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1998年(平成10年)

平成10年仙審第6号
    件名
漁船第五十三龍房丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年11月19日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

安藤周二、供田仁男、今泉豊光
    理事官
小野寺哲郎

    受審人
A 職名:第五十三龍房丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
ロータ軸、ブロワ車室、タービン側玉軸受及び排気入口囲等損傷

    原因
主機付過給機軸受室の潤滑油量の点検不十分

    主文
本件機関損傷は、主機付過給機軸受室の潤滑油量の点検が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年11月5日14時20分
宮城県金華山南方沖
2 船舶の要目
船種船名 漁船第五十三龍房丸
総トン数 65トン
全長 31.03メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 698キロワット
回転数 毎分370
3 事実の経過
第五十三龍房丸(以下「龍房丸」という。)は、昭和62年5月に進水し沖合底びき網漁業に従事する鋼製漁船で、司変ピッチプロペラを装備し、主機として株式会社赤阪鐡工所(以下「赤阪鐡工所」という。)が製造したK26SFD型ディーゼル機関を備え、主機架構の船尾側上部に石川島汎用機械株式会社製造のVTR201-2型俳気ガスタービン過給機(以下「過給機」という。)を付設していた。
過給機は、排気入口囲、タービン車室及びブロワ車室等から成り、軸流式タービンと連心式ブロワとを結合したロータ軸がタービン側軸受室の単列玉軸受とブロワ側軸受室の推力軸受を兼ねた複列玉軸受とによって支持されており、各軸受室の下部に合わせて約0.8リットルの潤滑油が入れられ、同油がロータ軸と共に回転する円板ポンプでかき上げられて各玉軸受に注油されていた。
ところで、過給機は、軸受室の油面計として径40ミリメートルの油面ガラス、その内側に重ねられた皿形の透視板及びリングナットを各軸受室側面の軸受ふたの2箇所の開口部にそれぞれ装着していた。同油面計は、潤滑注量の上限及び下限を示す円形の溝が油面ガラスの中央部に刻まれており、耐油ゴム製のパッキンを軸受ふた、透視板、油面ガラス及びリングナットの各接合部にそれぞれ挿入して油密の構造とし、同ナットが専用工具で締め付けられていた。
A受審人は、平成5年7月に龍房丸の機関長として乗り組み、機関の運転及び保守管理にあたり、同8年7月に禁漁期を利用して業者により過給機の玉軸受を交喚するなどの定期整備を実施した際、軸受室の油面計のパッキンが長期間使用されていたものの、特に漏油のなかったことから、同パッキンの取替えが行われないままに同機が復旧され、越えて9月1日に出漁を再開した。同人は、翌10月25日にブロワ側軸受室の油面計のうち一つからパッキンの経年衰耗により潤滑油がわずかに漏えいしているのを認めたが、リングナットの専用工具を船内に備えていなかったことから、取りあえず補給を兼ねてブロワ側軸受室の油をタービン側軸受室の油と共に新油と取り替えたのち、そのまま過給機の運転を続けた。
龍房丸は、A受審人ほか6人が乗り組んで操業を繰り返し、宮城県石巻港に入港して漁獲物の水揚げを終え、次の操業の目的で、同年11月5日未明に同港を出港することとなった。
A受審人は、機関用意のため、機関室に赴いて主機を始動したが、油面計のパッキン部からの漏油量がわずかなことから、過給機の運転には差し支えないものと思い、ブロワ側軸受室の潤滑油量を十分に点検しなかったので、同油量が減少して下限の状態となっているのに気付かず、同軸受室に潤滑油の補給を行わなかった。
こうして、龍房丸は、船首2.3メートル船尾3.8メートルの喫水をもって、同日02時30分同港を発し、金華山南方沖の漁場に至って操業を開始し、13時50分から主機を回転数毎分370にかけ、プロペラ翼角を微速力前進と中立との交互に変化させて航行しながら曳網中、ブロワ側軸受室の潤滑油量が更に減少して不足し、ブロワ側玉軸受が潤滑不良となって焼付き破損し、14時20分金華山灯台から真方位163度19海里の地点において、主機の給気が不足し、煙突から黒煙を噴出した。
当時、天候は雨で風力3の南風が吹き、海上には少し波があった。
A受審人は、船首甲板で曳網作業に従事中、煙突の黒煙を見て機関室に急行し、過給機が異音を発しているのに気付いて主機を停止し、過給機のブロワ側軸授室の潤滑油がほぼ失われていたうえロータ軸が固着しているのを認め、無過給とする描置をとらないまま、主機の運転の継続を断念し、その旨を船長に報告した。
龍房丸は、僚船により石巻港に曳航され、過給機を精査した結果、ロータ軸ブロワ車室タービン側玉軸受及び排気入口囲等の損傷が判明し、各損傷部品を新替えした。

(原因)
本件機関損傷は、過給機ブロワ側軸受室の潤滑油量の点検が不十分で、同軸受室の油面計のパッキン部から漏油して油量の不足したまま運転が続けられ同軸受が潤滑不良となったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、過給機の運転及び保守管理にあたる場合、ブロワ側軸受室に潤滑油の補給を適宜行うよう、主機の始動時などに同軸受室の潤滑油量を十分に点検すべき注意義務があった。しかるに、同人は、油面計のパッキン部からの漏油量がわずかなことから、過給機の運転には差し支えないものと思い、同軸受室の潤滑油量を十分に点検しなかった職務上の過失により、油量不足から潤滑不良となって同軸受の焼付け破損を招き、ロータ軸、ブロワ車室、タービン側玉軸受及び排気入口囲等の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては海難審判法4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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