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1998年(平成10年)

平成10年門審第44号
    件名
漁船第五海幸丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年10月6日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

吉川進、伊藤實、西山烝一
    理事官
内山欽郎

    受審人
A 職名:第五海幸丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
主機の2番クランクピンと連接棒大端部変形、3番主軸受ジャーナル部焼損、同軸受台変形、のち主機換装

    原因
主機潤滑油ポンプの開放整備不十分

    主文
本件機関損傷は、主機潤滑油ポンプの開放整備が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年7月11日20時00分
日本海西部
2 船舶の要目
船種船名 漁船第五海幸丸
総トン数 18トン
全長 21.50メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 481キロワット(計画出力)
回転数 毎分1,940
3 事実の経過
第五海幸丸(以下「海幸丸」という。)は、平成元年2月に進水し、日本海西部でいか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、主機として株式会社小松製作所が製造したEM679A-A型と称するディーゼル機関と油圧クラッチ付逆転減速機を装備し、主機の右舷側に主機がベルトを介して駆動する交流発電機を備えていた。
主機は、一体型のシリンダブロックとクランク室の下部に主軸受を吊り下げたハンガー軸受型で、船首側を1番として6番まで気筒番号が付けられ、連接棒の大端部がそれぞれ2本のクランクボルトで締めつけられる水平分割型になっており、シリンダブロック下部の油だめに潤滑油ポンプと吸入管、吐出管を取り付けていた。
潤滑油装置は、油だめの潤滑油が機関駆動の潤滑油ポンプで吸引・加圧され、潤滑油冷却器と潤滑油こし器を経て潤滑油主管とピストン冷却管に至り、それぞれ潤滑と冷却を終えたのち再び油だめに戻る流れで構成され、同主管から7個の主軸受に入り、一部はクランク軸内を通って各気筒のクランクピン軸受へ、更に連接捧内を通ってピストンピンに給油されるほか、燃料噴射ポンプ、動弁装置、過給機などに給油され、一方ピストン冷却管を経て各気筒毎に冷却ノズルからピストン下部に噴出するようになっていた。また、潤滑油こし器は、カートリッジ式フィルタ2個を並列にしたもので、汚損して目詰まりしたときに出入口の差圧が2.0キログラム毎平方センチメートルになるとバイパスする安全弁が取り付けられていた。
主機の警報は、冷却水タンク水面の低下や充電電流低下のほか、潤滑油主管の圧力が約0.5キログラム毎平方センチメートルに低下したとき及び潤滑油こし器の安全弁が作動したときにそれぞれ船橋の計器盤上で赤ランプとブザーが発せられるようになっていた。
ところで、潤滑油ポンプ出口の吐出管は、ポンプ出入口ふたに金具でボルト締めされるいんろう継手で挿入され、Oリングでシールされていたが、挿入部が機関の振動で互いに擦れ合うかして、経年の変化で磨耗が進行して隙(すき)間からの漏(ろう)洩が増加し、潤滑油圧力が徐々に低下していた。
A受審人は、海幸丸の建造当初から船長として機関の運転と整備管理に当たり、月当たり300時間ほどの運転時間に対して、潤滑油と同こし器フィルタについては定期的に取替えを行っていたところ、運転中の潤滑油圧力が徐々に低下し、平成8年4月ごろからこれが顕著になり、潤滑油こし器を取り替えてもほとんど潤滑油圧力が回復しなくなったが、潤滑油圧力及びこし器目詰まりの警報が吹鳴しなかったうえそれまで問題が生じなかったので大丈夫と思い、鉄工所に依頼するなどして潤滑油ポンプを開放整備することなく、同年7月8日に潤滑油と同こし器フィルタを取り替えたあとも潤滑油圧力が低下したままで運転を続けた。
海幸丸は、同月11日15時00分A受審人ほか1人が乗り組み、船首0.8メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、長崎県下県郡豊玉町の定係地を発し、19時35分ごろ響灘北方の漁場に着いて主機を回転数毎分1,800にして発電機駆動とし、配電盤での負荷接続が行われるうち、潤滑油圧力の低下で潤滑が阻害され、主軸受とクランクピン軸受が異常摩耗して裏金が露出し、主機のオイルミスト放出管から白煙が噴出し、異状を知らされたA受審人が配電盤で集魚灯といか釣機のスイッチを切る操作をしていたところ、20時00分沖ノ島灯台から真方位055度9.8海里の地点で2番クランクピがクランクピンと金属接触して赤熱状態になり、間近のクランクボルトが加熱されて強度が低下して切損し、開放された連接棒大端部が回転してきたクランクピンに叩かれ、更にその反動で大端部がシリンダライナとシリンダブロックを破損し、主機が停止した。
当時、天候は曇で風力1の北北西風が吹いていた。
A受審人は、直ちに機関室に入って点検し、主機のシリンダブロックに破口を生じているのを認めて運転不能と判断し、僚船に曵(えい)航を依頼した。
海幸丸は、精査の結果、主機の2番クランクピンと連接棒大端部が変形し、また3番主軸受か連れ回りして同ジャーナル部が焼損していたほか、同軸受台も変形していることが分かり、のち主機が換装された。

(原因)
本件機関損傷は、潤滑油こし器の取替え後もほとんど潤滑油圧力が回復しなくなった際、主機潤滑油ポンプの開放整備が不十分で、同ポン力仕出管のいんろう継手部分が機関の振動で摩耗し、潤滑油圧力が低下したまま運転が続けられ、潤滑が阻害されて軸受が異常摩耗したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機の運転管理に当たり、潤滑油こし器の取替え後もほとんど潤滑油圧力が回復しなくなった場合、軸受の潤滑が適切に保たれるよう、鉄工所に依頼するなど潤滑油ポンプを開放整備すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、潤滑油と同こし器フィルタを定期的に取り替え、潤溝油圧力及びこし器目詰まりの警報が吹鳴しなかったうえそれまで問題が生じなかったので大丈夫と思い、潤滑油ポンプを開放整備しなかった職務上の過失により、潤滑油圧カが低下したままの運転で軸受の異常摩耗を沼き、2番クランクピン軸受が赤熱して間近のクランクボルトの切損とクランクピンの変形、更にシリンダプロックの破損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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