクの水量及びオイルパンの潤滑油量を点検したうえ、プライミングをしないまま07時ごろ操舵室で主機を始動した。しかし同人は、冷却水量及び潤滑油量を確認しておけば大丈夫と思い、プライミングポンプの出口コックが正しく運転位置となっているか、あるいは漏洩(ろうえい)箇所がないかなど、運転中の主機潤滑油管系を点検しなかったので、前日業者の操作によるもの力同コックの位置がずれ、たまたまプライミング側の逆止弁がごみをかみ込んでいたため、コック排出側のビニールホースから同油が少量ずつ漏洩していることに気付かなかった。
こうして本船は、A受審人が息子の甲板員と2人で乗り組み、07時15分係留岸壁を離れ、一旦(いったん)港外に出て主機の運転音を確認したのち港内に引き返し、同時40分市場前の岸壁に着岸したうえ、主機のクラッチを切り、バッテリー充電のため停止回転数毎分600で運転を続けたまま、A受審人が甲板上で海水ホースを操作しながら息子とともに魚倉内の掃除に取り掛かったところ、主機の潤滑油が外部に漏洩し続け、やがで潤滑油ポンプが空気を吸引して操舵室の警報装置が作動した。
しばらくして警報音に気付いたA受審人は、操舵室に入って主機潤滑油圧力低下の警報ランプが点灯していることを認め、機側に急行して同機を停止しようとしたとろ、同日10時30分宇佐港萩崎防波堤灯台から真方位305度1,240メートルの地点で、主軸受等が焼き付いて主機が自然に停止した。
当時、天候は曇で風力1の東北東風が吹き、港内は穏やかであった。
A受審人は、主機オイルパンの潤滑油が著しく減少してターニングが重いことから、各部を点検してプライミングポンプ出口コックの位置がずれ、ビルジ溜(たま)まりに多量の潤滑油が流出していることを発見し、整備業者に連絡して主機を同業者の工場に搬入したうえ精査したところ、全主軸受メタル、全クランクピンメタルなどが焼損してクランク軸が曲損していたほか、台板な熱変形していること等が判明し、のち主機は損傷部品をすべて新替えして修理された。

(原因)
本件機関損傷は、主機始動後の潤滑油管系の点検が不十分で、プライミングポンプ出口コックを介して同油が外部に漏洩し続け、各部の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機を始動した場合、潤滑油が外部に漏洩して各部を損傷させることのないよう、プライミングポンプ出口コックの位置や漏洩箇所がないかなど、運転中の同機潤滑油管系を点検すべき注意義務があった。ところが、同人は、冷却水量及び潤滑油量を確認しておけば大丈夫と思い、運転中の主機潤滑油管系を点検しなかった職務上の過失により、同コックを介して同油が外部に漏洩していることに気付かないまま主機の運転を続け、全主軸受メタル、全クランクピンメタル、クランク軸、台板等を損傷させるに至った。






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