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1998年(平成10年)

平成9年神審第72号
    件名
貨物船第三しんせい機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年9月29日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

山本哲也、佐和明、西林眞
    理事官
岸良彬

    受審人
A 職名:第三しんせい機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定・履歴限定)
    指定海難関係人

    損害
全シリンダライナとともに、注油器ラチェット機構の摩耗部品をすべて新替え

    原因
主機シリンダ注油器の点検不十分

    主文
本件機関損傷は、主機シリンダ注油器の点検が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年5月20日01時40分
和歌山県潮岬沖
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第三しんせい
総トン数 494トン
全長 77.90メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,103キロワット(定格出力)
回転数 毎分295(定格回転数)
3 事実の経過
第三しんせいは、昭和62年に進水した鋼製貨物船で、主機として、富士ディーゼル株式会社が同年に製造した6S32G2型ディーゼル機関を装備し、同機の各シリンダには船首側からの順番号が付され、燃料油には、A重油4に対してC重油6の割合で混合したブレンド油が使用されていた。
ところで、主機は、A重油仕様の機関として製造され、ピストンとシリンダライナとの潤滑がはねかけ注油の潤滑油をオイルリングでかき上げる方式であったが、新造時あるいは新造後間もなく、船舶所有者の意向によるものか、燃料油にブレンド油を使用するため、同潤滑を補う目的でシリンダ注油方式が採用され、シリンダ注油器及び容量60リットルの同油補給タンク等が新たに備えられたほか、全シリンダライナに、下辺から3分の1の高さの左舷側正横位置に直径3ミリメートルの注油孔を1箇所開けるだけの、簡単な改造が施されていた。
シリンダ注油器は、山科精器株式会社製のMLHC2L-6BW形と称する密閉式のもので、箱形のケース、6組のポンプエレメント、カム軸、同軸駆動レバー等の部品で構成されていて、主機6番シリンダ燃料噴射ポンプの船尾側に設置されていた。
そして、同注油器は、各ポンプエレメントから各シリンダライナ注油孔背面の捩(ね)じ込み式管継手まで、直径8ミリメートルのステンレス鋼製注油管がそれぞれ導いてあり、ケース内は補給タンクからのヘッド圧がかかった約2.5リットルの潤滑油で満たされ、カム軸軸端にラチェット機構を介して取り付けられた駆動レバーが、同シリンダの排気弁プッシュロッドと連結してあって、主機運転中、同プッシュロッドの上下動によってカム軸を回転させ、各ポンプエレメントを作動させるようになっていた。
また、各注油器ポンプエレメントの出口には、潤滑油の油路となる筒形のサイトグラスがそれぞれ取り付けられ、運転中、間欠的に吐出される潤滑油の流れに伴い、同グラス内部に入れられた鋼球が上下動を繰り返しており、同鋼球の動きや押し上げられる高さを点検することにより、同エレメントの作動状態や注油量が確認できるようになっていた。
本船は、平成7年3月に現所有者の所有となり、主として大阪港から京浜港へ鋼材の運搬に従事していたもので、全速力時の主機回転数を毎分260と定めて運転を繰り返すうち、いつしかシリンダ注油器駆動レバーのラチェット機構が摩耗して滑りが生じ、カム軸の回転が排気弁プッシュロッドの上下動に正確に追従しなくなり、サイトグラス内の鋼球の動きが不規則になるとともに、シリンダ注油量が徐々に減少し始めた。
A受審人は、平成9年3月に機関長として本船に乗り組み、機関の運転管理に従事していたが、主機のシリンダ注油については、同方式の機関を取り扱うのが初めてだったこともあって、補給タンクを空にさえしなければ大丈夫と思い、注油器を点検することなく、同タンクの油量を3ないし4日に一度点検して減少分を潤滑油貯蔵タンクから補給していただけであったことから、ラチェット機構の摩耗が進行して注油量がかなり減少していることに気付かなかった。
こうして本船は、運航を繰り返すうち、新造以来使用されていた主機シリンダライナが、注油量が減少したことに加え、経年摩耗の影響もあってブローバイ気味となっていたところ、A受審人ほか3人が乗り組み、鋼材1,170トンを積載し、同年5月19日14時25分大阪港を発し、京浜港東京区に向かって全速力で航行中、主機ブローバイが進行し、クランク室内に吹き抜けた燃焼ガスが、潤滑油スラッジタンクを経由して煙突に導かれたオイルミスト放出管から排出され始めた。
翌20日01時ごろA受審人は、潤滑油清浄機のスラッジ排出作業を行っているとき、スラッジタンクから逆流してくるガス量がいつもより多いことに気付き、取付けボルトを緩めて主機クランク室ドアを少しすかしたところ、刺激臭の強いガスが吹き出したので、ブローバイが発生したものと判断し、01時40分潮岬灯台から真方位120度3.7海里の地点で、船長に報告して主機回転数を毎分250に減速した。
当時、天候は曇で風力2の北東風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、主機各部の状態に注意しながら運転を続け、同日午後の当直中、注油器の鋼球の動きを初めて点検し、上下動が不規則で押し上げられる高さも少なかったことから、駆動部ラチェット機構が摩耗していることに気付き、以降、機関室当直者が30分ごとに注油器カム軸を数十回手回しすることとして続航し、翌21日03時40分京浜港東京区に入港した。そして、主機クランク室ドアを開放したうえシリンダライナを点検してブローバイの発生を認めた。
本船は、中間検査の予定を繰り上げで同月26日徳島県の造船所に入渠のうえ、主機を開放点検したところ全シリンダライナが異状摩耗して継続使用が不可能であることが判明し、のち全シリンダライナとともに、注油器ラチェット機構の摩耗部品がすべて新替えされた。

(原因)
本件機関損傷は、主機シリンダ注油器の点検が不十分で、摩耗した注油器駆動部のラチェット機構が修理されず、注油量が不足して発生したブローバイが進行するまま運転が続けられたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機の運転管理にあたり、シリンダ注油器を取り扱う場合、注油器が正常に作動しないと注油量が不足して主機が焼損するおそれがあったから、正常に作動しているかどうか判断できるよう、定期的に注油器を点検すべき注意義務があった。ところが、同人は、補給タンクを空にさえしなけば大丈夫と思い、定期的に注油器を点検しなかった職務上の過失により、注油器が正常に作動していないことに気付かず、シリンダ注油量が不足するまま運転を続けて全シリンダライナを異状摩耗させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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