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1998年(平成10年)

平成10年神審第19号
    件名
漁船第十八順洋丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年10月7日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

山本哲也、工藤民雄、西林眞
    理事官
岸良彬

    受審人
A 職名:第十八順洋丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
クランク軸のジャーナル及びクランクピン部焼損、台板の主軸受部が過熱変形

    原因
潤滑油ポンプ切替用三方コックの切替え確認不十分

    主文
本件機関損傷は、潤滑油ポンプ切替用三方コックの切替え確認が不十分で、潤滑油圧力が低下するまま主機の運転が続けられたことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年3月7日08時20分
高知県久礼港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第十八順洋丸
総トン数 59.92トン
全長 32.65メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 286キロワット(定格出力)
回転数 毎分655(定格回転数)
3 事実の経過
第十八順洋丸は、昭和56年2月に進水したかつお一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、主機としてヤンマーディーゼル株式会社が前年に製造したT220-T3型ディーゼル機関を装備し、軸系にクラッチ式逆転減速機を備え、船橋の遠隔操縦装置により、主機及び逆転減速機の運転操作ができるようになっていた。
主機の潤滑油は、クランク室底部油溜(だ)め(標準張込み量約600リットル)から、直結の潤滑油ポンプ(以下「直結ポンプ」という。)により吸引加圧されて複式こし器及び潤滑油冷却器を通り、圧力調整弁で4.0キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)に調圧されて入口主管に至り、各シリンダの主軸受、クランクピン軸受及びピストンピン軸受等を潤滑したのち同油溜めに戻るようになっていた。
なお、主機入口の潤滑油圧力が2.0キロ以下に低下すると警報装置が作動するように設定されていたが、油圧低下による主機非常停止装置は装備されていなかった。
また、同油系統には、直結ポンプのほかに電動の予備潤滑油ポンプ(以下「予備ポンプ」という。)が備えられ、主機始動前のプライミング等に使用できるようになっていたが、同ポンプは自動運転の機能を有しておらず、また、両ポンプとも吐出側に逆止め弁を設けずに、両ポンプの各吐出管と主機給油管との合流部に設けられた三方コックのT形栓を180度回すことで、ポンプの切替えを行うようになっていた。
ところで、三方コックは、コック頂部に流路の方向を示すためにT形の切り込みが刻まれ、通常同コックに取り付けられた専用ハンドルで切替えが行われ、ハンドルの位置で切替え方向が確認できたが、本船では同コックの周辺が狭いため、モンキーレンチを使用して切替えが行われており、同コックを操作する際は確実に同コックを切り替えているか、切り込み位置を十分確認する必要があった。
本船は、毎年3月初旬から11月末まで台湾沖から三陸沖に至る海域で操業したのち、基地としている高知県久糺港に戻り、12月から翌年2月末までの期間に船体及び機関の整備等を行っており、平成8年も3月初めには出漁準備を終え、同月7日、出漁に備えて清水を搭載するため、同県須崎港に向け出港することとなった。
B指定海難関係人は、建造時から操機長として乗船し、機関の運転及び整備全般の実務に携わっており、同日07時過ぎに本船に着き機関室に入って主機の運転準備にかかり、潤滑油量を確認のうえ三方コックを予備ポンプ側に切り替え、同ポンプを始動して約5分間通油しながらターニングを行ったのち、予備ポンプを停止して再び三方コックを直結ポンプ側に切り替えた。ところが、同人は、同コックの切り込み位置を十分確認しなかったため、切替え角度が不十分で流路が狭まっていることに気付かず、07時45分ごろ主機を始動し、始動後潤滑油圧力も確認しないまま、警報装置の電源を入れて操縦位置を船橋に移し、船尾の出港配置に就くため機関室を離れた。
A受審人は、平成6年から機関長として本船に乗り組んで機関の運転管理に当たっており、出港する本船への到着が遅れ、同日08時過ぎに乗船したときにはすでに主機が始動されていたが、運転操作に慣れている操機長が主機を始動したので大丈夫と思い、自ら機関室に入って潤滑油圧力などの主機運転状態を点検することなく、そのまま船首に行って錨の巻揚げ作業に加わったので、主機が暖まるのに伴い、同油圧力が警告設定値近くまで徐々に低下し、負荷がかかると軸受類が急速に過熱するおそれがあることに気付かなかった。
こうして本船は、A受審人及びB指定海難関係人ほか4人が乗り組み、係船索をすべて放したのち、主機を前進にかけて左舷錨を巻き揚げようとしたところ、主機潤滑油圧力が更に低下して主軸受メタル等が油膜切れを起こして焼き付き、同日08時20分久礼港久礼防波堤灯台から真方位147度420メートルの地点で船橋の潤滑油圧力低下警報が鳴った。
当時、天候は曇で風力3の南東風が吹き、港内は穏やかであった。
B指定海難関係人は、船橋から潤滑油の警報が鳴っていることを知らせる船長の大声で異状を知り、煙突付近のオイルミスト放出管から白煙が噴き出していたので機関室に戻り、クランクケースが過熱しているのを認めて主機を停止した。
本船は、再び係留されたのち、A受審人及びB指定海難関係人が主機周りを点検して潤滑油ポンプ切替用三方コックの開度が不足していたことを認め、連絡を受けて来船した修理業者が精査した結果、クランク軸のジャーナル及びクランクピン部が焼損し、台板の主軸受部が過熱変形していることなどが判明し、のち台板、クランク軸、各軸受メタル等すべての損傷部品を新替えして修理された。

(原因)
本件機関損傷は、主機の始動にあたり、潤滑油ポンプ切替用三方コックの切替え確認が不十分で、直結ポンプ側の開度が不足して潤滑油圧力が低下するまま運転が続けられたことによって発生したものである。
三方コックの切替え確認が不十分のまま主機の運転が続けられたのは、同コックを切り替えた操機長が切替え後に同コックの位置を十分確認しなかったことと、帰船した機関長がすでに始動されていた主機の潤滑油圧力を点検しなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、主機の運転管理にあたり、休漁期明けをひかえ出漁準備のため帰船した際、同機がすでに始動されているのを認めた場合、潤滑油量の不足などで主機を損傷させることのないよう、自ら機関室に入って始動後の潤滑油圧力など主機の運転状態を点検すべき注意義務があった。ところが、同人は、運転躁作に慣れた操機長が主鯛機を始動したので大丈夫と思い、自ら機関室に入って始動後の潤滑油圧力など主機の運転状態を点検しなかった職務上の過失により、同圧力が低下したまま運転を続け主機各部に潤滑阻害を生じさせてクランク軸、主軸受及び台板等を損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、主機の始動にあたり、潤滑油ポンプ切替用三方コックの切替え位置を十分確認しなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。






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