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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年12月12日06時30分 島根半島地蔵埼北方沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船第三十三宝来丸 総トン数 19トン 登録長 18.81メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力
558キロワット 回転数 毎分1,400 3 事実の経過 第三十三宝来丸(以下「宝来丸」という。)は、平成4年1月に進水した、中型まき網漁業に運搬船として従事するFRP製漁船で、主機としてヤンマーディーゼル株式会社が製造した6N160-EN型と称するディーゼル機関を装備し、主機の動力取出軸に、ベルトを介して駆動される充電用発電機1台、更にエアクラッチを介して駆動される集魚灯用交流発電機2台及び漁労機器用油圧ポンプ1台をそれぞれ備え、操舵室に回転計及び主機操縦装置並びに潤滑油圧力低下及び冷却清水温度上昇の各警報装置を設け、同室で主機の遠隔操作ができるようになっていた。 主機は、清水間接冷却機関で、各シリンダに船尾側から順番号が付され、オーバレイを施した薄肉完成メタルをそれぞれ装着した主軸受及びクランクピン軸受がクランク軸に取り付けられ、同軸を介して動力を逆転減速機及びプロペラ軸に伝えるようになっており、6番シリンダの左舷側に潤滑油、冷却清水及び給気などの各圧力計を組み込んだ機側計器盤及び停止ハンドルがそれぞれ設けられ、機関室でセルモータスイッチ及び同ハンドルを躁作して発停が行われていた。 また、主機は、1番シリンダの右舷側クランク室側面の下部に潤滑油ウイングポンプを備え、停止中、同ポンプ出口側の三方切替えコックを操作して、オイルパンの潤滑油の排出及びプライミングが容易にできるようになっていた。 主機の潤滑油系統は、容量143リットルのオイルパンから直結の潤滑油ポンプにより吸引加圧された潤滑油が、200メッシュの金網式フィルタエレメント2個を内蔵した複式潤滑油こし器(以下「油こし器」という。)及び潤滑油冷却器を順に経て入口主管に至り、同主管から主軸受、ピストン冷却噴油ノズル、動弁装置、歯車装置及び過給機などの各系統に分流して、各部を潤滑あるいば冷却したのち、オイルパンに戻るようになっており、同主管部の潤滑油圧力が全速力運転時5ないし6キログラム毎平方センチメートルで、潤滑油圧力低下警報装置の作動値が2キログラム毎平方センチメートルであった。また、主機の潤滑油系統には、油こし器以外の清浄装置が備えられていなかった。 ところで、主機の潤滑油は、運転時間の経過とともに、スラッジなどの異物が混入したり、高温にさらされたりして汚損劣化が進行するので、機関メーカーでは、主機各部の良好な潤滑を維持するうえから潤滑油の取替え及び油こし器フィルタエレメントの開放整備の基準をそれぞれ運転時間400時間と定め、これを主機取扱説明書に記載していた。 A受審人は、進水時に甲板員として乗り組んだのち、同8年1月に船長に昇格し、自ら主機の運転と保守にもあたり、島根県浦郷港を基地として、中型まき網船団に所属する網船、畑船及びほかの運搬船とともに夕刻出港して隠岐諸島周辺の漁場に至って操業し、あじ、いわしなどの漁獲物を積み込んで翌朝鳥取県境港で水揚げしたのち、帰港する操業形態をとり、通常主機を回転数毎分1,400にかけて月間約200時間運転しながら周年操業を繰り返しており、出漁にあたっては機関室で主機を始動したのち、潤滑油、燃料油及び冷却清・海水の各系統からの漏洩(ろうえい)の有無を確認したうえで、暖機運転を10分間ばかり行って出港するようにしていたものの、運転中、同室ビルジポンプが自動発停で、主機の排気ガス色及び運転音に問題がなかったことから、同室の見回りや機側計器盤の潤滑油圧力計などの点検を余りしないまま操舵室で操船と警報装置の監視にあたっていた。 A受審人は、主機の潤滑油の取扱いにっいては、同8年3月下旬修理業者に依頼して潤滑油ウイングポンプでオイルパンの古油を排出し、潤滑油の全量及び油こし器フィルタエレメントを取り替えたのち、始動前に検油棒で潤滑油量を点検し、消費分に見合う潤滑油を月間に30ないし40リットル補給しながら操業を繰り返していたが、潤滑油の取替えを1年ごとに行っている僚船もあり、それまで潤滑油圧力低下警報装置が作動したこともなかったことから、オイルパンの潤滑油量に注意しておきさえすれば大丈夫と思い、機関メーカーが脂導する取替え基準を考慮し、適正間隔で潤滑油及び同フィルタエレメントを取り替えるなどして、潤滑油の性状管理を十分に行うことなく、そのまま運転を続けていたので、潤滑油に混入したスラッジなどの異物か次第に噌加し、いつしか目詰まり気味となった同フィルタエレメントの金網の一部が破損して、同フィルタエレメントを素通りした潤滑油が潤滑油系統を循環するようになり、潤滑油に混入したスラッジなどの異物が主軸受及びクランクピン軸受などに侵入し、主機各部の潤滑を阻害する状況となっていることに気付いていなかった。 こうして、宝来丸は、A受審人ほか1人が乗り組み、操業中に損傷した船首側ブルワークを整備するる目的で、船首0.6メートル船尾2.4メートルの喫水をもって、同年12月12日04時00分浦郷巷を発し、主機を回転数毎分1,400の全速力前進にかけて。鳥取県境港に向け航行中、かねてからスラッジなどの異物の侵入によっで潤滑が阻害されていた各シリンダの主軸受及びクランクピン軸受、3番及び6番シリンダのピストンピン軸受及びピストン並びに過給機の軸受が焼損し、06時30分美保関灯台から真方位338度6海里の地点において、潤滑油圧力低下警報装置が作動し、主機が異音を発して自停した。 当時、天候は曇で風力2の北西風が吹き、海上は穏やかであった。 操舵室にいたA受審人は、主機の異常に気付いて機関室に急行し、オイルパンの潤滑油量及び冷却清水タンクの冷却水量を確認したのち、主機が冷えるのを待って始動したものの、主機か異音を発して回転数が上昇せず、煙突から排出される排気ガス色が真っ黒であるのを認めて直ちに主機を停止し、運転不能と判断して浦郷港に停泊中の僚船に救助を求めた。 宝来丸は、来援した僚船により境港に引き付けられ、同港において、主機各部を精査した結果、前示損傷のほか、各シリンダのシリンダライナ、クランク軸及び過袷機のロータ軸などにも損傷が生じていることが判明し、のち損傷部品の取替え修理が行われた。
(原因) 本件機関損傷は、主機潤滑油の性状管理が不十分で、潤滑油が著しく汚損劣化したまま運転が続けられ、主機各部の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、主機の運転管理にあたる場合、主機各部の潤滑が阻害されることのないよう、適正間隔で潤滑油及び油こし器フィルタエレメントを取り替えるなどして、潤滑油の性状管理を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、オイルパンの潤滑油量に注意しておきさえすれば大丈夫と思い、潤滑油の性状管理を十分に行わなかった職務上の過失により、主機各部に潤滑油の著しい汚損劣化による潤滑阻害を招き、各シリンダの主軸受及びクランクピン軸受、3番及び6番シリンダのピストンピン軸受及びピストン、並びに過給機のロータ軸及びクランク軸を損傷させたほか、各シリンダのシリンダライナも損傷させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |