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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年9月30日11時30分 奄美群島徳之島西方沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船宝勢丸 総トン数 65.62トン 登録長 24.50メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 625キロワット 3 事実の経過 宝勢丸は、昭和51年2月に進水したかつお一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、機関室には、中央部に主機、右舷前部及び左舷前部にディーゼル機関駆動の容量72.5キロボルト・アンペアの防滴型交流発電機各1台を備え、右舷中央部に電動の容量毎時40立方メートルの渦巻式雑用海水ポンプを備えていた。 ところで、雑用海水は、船体付弁から雑用水ポンプで吸引された海水が、約2キログラム毎平方センチメートルに加圧され、雑用海水管によって、便所、調理室、活魚倉等に送水されていた。この雑用海水管は、呼び径75ミリメートルの配管用炭素鋼鋼管を使用し、長さ1ないし5メートルの同鋼管を成型して両端にフランジ継手を備えたもので、それを同継手で接続して敷設されていた。 A受審人は、平成5年より機関長として本船に乗り組み、雑用海水管については、約2年使用すると海水によって著しく腐食が進んで破口を生じるので、航行中に海水が機関室に噴き出したら、その度にゴムシートを巻き付ける等して応急処置をし、入港後、業者に発注して、破口の生じた部分の同管を新替えするようにしていた。 そうするうち、平成9年9月初旬ごろ、雑用海水管は、右舷側発電機下部後方を船横に敷設された同管の一部に、著しく腐食が進んで小破口が生じ、そこから少量の海水が漏洩(ろうえい)し、小破口部付近に白い塩の結晶が付き、腐食が更に進行して破口が拡大すると、破口部から海水が噴き出して発電機にかかるおそれのある状況となった。 ところが、A受審人は、雑用海水管については、海水が噴き出してから応急処置すればよいと思い、入港後に行う機関室内機器の点検時などに、同管の点検を行わなかったので、海水が漏洩して同管に塩の結晶が付いていることも、破口が拡大しで海水が噴出すると発電機にかかるおそれがあることにも気付かないままとなった。 こうしてA受審人は、ほか11人とともに乗り組み、かつお漁の目的で、同年9月30日01時30分鹿児島県奄美大島大熊漁港を発し、奄美群島徳之島西方の漁場に向かう間、一度機関室に入り、10分間ほど機器の運転状況を点検したものの、雑用海水管の点検までは及ばなかったので、依然として腐食による同管の小破口には気付かなかった。 宝勢丸は、同30日06時00分漁場に至り、機関室を無人として操業を行っていたところ、雑用海水管の腐食破口が拡大し、破口部から噴き出した海水が運転中の右舷側発電機にかかって固定子巻線が短絡し、同日11時30分与名間埼灯台から真方位258度12.5海里ばかりの地点において、配電盤の気中遮断器が開放されて停電した。 当時、天候は晴で風力1の南東風が吹き、海上は穏やかであった。 機関室に駆けつけたA受審人は、左舷側発電機原動機を始動して電源を確保したのち、右舷側発電機を点検して固定子巻線の焼損を認めた。 宝勢丸は操業を切り上げて大熊漁港へ帰港したのち、右舷側発電機の修理を行った。
(原因) 本件機関損傷は、機関室内に敷設された雑用海水管の点検が不十分で、漁場において機関運転中、同管の一部に生じた腐食破口部が拡大しで海水が噴き出し、発電機の固定子巻線に海水がかかって短絡したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、機関の運転管理に従事する場合、機関運転中に雑用海水管に腐食による小破口が生じ、少量の海水が漏洩する状況になったままとならないよう、入港後に行う機関室内機器の点検時などに、同管の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、海水が噴き出してから応急処置すればよいと思い、同管の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、腐食が更に進行して破口が拡大し、噴き出した海水が発電機にかかって固定子巻線が短絡する事態を招き、同巻線に焼損を生じさせるに至った。 |