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1998年(平成10年)

平成9年仙審第91号
    件名
漁船第十明神丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年11月11日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

安藤周二、高橋昭雄、今泉豊光
    理事官
小野寺哲郎

    受審人
A 職名:第十明神丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
6番シリンダの燃料噴射ポンプのタペットローラ及び排気弁等の損傷

    原因
主機の過負荷運転を防止する措置不十分

    主文
本件機関損傷は、主機の過負荷運転を防止する措置が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年10月10日18時50分
宮城具金華山南東方沖
2 船舶の要目
船種船名 漁船第十明神丸
総トン数 172トン
登録長 32.63メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 595キロワット
回転数 毎分350
3 事実の経過
第第十明神丸(以下「明神丸」という。)は、昭和58年3月に進水した鋼製漁船で、司変ピッチプロペラ推進装置を有し、主機として阪神内燃機工業株式会社が製造した6LUD26型ディーゼル機関を備え、船橋に主機遠隔操縦装置及び同プロペラ翼角遠隔変節制御装置を装備していた。
主機は、定格出力882キロワット及び同回転数毎分400(以下、回転数は毎分のものを示す。)の原機に負荷制限装置を付設して計画出力595キロワット及び同回転数350としたもので、同装置には封印がなされていたが、就航後に同封印が解除されていた。また、主機は、各シリンダに船首側を1番として6番までの順番号が付されており、クランク軸の動力が船尾側の調時歯車装置を介してカム軸に伝達され、同軸と共に回転する燃料カムがタペットローラを突き上げてボッシュ式の燃料噴射ポンプを駆動していた。
ところで、主機のカム軸は、長さ2,841ミリメートル、カム嵌入部の軸径66ミリメートルの鍛鋼製軸で、各シリンダごと船首側から順に排気、燃料及び吸気の各カムがそれぞれ嵌入されていたが、燃料カムが燃料噴射ポンプを駆動する際、各シリンダのうち6番シリンダの燃料カム嵌入部付近に最も応力を生じる構造となっていた。
A受審人は、平成7年8月14日に明神丸が定期検査を受検したのち、越えて17日に同船の機関長として乗り組み、さんま棒受網漁業の操業に従事し、主機の運転及び保守管理にあたり、全速力前進の航行の際に主機の回転数380及びプロペラ翼角18度までとするように漁労長に申し入れ、負荷制限装置の封印が解除された状態としたまま主機の運転を続け、平成7年12月15日に同漁業の漁期を終えて下船した。
A受審人は、翌8年8月9日に及び明神丸の機関長として乗り組み、さんま棒受網漁業の操業に従事したところ、前年の漁労長が交替していて、全速力前進の航行の際に主機が回転数420の過負荷運転となっていたが水揚げを増すことばかりにとらわれ、負荷制限装置の燃料最大噴射量制限を設定するなどして過負荷運転防止の措置をとることなく、同装置をそのままとしていた。そして、主機は、過負荷運転が続けられているうち、燃料噴射ポンプを駆動する際に生じた過大な応力がカム軸の6番シリンダの燃料カム嵌入部後端に繰り返して集中し、同軸の材料が次第に疲労した。
こうして、明神丸は、A受審人ほか17人が乗り組み、操業の目的で、同年10月9日16時00分岩手県釜石港を発し、同港沖に達して操業を行ったのち、金華山南東方沖の漁場に至って漂泊し、翌10日15時30分に主機を始動して回転数400にかけ、プロペラ翼角18度として10ノットの対地速力で航行しながら魚群探索中、18時50分金華山灯台から真方位110度24海里の地点において、カム軸が材料の疲労破壊により6番シリンダの燃料カム嵌入部後端で折損し、主機が異音を発して停止した。
当時、天侯は晴で風力3の西北西風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、船尾甲板で操業の待機中に異音に気付き、機関室に急行して主機の各部を点検し、カム軸が折損しているのを認めて運転を断念した。
明神丸は、僚船により宮城県石巻港に曳航され、主機が精査された結果、6番シリンダの燃料噴射ポンプのタペットローラ及び排気弁等の損傷が判明し、各損傷部品が取り替えられた。

(原因)
本件機関損傷は、主機の過負荷運転を防止する措置が不十分で、過負荷運転が続けられ、過大な応力がカム軸の燃料カム嵌入部に繰り返して集中し、同軸の材料が疲労したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、負荷制限装置を付設した主機の運転及び保守管理にあたる場合、過負荷運転が続けられると損傷を発生するおそれがあったから、負荷制限装置の燃料最大噴射量制限を設定するなどして過負荷運転防止の措置をとるべき注意義務があった。
しかるに、同人は、水揚げを増すことばかりにとらわれ、主機の過負荷運転防止の措置をとらなかった職務上の過失により、過負荷運転が続けられてカム軸の材料の疲労破壊を招き、燃料噴射ポンプのタペットローラ及び排気弁等の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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