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1998年(平成10年)

平成10年仙審第13号
    件名
漁船第十二漁運丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年11月26日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

安藤周二、供田仁男、今泉豊光
    理事官
小野寺哲郎

    受審人
A 職名:第十二漁運丸機関長 海技免状:四級海技止(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
タービンロータ、ブロワ翼及びベアリングケース等損傷

    原因
主機付過給機の潤滑油圧力の点検不十分

    主文
本件機関損傷は、主機付過給機の潤滑油圧力の点検が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年7月23日09時40分
青森県八戸港東方沖
2 船舶の要目
船種船名 漁船第十二漁運丸
総トン数 138トン
全長 38.39メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 588キロワット
回転数 毎分350
3 事実の経過
第十二漁運丸(以下「漁運丸」という。)は、いか一本釣り漁業に従事する鋼製漁船で、主機として株式会社新潟鉄工所か製造した6M26AFTE型ディーゼル機関を備え、主機架構の船尾側上部に同社製造のニイガタ・M.A.N.-B&WNR20/R型排気タービン過給機(以下「過給機」という。)を付設していた。
過給機は、排気ガスがノズルリングの外周側から半径方向に噴射されてタービンロータを回転させる構造で、同ロータの軸中央部がベアリングケースのタービン側とブロワ側とにそれぞれ1個ずつ装着された浮動スリーブ式平軸受によって支えられ、両軸受メタルがスラストリングを挟んで取り付けられていて、主機システム油系統の潤滑油が同メタルの内及び外周面を潤滑するようになっていた。同潤滑油は、主機の台板下部に内蔵された潤滑油主管の後端の継手部から長さ約1.5メートル、呼び径8ミリメートルの鋼管(以下「潤滑油枝管」という。)に分岐して同軸受の上部の潤滑油入口に導かれたのち、その下部の同出口を経て主機油だめに戻るように配管されており、潤滑油主管の油の圧力が平素約4キログラム毎平方センチメートル(以下、圧力の単位を「キロ」という。)であるのに対し、潤滑油枝管に設けられた調圧弁が過給機の油の常用圧力を約1.9キロとするように作動していた。また、潤滑油主管及び過給機用の各潤滑油圧力計を機関室の計器盤に装備し、過給機の潤滑油圧力の最低許容値が1.1キロと取扱説明書に記載されていたものの、同機の潤滑油圧力低下警報装置を備えていなかった。
ところで、潤滑油枝管は、平成8年4月に業者により主機のシリンダヘッド等の定期整備が実施された際、システム油系統に混入したカーボン等の異物が内部に付着していたが、運転時に過給機の潤滑油圧力が特に低下していなかったことから、異物の除去が行われないまま、その後油路が次第に狭められる状況となっていた。
A受審人は、同年5月7日に漁運丸の機関長として乗り組み、機関の運転及び保守管理にあたり、翌8日に地毎道函館港を出港したのち、青森果八戸港沖の漁場における操業に従事した。
漁運丸は、八戸港に入港して漁獲物の水揚げを終え、A受審人ほか4人が乗り組み、次の操業の目的で、船首1.8メートル船尾40メートルの喫水をもって、同年7月9日12時00分同港を発し、同港東方沖の漁場に至り、操業を繰り返していたところ、越えて23日朝主機を回転数毎分290の半速力にかけて8.0ノットの対地速力で航行しながら魚群探索中、潤滑油枝管に付着する異物が増加して過給機に供給される潤滑油量が減少し、同機の潤滑油圧力が低下する状態となった。
しかし、A受審人は、同日09時に機関室の見回りを行ったとき、主機の潤滑油主管の潤滑油圧力が安定しているから、過給機の運転には差し支えないものと思い、同機の潤滑油圧力を十分に点検しなかったので、同圧力が常用圧力以下に低下していることに気付かず、潤滑油枝管の掃除等を行わなかった。
こうして、漁運丸は、主機の運転がそのまま続けられているうち、過給機の潤滑油圧力が更に低下し、同機の軸受メタルが潤滑不良となって焼き付き、09時40分陸奥塩釜灯台から真方位096度19.8海里の地点において、タービンロータの軸心が偏移して振動を生じ、煙突から白煙を噴出した。
当時、天候は曇で風力2の北東風が吹き、海上は隠やかであった。
A受審人は、船尾甲板でいか釣り機を点検中、煙突の白煙の噴出を見て機関室に赴き、過給機の濫滑油圧力が著しく低下しているのを認め、主機を停止したのち、無過給とする措置をとらないまま、運転の継続を断念し、その旨を船長に報告した。
漁運丸は、僚船により八戸港に曳航され、過給機を精査した結果、タービンロータ、ブロワ翼及びベアリングケース等の損傷が判明し、各損傷部品を新替えした。

(原因)
本件機関損傷は、過給機の潤滑油圧力の点検が不十分で、潤溜油枝管に異物が付着して同圧力の低下したまま運転が続けられ、同機の軸受が潤滑不良となったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、潤滑油が主機システム油系統から供給される過給機の運転及び保守管理にあたる場合、同油系統に混入したカーボン等の異物が潤滑油枝管に付着すると同機の潤滑油圧力が低下して潤滑不良となるおそれがあったから、機関室の見回り時などに同圧力を十分に点検べき注意義務があった。しかるに、同人は、主機の潤滑油主管の潤滑油圧力が安定しているから、過給機の連転には差し支えないものと思い、同機の潤滑油圧力を十分に点検しなかった職務上の過失により、潤滑油枝管に異物が付着して同圧力が低下したまま運転を続け、潤滑不良となっ軸受メタルの焼付きを招き、タービンロータ、ブロワ翼及びベアリングケース等の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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