日本財団 図書館




1998年(平成10年)

平成10年横審第40号
    件名
漁船第七十八勝栄丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年11月20日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

河本和夫、川原田豊、西村敏和
    理事官
相田尚武

    受審人
A 職名:第七十八勝栄丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
クランク軸全主軸受及びクランクピン軸受など損傷

    原因
原因不明

    主文
本件機関損傷は、主機基準主軸受の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。
    理由
(事実〉
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年5月26日01時30分(日本標準時)
南太平洋
2 船舶の要目
船種船名 漁船第七十八勝栄丸
総トン数 379トン
全長 55.11メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディー機関
出力 735キロワット
回転数 毎分720
3 事実の経過
第七十八勝栄丸は、平成3年1月に進水したまぐろはえ縄漁業に従事する鋼製漁船で、主機として、ヤンマーディーゼル株式会社が製造したT260-ET2型ディーゼル機関を据え付け、シリンダを船首側から順番号で呼称し、推進器として可変ピッチプロペラを装備し、船橋から主機及びプロペラ翼角の遠隔操縦がきるようになっていた。
本船は、ペルー共和国カヤオ港を基地として、同国からハワイ諸島にかけての太平洋で周年操業しており、主機は操業中1日1回投縄終了後、揚縄にかかるまで漂流して約4時間停止するのを除いて燃料A重油使用で連続運転され、年間の運転時間が約7,000時間であった。
主機は、主軸受メタルがケルメットにオーバーレイを施した3層メタルで、取扱説明書で8,000ないし10,000時間運転、または2年毎に点検し、メタルの摩耗によりすき間が過大になったとき、偏摩耗量が0.1ミリメートル(以下「ミリ」という。)以上のとき及び正常摩耗でもしゅう動面面積のオーバーレイが30パーセント以上摩滅しているときは取り替えるように記載されていた。
主機の潤滑油系統は、2重底サンプタンクの潤滑油が呼び径80ミリの潤滑油吸入管(以下、潤滑油系統の機器・管等については「潤滑油」を省略する。)で、吸入側逆止弁及び32メッシュの1次こし器を経て主機直結のポンプで吸引加圧され、吐出側逆止弁、250メッシュの2筒式2次こし器、冷却器、入口主管を経て各主軸受への給油管に分岐し、クランクピン軸受、ピストンピン軸受などを潤滑したのちクランク室底からサンプタンクに落ちるようになっており、その地に直結ポンプの予備として電動の補助ポンプを備え、補助ポンプの吸入側及び吐出側にもそれぞれ逆止弁があった。さらに、サンプタンク内の潤滑油を循環清浄する系統があり、容量毎時350リットルの清浄機が装備されていた。
主機の潤滑油は、保有量が約L1,900リットルで、入口主管において標準で4.5キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)の潤滑油圧力が、2.0キロ以下になると警報装置が作動し、1.5キロで主機が自動的に危急停止するようになっていた。また、清浄機連続運転で側流清浄され、1日当たり約60リットルの新油が補給されており、就航以来更油されずに使用されていた。
本船は、平成5年5月定期検査で静岡県の造船所に上架し、主機整備を施行したが、3及び4番主軸受のみが開放点検され、4番主軸受メタルにキャビテーションが認められたので新替えされた。
A受審人は、同年11月機関長として乗り組んで主機の保守及び運転管理に当たり、主機始動時の習慣として予備電動ポンプを運転し、潤滑油の性状管理については、適宜簡易分析器でアルカリ価や清浄分散性を確認し、2次こし器の入口と出口との差圧が約1箇月で0.5キロとなったとき使用筒を切り替えて掃除を行い、付着するカーボン中に金属粉がないことを確認するなどの管理を行っていたが、主機主要部分の整備については主機製造会社の技師に任せていた。
本船は、同7年6月の中間検査時にも主機の3及び4番両主軸受が開放点検され、やはり4番主軸受メタルにキャビテーションが認められ、さらに、同じく3層メタルが使用された全クランクピン軸受も開放点検され、1、4、5及び6番でメタルに剥(はく)離が認められたのでそれぞれ新替えされたが、7番基準主軸受ほか他の主軸受は使用時間が30,000時間を超えていたにもかかわらず、3番主軸受メタルに異常を認めなかったことから開放点検されずに継続使用された。
こうして、本船は、翌8年2月2日A受審人ほか21人が乗り組み、カヤオ港を発して操業に従事したが主機の7番基準主軸受メタルが長時間使用の疲労によるものか、摩耗限度を超えたものか、いつしか亀裂(きれつ)生じて部分的な剥離が生じる状況となり、その金属粉をかみ込んで同軸受メタルにかき傷を生じ、それが次第に進展していたところ、同年5月26日主機回転数毎分約720として投縄中、7番基準主軸受メタルから生じた金属粉が2次こし器に詰まり、同日01時30分(日本標準時、以下同じ。)南緯8度16分西経120度09分の地点において、同こし器入口圧力6.0キロ及び出口圧力4.5キロとその差圧が異常に増大した。
当時、天候は晴で風力2の東風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、機関室見回り中、2次こし器の差圧が異常に増大しているのに気付き、使用筒を切り替えて掃除を行い、大量の金属粉を認めた。同日03時30分投縄終了後主機を停止して直結ポンプのブッシュを点検したが異常なく、その後も操業を続けながら4番主軸受、さらに全クランクピン軸受を開放点検したがやはり異常なく、翌6月4日7番基準主軸受を開放し、初めて著しい損傷を発見した。
本船は、低速でアメリカ合衆国ホノルル港に向かい、同港にてクランク軸、全主軸受及びクランクピン軸受などが新替え修理された。

