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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年5月11日22時00分 隠岐諸島島後北西方沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船金比羅丸 総トン数 19トン 全長 23.50メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力
404キロワット 回転数 毎分1,850 3 事実の経過 金比羅丸は、平成2年7月に進水した、いか一本釣り漁業に従事する1層甲板中央船橋型のFRP製漁船で、主機として昭和情機工業株式会社が製造した6LAH-ST型と称するディーゼル機関を装備し、操舵室に主機の回転計及び潤滑油圧力計などが組み込まれた計器盤、警報装置及び遠隔操縦装置を設けていた。 金比羅丸は、船体中央部船尾寄りに機関室を配置し、同室には、中央部に主機、同機の動力取出軸の右舷側に舵機用油圧ポンプ、同取出軸の左舷側に容量3キロワットの充電用発電機、同取出軸の前部に交流電圧220ボルト、容量250キロボルトアンペアの集魚灯用交流発電機、同発電機の左舷側に甲板洗浄用海水ポンプ(以下「海水ポンプ」という。)、同室の前部隔壁中央に蓄電池5個、その左舷側に予備の集魚灯用安定器などがそれぞれ備えられていた。 海水ポンプは、蓄電池を電源とする直流電圧24ボルトの全閉防沫(まつ)形遠心式ポンプで、主機の直結冷却海水ポンプ吸入側に至る海水吸入管から分岐した枝管により吸引した海水を加圧し、機関室左舷側前部の外板に沿ってほぼ垂直に配管された外径25ミリメートル(以下「ミリ」という。)のステンレス製出口管を経て操舵室左舷側の甲板上に設けられた出口弁に送水するようになっており、海水ポンプ吐出口と出口管との間に接続用ゴムホース(以下「ゴムホース」という。)が使用されていた。また、海水ポンプは、同ポンプ上方の外板に取り付けられたノーヒューズブレーカーを投入し、操舵室左舷側出入口近くの同室外壁に設けられた遠隔始動押しボタンスイッチで発停が行われるようになっており、操業中、釣り上げたいか及び甲板を洗浄するために連続運転されていた。 ところで、ゴムホースは、外径30ミリ内径25ミリ長さ約1.3メートルのもので、その両端がそれぞれ1個のホースバンドで固定されていたが出口管との接続部近くには振動防止のための振れ止め金具などが施されていなかったうえ、経年劣化で硬化気味となっていたことから、主機の振動の影響を受けるなどして、同バンド周辺が疲労しやすい状況にあった。 A受審人は、進水時から船長として乗り組み、機関の運転及び整備にもあたり、長崎県勝本港を基地として、五島列島周辺から石川県沖合の日本海の漁場において操業を繰り返し、鳥取県境港、兵庫県香住港及び石川県金沢港などで釣り上げたいかを水揚げする操業形態をとり、月間に25日ばかり操業に従事していた。 金比羅丸は、A受審人ほか3人が乗り組み、いか一本釣り漁を行う目的で、船首0.7メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、同9年5月10日18時00分勝本港を発し、翌11日18時30分隠岐諸島島後北西方沖合の漁場に至り、クラッチを中立としてシーアンカーを投入し、集魚灯用交流発電機を駆動するため主機を回転数毎分1,800にかけ、全ての集魚灯を点灯して操業を開始したのち、海水ポンプの遠隔始動押しボタンスイッチが投入された。 同日19時30分ごろ操業に従事していたA受審人は、出港以来機関室の見回りを行っていなかったので、主機やビルジだめなどを点検するため同室に赴いたところ、ゴムホースの上部ホースバンド下側辺りから海水が多量に漏れ出ているのを発見し、直ちにノーヒューズブレーカーを切って海水ポンプを停止させ、同バンドを緩めてゴムホース上方端を出口管から取り外して点検し、同バンドが取り付けられていた周辺のゴムホースの表面にひび割れが生じており、その一部に海水側まで貫通する亀(き)裂が生じているのを認め、ゴムホースの長さに余り余裕がなかったので、亀裂を生じていた辺りのゴムホース先端部を包丁で切り落とし、同バンドを締め付けて復旧した。しかしながら、同人は、ゴムホースの亀裂部を除去したので大丈夫と思い、海水ポンプを運転したうえで、ゴムホース復旧後の通水状態を点検することなく、ゴムホースに亀裂の一部が残存していて、これが次第に進展するおそれのあることに気付かず、そのうえゴムホースに亀裂が生じて海水が漏れ出たことなどを乗組員の誰にも連絡しないまま、同ブレーカーを入れて直ぐ操舵室で休息したので、間もなくして、操業に従事していた乗組員が釣り上げたいか及び甲板を洗浄するため遠隔始動押しボタンスイッチを投入して海水ポンプの運転を再開した。 こうして、金比羅丸は、機関室を無人のまま操業が続けられているうち、ゴムホースに残存していた亀裂が次第に進展し、海水が噴出して海水ポンプ周辺の電気機器に降りかかり、22時00分隠岐福浦埼灯台から真方位295度17海里の地点において、集魚灯用交流発電機が焼損した。 当時、天候は晴で風力1の北西風が吹き、海上は隠やかであった。 操舵室で休息していたA受審人は、主機の運転音の変化で目覚め、全ての集魚灯が消灯しているのに気付き、同室で集魚灯の電源スイッチを投入しても点灯しないことから機関室に急行したところ、集魚灯用交流発電機の周囲から発煙しているのを認め、操舵室に戻って主機を停止し、しばらくして機関室各部を点検したところ、同発電機ケーシングに海水がかかっていて、集魚灯を点灯することができないため、操業不能と判断して最寄りの島根県浜田港に向かった。 金比羅丸は、浜田港において、修理業者により海水ポンプ周辺の電気機器を点倹した結果、前示焼損のほか、充電用発電機及び予備の集魚灯用安定器にぬれ損を生じていることが判明し、のち修理された。
(原因) 本件機関損傷は、海水ポンプ出口管のゴムホースに亀裂が生じて修理を行った際、ゴムホース復旧後の通水状態についての点検が不十分で、残存していた亀裂が進展し、噴出した海水が集魚灯用交流発電機などの電気機器に降りかかったことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、海水ポンプ出口管のゴムホースに亀裂が生じて修理を行った場合、ゴムホースの表面にひび割れが生じていて、亀裂が残存しているおそれがあったから、海水ポンプを運転したうえで、ゴムホース復旧後の通水状態を点検すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、ゴムホースの亀裂部を除去したので大丈夫と思い、ゴムホース復旧後の通水状態を点検しなかった職務上の過失により、ゴムホースに亀裂が残存していることに気付かず、機関室を無人のまま海水ポンプが遠隔操作されて海水の噴出を招き、集魚灯用交流発電機を焼損し、充電用発電機及び予備の集魚灯用安定器などにぬれ損を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |