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1998年(平成10年)

平成9年広審第84号
    件名
漁船第三千鳥丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年9月30日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

杉?忠志、黒岩貢、横須賀勇一
    理事官
弓田邦雄

    受審人
A 職名:第三千鳥丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
4番主軸受、2番及び3番シリンダの各クランクピン軸受、クランク軸などが焼損、3番シリンダのピストンピン軸受、2番及び3番シリンダの各連接棒、2番、3番及び4番シリンダの各シリンダライナ並びにシリンダブロックなどにも損傷

    原因
主機の調速機用注油管に破孔を生じた際のオイルパンの潤滑油量の点検不十分

    主文
本件機関損傷は、主機の調速機駆動用歯車の潤滑油管に破孔を生じた際、オイルパンの潤滑油量の点検が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年12月4日03時00分
島根県隠岐郡浦郷湾
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三千鳥丸
総トン数 15トン
全長 19.95メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 478キロワット
回転数 毎分1,900
3 事実の経過
第三千鳥丸(以下「千島丸」という。)は、平成5年5月に進水した、中型まき網漁業に灯船として従事するFRP製漁船で、主機として昭和精機工業株式会社が製造した6LX-ET型と称するディーゼル機関を装備し、操舵室に主機の回転計及び潤滑油圧力計などの各計器並びに潤滑油圧力低下及び冷却清水温度上昇の各警報装置が組み込まれた主機遠隔操縦装置を設けていた。
主機は、各シリンダに船首側を1番として6番までの順番号が付され、ジャーナル径134ミリメートルの一体型鍛鋼製のクランク軸に、オーバレイした薄肉完成メタルを装着した主軸受及びクランクピン軸受が取り付けられており、6番シリンダ後部の歯車装置ケーシングの上部右舷側に過給機が、同機の左舷側に調速機がそれぞれ据え付けられ、クランク室底部のオイルパンの左舷側中央部に検油棒及び給油口が設けられ、潤滑油量の点検及び潤滑油の補給が容易にできるようになっていた。
主機の潤滑油系統は、容量91リットルのオイルパンから直結の歯車式潤滑油ポンプによって吸引加圧された潤滑油が、温度調整弁を備えた潤滑油冷却器及び複式潤滑油こし器を経て、圧力調整弁により約5キログラム毎平方センチメートルに調圧されたのち、架構内部に設けられた入口主管に至り、同主管からシリンダごとに分流して主軸受、クランクピン軸受及びピストンピン軸受を順に潤滑するほか、同主管から分流してピストン冷却噴油ノズル、動弁装置、過給機及び歯車装置などにも、給油され、各部を潤滑あるいは冷却したのち、オイルパンに戻るようになっていた。また、潤滑油圧力低下の警報装置は、同主管部の潤滑油圧力が1キログラム毎平方センチメートル以下になったときに作動して、主機遠隔操縦装置上の警報ランプが点灯するとともに、警報ブザーが鳴るようになっていた。
ところで、主機の調速機駆動用歯車に至る潤滑油管(以下「調速機用注油管」という。)は、入口主管から分岐した外径6ミリメートルの鋼管で潤滑油を同歯車まで導くように配管されていたが、機関室送風機の吹き出し口に近接していたことから、しけのときには水滴が飛散してくるなど潮風の影響を受けて腐食されやすい状況にあった。
A受審人は、進水時から船長として乗り組み、機関の運転と整備にもあたり、主機の取扱いについては、3箇月ごとに潤滑油及び潤滑油こし器フィルタエレメントを取り替え、排気ガスが黒煙を生じる不具合の際には修理業者に依頼して燃料噴射弁などの整備を行い、島根県浦郷港を基地として、中型まき網船団に所属する網船1隻、運搬船1隻及びほかの灯船2隻とともに夕方出港して隠岐諸島周辺の漁場に至り、操業して翌朝基地に帰港する操業形態をとり、周年、出漁を繰り返していた。
同8年11月10日16時30分浦郷港を出港したA受審人は、隠岐諸島南方の漁場において魚群探索中、海面に浮遊していた漁網をプロペラ翼に巻き込み、激しい船体振動を伴って主機の回転数が低下したので主機の操縦ハンドルを下げて逆転減速機を中立としたのち、機関室に赴いて主機を点検したところ調速機用注油管に小さな破孔を生じて潤滑油が漏洩(ろうえい)しているのを認め、同管の破孔部にテープを巻き付けて修理しようと試みたものの、同管が調速機及び歯車装置の各ケーシングに近接した狭所に配管されていてテープによる修理ができなかったので、少しでも潤滑油の漏洩を防止できるものと考えて同管の破孔部と調速機ケーシングとの間にウエスを強く押し当て、また、巻き込んだ漁網を全て除去することができず、逆転減速機を操作すると、船体振動が発生することから操業を断念し、同管の修理とプロペラ翼に残存する漁網の除去のため、21時ごろ主機を回転数毎分約1,000の低速力にかけて鳥取県境港に向かった。しかしながら、同人は、潤滑油の漏洩量が少ないので大丈夫と思い、運転中、機関室に赴いて適宜オイルパンの潤滑油量を点検することなく、操舵室で操船にあたっていたので、同管に生じた破孔部が徐々に拡大して同油量が次第に減少するようになったが、このことに気付いていなかった。
千鳥丸は、同日22時ごろ地蔵埼東方4海里ばかりの地点に差しかかったとき、折からのうねりにより船体が大きく数回動揺して主機の潤滑油ポンプが瞬間的に空気を吸引し、潤滑油圧力が低下したものの、間もなくして潤滑油圧力計がほぼ正常値を指度したので、そのまま運転が続けられ、同時30分境港に入港し、修理業者により調速機用注油管の溶接修理及び残存するプロペラ翼に巻き込んだ漁網の除去が行われ、このとき潤滑油の取替え時機となっていたことから同業者がオイルパンの古油を潤滑油ウイングポンプで抜き取り、手持ちの潤滑油30リットルに、新たに購入した潤滑油を加えてオイルパンに張り込み、潤滑油こし器フィルタエレメントを点検し、これを取り替えたのち、操業を繰り返した。
ところが、主機は、オイルパンの潤滑油量の不足により潤滑不良となった主軸受及びクランクピン軸受がオーバレイの摩滅やケルメットの当たり面に傷を生じたほか、ピストン及びシリンダライナなどにもかき傷を生じたため、その後の運転で、これらの傷が進展し、主軸受などが焼損するおそれがある状況となった。
こうして、千鳥丸は、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.8メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同年12月3日16時30分浦郷港を発し、主機を回転数毎分1,800の全速力前進にかけて漁場を移動しながら魚群探索を繰り返しているうち、かねてより傷が進展していた4番主軸受、2番及び3番シリンダの各クランクピン軸受、クランク軸などが焼損し、金属粉が潤滑油こし器に詰まり、翌4日03時00分赤灘鼻灯台から真方位035度1,400メートルの地点において、主機が異音を発し、潤滑油圧力低下警報装置が作動した。
当時、天候は晴で風力3の北西風が吹き、海上には少しうねりがあった。
操舵室で操船にあたっていたA受審人は、主機の異常に気付き、直ちに操縦ハンドルを下げたところ、主機が自停したので機関室に急行し、ターニングを試みたものの、果たせず、運転不能と判断して僚船に救助を求めた。
千鳥丸は、僚船により浦郷港に引き付けられ、同港において、主機各部を精査した結果、前示損傷のほか、3番シリンダのピストンピン軸受、2番及び3番シリンダの各連接棒、2番、3番及び4番シリンダの各シリンダライナ並びにシリンダブロックなどにも損傷を生じていることが判明し、のち修理日数の関係で主機が換装された。

(原因)
本件機関損傷は、主機の調速機用注油管に破孔を生じた際、オイルパンの潤滑油量の点検が不十分で、同管の破孔部から潤滑油が漏洩したまま運転され、潤滑油量が不足してうねりによる船体動揺で潤滑油ポンプが瞬間的に空気を吸引し、潤滑不良により主軸受及びクランクピン軸受などが傷付き、その後の運転で、これらの傷が進展したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機の調速機用注油管に破孔を生じたのを認めた場合、同管の破孔部を修理できずに潤滑油の漏洩が続いていたのであるから、潤滑油量の不足により潤滑油ポンプが空気を吸引することのないよう、適宜オイルパンの潤滑油量を点検すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、潤滑油の漏洩量が少ないので大丈夫と思い、適宜オイルパンの潤滑油量を点検しなかった職務上の過失により、うねりにより船体が大きく動揺した際に、同ポンプが瞬間的に空気を吸引して主軸受及びクランクピン軸受などに傷を生じさせ、その後の運転で、4番主軸受、2番及び3番シリンダの各クランクピン軸受並びにクランク軸を焼損させたほか、3番シリンダのピストンピン軸受、2番及び3番シリンダの各連接棒、2番、3番及び4番シリンダの各シリンダライナ並びにシリンダブロックなどを損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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