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1998年(平成10年)

平成10年神審第4号
    件名
漁船第5恵比須丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年10月20日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

山本哲也、佐和明、西林眞
    理事官
岸良彬

    受審人
A 職名:第5恵比須丸機関長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
3番シリンダのピストン、シリンダライナ及びクランク軸などが焼損、主軸受、クランクピン軸受等損傷

    原因
主機冷却海水の吐出状況の点検不十分、警報装置の取扱い不適切

    主文
本件機関損傷は、主機冷却海水の吐出状況の点検が不十分であったことと、主機警報装置の取扱いが不適切であったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年6月28日00時20分
石川県加賀市沖
2 船舶の要目
船種船名 漁船第5恵比須丸
総トン数 19.48トン
登録長 16.53メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 360キロワット(定格出力)
回転数毎1,800(定格回転数)
3 事実の経過
第5恵比須丸は、昭和53年10月に進水した沖合底びき網漁に従事するFRP製漁船で、平成7年8月に主機及び軸系などを換装し、新たに昭和精機工業株式会社が昭和62年に製造したヤンマー6LA-ST型逆転減速機付きディーゼル機関を装備していた。
主機は、操舵室にセルモータ用キースイッチ、回転計、冷却清水温度計及び潤滑油圧力計並びに冷却清水温度上昇などの警報装置及びブザー停止スイッチを組み込んだ遠隔操縦装置を備え、同室から主機の発停を含むすべての運転操作ができるようになっていたが、停止は機側で行われていた。
主機の冷却清水系統は、直結の冷却清水ポンプにより吸引加圧された冷却清水が、入口主管から各シリンダのシリンダジャケット及びシリンダヘッドを冷却したのち、船首側及び船尾側の二つの出口集合管に分岐し、船尾側集合管に流入した冷却清水が排気マニホルドを冷却したのち船首側集合管から出た同水と合流して自動温度調節弁に至り、清水膨張タンクに組み込まれた清水冷却器を通るものと、同冷却器をバイパスするものとに分流して温度が調整され、その後いずれも同ポンプ吸入側に環流するようになっていた。
また、自動温度調整弁の手前に冷却清水温度上昇警報装置の温度検出端が設けられ、冷却清水温度が上昇して設定値に達すると、同警報装置が作動して操舵室ではブザー、機関室ではベルで警報音を発するようになっていた。
一方、主機の冷却海水系統は、船底弁からこし器を通って直結の冷却海水ポンプによって吸引加圧された冷却海水が、空気冷却器、清水冷却器及び潤滑油冷却器を順次冷却したのち、操舵室右舷側の水面上にある船外吐出口から排出されるようになっており、同ポンプには吐出圧力計が設けられていなかった。
ところで、冷却海水ポンプは、インペラがゴム製の回転式で、一体に成型された9枚のインペラ羽根(以下「羽根」という。)が海水とともに吸引した砂などの異物により先端の摩耗が急速に進行したり、ケーシンク内で屈曲を繰り返しながら回転するうち、繰返し曲げ応力を受けて疲労し、欠損するおそれがあることから、定期的に開放して点検するとともに、主機始動後ば冷却海水の吐出状況に注意する必要があった。
A受審人は、昭和56年8月に甲板員として本船に乗り組んだのち、同58年4月から機関長として雇い入れられ、運転作業を主とする機関管理を担当するようになり、主機始動前に潤滑油量や清水膨張タンクの水量などの確認を行っていたものの、始動後冷却海水の吐出状況はほとんど点検していなかった。また、同人は、帰港後に機側で主機を停止するとき警告ベルが鳴ってうるさいことから、毎回操舵室の遠隔操縦装置の停止スイッチを入れてブザーを切ってから主機を停止していた。
本船は、石川県橋立漁港を基地とし、毎年9月1日から翌年6月末までの間、同漁港沖合での操業を繰り返していたところ、休漁期が近づいた平成8年6月中ごろには主機の換装時から使用されていた冷却海水ポンプの羽根が摩耗して吐出量が徐々に減少し始め、また、根元に亀裂(きれつ)が生じてこれが進行する状況となった。
同月27日23時40分ごろ、A受審人は、いつものように他の乗組員より先に本船に着き、出漁に備えて運転準備を行ったのち主機を始動したが、始動後警報装置のブザー停止スイッチを切り忘れていたばかりか、漁期が終わるまで冷却海水ポンプが異状を起こすことはあるまいと思い、冷却海水の咄出状況を点検しなかったため、冷却海水ポンプの羽根が亀裂の進行で次損し始めて同吐出量が欠第に減少し、主機が過熱気味になっていることに気付かなかった。
こうして本船は、操業の目的で、A受審人ほか4人が乗り組み、翌28日00時05分僚船9隻と船団を組んで橋立漁港を発し、主機回転数を毎分1,850の全速力にかけて航行中、冷却海水ポンプの羽根の亀裂が進行し、3枚が根元から欠損したことから、同ポンプの揚水能力が低下し、主機の冷却清水とともに潤滑油の温度が上昇したが、警報装置のブザーが作動しないまま運転が続けられ、主機が著しく過熱して各部が焼損気味となり、00時20分加佐岬灯台から真方位272度2.2海里の地点において主機の回転が突然低下した。
当時、天候は晴で風力2の南南東風が吹き、海上は波が立っていた。
自室で休息していたA受審人は、異状に気付いて操舵室に赴き船長から突然回転が低下したのでクラッチを切ったと聞き、機関室に降りて主機を点検したものの原因が分からず、僚船の機関長から同型機で過給機が故障したとき主機の回転が圷がったと聞いていたので過給機の故障と思い、低速での航行は可能な旨船長に告げた。
本船は、回転数毎分600の低速にかけて自力で橋立漁港に引き返したのち、修理業者による点検が行われ、過給機に異状はなく、冷却海水の吐出量が極端に少なく海水管が熱くなっていたことから、冷却海水ポンプを開放して羽根の欠損が発見されインペラが取り替えられた。そして、漁期の切上げ日なので出漁を取りやめ、再び主機を低速回転にかけて直結発電機を運転し、漁具等の後片付けを行っていたところ、主機が異音を発したため停止された。
その後、前示の修理業者が主機を開放点検した結果、3番シリンダのピストン、シリンダライナ及びクランク軸などが焼損していることが判明し、主機はこれらの損傷部品のほか主軸受、クランクピン輸受等を新替えして修理された。

(原因)
本件機関損傷は、冷却海水ポンプの羽根が欠損して同ポンプの揚水量が不足した際、船外排出口からの主機冷却海の吐出状況の点検が不十分であったことと、主機始動の際の警報装置の取扱いが不適切で清水温度が著しく上昇したとき警報ブザーが鳴らず、過熱するまま主機の運転が続けられたこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機を始動した場合、ゴム製の冷却海水ポンプのインペラが急速に摩耗したり、欠損するおそれがあったから、このような損傷の発生を見逃すことのないよう、主機始動後に船外排出口からの冷却海水状況を点検すべき注意義務があった。ところが、同人は、漁期が終わるまで冷却海水ポンプが異状を起こすことはあるまいと思い、冷却海水の咄出状況を点検しなかった職務上の過失により、同水が不足して過熱するまま主機の運転を続け、3番シリンダのピストン、シリンダライナ及びクランク軸などを焼損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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