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1998年(平成10年)

平成10年函審第42号
    件名
漁船第二十八大忠丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年11月6日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大山繁樹、米田裕、古川隆一
    理事官
里憲

    受審人
A 職名:第二十八丸忠丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
タービン翼車、ブロワ翼など損傷、タービンケーシングなど亀裂、のち過給機を新替え

    原因
主機動弁装置の点検不十分

    主文
本件機関損傷は、主機動弁装置の点検が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年6月28日22時55分
北海道稚内港沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十八大忠丸
総トン数 160トン
全長 38.12メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,471キロワット
回転数 毎分720
3 事実の経過
第二十八大忠丸(以下「大忠丸」という。)は、平成元年12月に進水した沖合底びき網漁業に従事する鋼製漁船で、10月から翌年6月までを操業期間として年間約2,300時間稼動していた。
主機は、株式会社赤阪鐵工所が製造した6U28型と呼称するディーゼル機関で、燃料油としてA重油を使用し、主機の船尾側上部には、石川島汎用機械株式会社製のVTR254-11型排気ガスタービン過給機を備えており、また、推進器は可変ピッチプロペラで、船橋からプロペラ翼角の制御ができるようになっていた。
主機の吸排気弁は、4弁式で、シリンダヘッドの右舷側船首尾に配置した排気弁は、2弁とも1本のY字型ロッカーアームによって開弁されるが、同ヘッドの左舷側船首尾に配置した吸気弁は、各弁が、共通のロッカーアーム軸にキー止めされた別々のロッカーアームによって開弁され、プッシュロッドが船首側のロッカーアームを駆動し、ロッカーアーム軸を介して船尾側のロッカーアームを駆動するようになっていた。
A受審人は、就航以来機関長として乗り組み、深夜出漁して翌日の昼に帰港する操業を繰り返し、7月から9月の休漁期間中に定期的な機関整備を行っていたもので、主機の動弁装置については、平成7年9月の中間検査工事において全シリンダのシリンダヘッドを陸湯げし、吸排気弁などを整備して翌10月から操業を開始し、また、同年12月末に機関部乗組員とともにそれらの弁の弁頭と弁腕先端との隙間を調整するなどしてその後の操業に従事していたところ、最船尾側に位置する6番シリンダの船尾側吸気弁用ロッカーアームのキーが緩み出し、次第にキー溝とキーとの間の隙間が大きくなるとともに同弁頭部が叩(たた)かれて偏摩耗し、やがて同弁の開度が不足して吸気が不足するようになった。
ところが、A受審人は、主機の動弁装置について、弁頭部の隙間調整を年に2回行っているので大丈夫と思い、前示の平成7年12月末の隙間調整以降、主機停止中にシリンダヘッドカバーを外して、吸排気弁の弁頭部の隙間を計測したり、綬みなどがないかどうかロッカーアームを手で揺すって見たりすることや、無負荷運転時に運転音を聴くなどの定期的な点検を行わなかったので、6番シリンダの動弁装置が前示の状態になっていることに気付かず、操業を繰り返しているうちに、同シリンダは、吸気不足が更に進んで燃焼不良状態となった。
こうして、大忠丸は、A受審人ほか18人が乗り組み、操業の目的で、同8年6月28日22時35分北海道稚内港第一副港岸壁を発し、徐々に増速しながら港内を進行したところ、出港前の無負荷運転中及び出港後の低負荷運転中に、6番シリンダ内において吸気不足による不完全燃焼のため未燃焼の燃料油が、排気管及び過給機へ流入してこれらに付着し、稚内港の北副防波堤を左舷側に替わして主機を回転数毎分720、翼角を19.5度の全速力で航行中、排気温度の上昇に伴い排気管及び過給機内に付着した多量の未燃焼の燃料油が発火温度に達して爆発的に燃焼し、22時55分稚内港北副防波堤東灯台から真方位337度1.3海里の地点において、過給機が過回転を生じるとともにロータ軸の推力が過大となり、回転部分がブロワケーシングなどに接触して大音響を発し、煙突から火炎が噴き出した。
当時、天候は曇で風力5の南西風が吹き、海上にはやや波があった。
機関室当直中のA受審人は、直ちに主機の操縦場所を船橋から機関室に移して主機を停止し、過給機を調査したところ、ブロワ側の軸受箱が破損し、ブロワケーシングに亀(き)裂が発生しているのを認め、運転継続不能と判断してその旨を船長に報告した。
大忠丸は、救助を求め、来援した僚船及び引船に曵(えい)航されて前示岸壁に係留し、修理業者が開放点検した結果、タービン翼車、ブロワ翼などが損傷しているほか、タービンケーシングなどにも亀裂が生じており、のち過給機を新替えした。

(原因)
本件機関損傷は、主機動弁装置の点検が不十分で、6番シリンダ吸気弁用ロッカーアームのキーの緩みから吸気不足により燃焼不良のまま運転が続けられ、出港前の無負荷運転中及び出港後の低負荷運転中、燃焼不良によって生じた未燃焼の燃料油が排気管及び過給機内に付着し、全速力運転となったとき、同燃料油が爆発的に燃焼して過給機が過回転などを生じたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機の運転保守に当たる場合、吸気弁用ロッカーアームのキーが緩むと燃焼不良などを生じるから、動弁装置の異状を早期に発見できるよう、ロッカーアームを手で揺するなどして動弁装置を定期的に点検すべき注意義務があった。しかるに、同人は、吸排気弁の弁頭部の隙間調整を年2回行っているので大丈夫と思い、ロッカーアームを手で揺するなどして動弁装置を定期的に点検しなかった職務上の過失により、吸気弁用ロッカーアームのキーの緩みから吸気不足による燃焼不良を招き、排気管及び過給機内に付着した未燃焼の燃料油が爆発的に燃焼して過給機を損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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