(原因に対する考察)
本件は、約40,000時間使用された主機の7番基準主軸受が焼損したもので、同軸受を修理後主機を始動したとき潤滑油圧力低下危急停止が作動したので潤滑油ポンプ吸入逆止弁内部を点検したところ、ウエスが弁体を包むように絡んでいるのが発見されたことから、本件前にも始動時の油量不足か何度か起り、その結果一時的な油膜切れで局部的にデポジットを生じ、徐々に成長して焼損に至ったとの主張がある。
以上の状況を踏まえ、本件の原因について考察する。
1 潤滑油系統のウエスについて
本件発生約1年前の平成7年6月の中間検査時、主機潤滑油サンプタンク内部を掃除しており、同年12月清浄機吸入側逆止弁内にウエスが発見されているところから、サンプタンク内部掃除の際残留したものと認められる。
2 ウエス吸い込みによる潤滑阻害について
(1) 始動時の潤滑油圧力低下
ポンプ吸入側逆止弁にウエスが絡んで逆止機能がない状態であっても、吐出側にも逆止弁があるのでポンプ吸入管内の潤滑油がサンプタンクに落ちることはなく、始動時に圧力低下が生じることはない。A受審人も当廷において、始動時は必ず補助ポンプを運転していることもあり、始動時に潤滑油圧力低下が生じたことはない旨述べている。修理時にはポンプを開放点検しているのでポンプ吸入管内の潤滑油がサンプタンクに落ちたもので、本件発生前の始動時に潤滑油圧力低下が生じていたとは認められない。
(2) 絞り効果による油量不足
本件発生前約3箇月間の潤滑油圧力は、約4.3ないし4.8キロで正常値を示しており、ウエス吸い込みにより油量不足が生じたとは認められない。
(3) ポンプ吸入管を塞いだ場合の油膜切れ
ウエスが、ポンプ吸入側逆止弁に至るまでの間に一時的にポンプ吸入管を閉塞したとすると、油圧低下警報及び危急停止が作動するので直ちに異常が察知される。A受審人も当廷において、そのような事実はなかったと述べているところから、ウエスがポンプ吸入管を閉塞して油膜切れが生じたとは認められない。仮りにポンプ吸入管の閉塞が生じた場合、他の各軸受にも損傷が生じたと考えられる。
よって、ウエス吸い込みによる潤滑阻害が生じたとは認められない。
3 その他の要因による潤滑阻害について
基準主軸受潤滑阻害の要因としては、
(1) 主機軸係の心出し不良
(2) 摩耗によるすき間の過大、または偏摩耗の過大
(3) 疲労による亀裂や剥離
(4) オーバーレイの摩滅
(5) 潤滑油の劣化、または不純物の噛み込み
(6) その他
が挙げられるが、いずれかを特定することはできなかった。
以上を総合すると、基準主軸受の潤滑阻害による焼損という本件結果に対し、ポンプ吸入逆止弁へのウエス吸い込みという事実があったことは認められるがウエス吸い込み、または、その他の要因によって潤滑が阻害されたと特定することができず、従って本件発生の原因を明らかにするに至らない。

(原因)
本件機関損傷は、主機基準主軸受の潤滑が阻害されたことによって発生したが、潤滑が阻害された要因を特定することができず、従って原因を明らかにすることができない。

(受審人の所為)
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION