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1998年(平成10年)

平成9年神審第92号
    件名
漁船第二十一真功丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年9月11日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

山本哲也、佐和明、西林眞
    理事官
岸良彬

    受審人
A 職名:第二十一真功丸機関長 海技免状:六級海技士(機関)(機関限定・旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
減速機の前進クラッチ仕組、前進歯車及び前後進歯車軸受等が著しく摩耗損傷

    原因
主機減速機の潤滑油の性状管理不十分

    主文
本件機関損傷は、主機逆転減速機の潤滑油の性状管理が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年5月1日03時00分(日本標準時、以下同じ。)
フィリピン諸島沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十一真功丸
総トン数 19.94トン
登録長 14.95メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 558キロワット(定格出力)
回転数 毎分1,400(定格回転数)
3 事実の経過
第二十一真功丸は、沖縄県泊漁港を基地とし、南方海域でのまぐろ延(はえ)縄漁業に従事する昭和52年9月に進水したFRP製漁船で、平成元年10月に主機、逆転減速機及び軸系を換装し、いずれもヤンマーディーゼル株式会社が製造した、6N160-EN型ディーゼル機関とY-380型逆転減速機(以下「減速機」という。)が装備され、操舵室から遠隔操縦装置により、主機の増減速及び減速機の前後進操作が行われていた。
主機は、動力取出軸に発電機が直結され、出港から入港まで連続運転されており、年間の運転時間は5,000時間ばかりであった。
減速機は、1段減速歯車と湿式油圧多板クラッチ(以下「クラッチ」という。)を内蔵したもので、たわみ軸継手を介して主機フライホイールに連結された入力軸兼用の後進軸と、その両側に同軸と歯車で噛(か)み合って逆方向に駆動される左右対称に並んだ2本の前進軸とが、主機運転中は常時回転しており、前進軸及び後進軸の後部にはそれぞれクラッチを介して小歯車が装着され、これらの小歯車が出力軸に固定された大歯車と噛み合っていて、作動油圧によりクラッチ内に交互に10数枚組み込まれた摩擦板とスチール板(以下「クラッチ板」と総称する。)とが圧着されると、出力軸が前進側あるいは後進側に回転するようになっていた。
また、減速機の潤滑油は、同機ケーシング底部の油溜(だ)めに約45リットル張り込まれ、右舷側前進軸後端に取り付けられた直結の歯車式潤滑油ポンプにより吸引力圧され、作動油圧調整弁で作動油系統と潤滑油系統とに分岐し、作動油は前後進切換え弁を経て前進クラッチあるいは後進クラッチを作動し、クラッチの嵌入(かんにゅう)中は同油圧調整弁の作用で通常16ないし18キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)の油圧に保たれるようになっていた。
一方、作動油圧調整弁の逃がし穴を通過して作動油から分岐した潤滑油は、潤滑油圧調整弁で0.5ないし2キロに調圧され、こし器及び冷却器を通ってクラッチ内部、歯車、軸受などに給油されており、油圧が0.3キロに低下すると圧力低下警報装置が作動し、機関室及び操舵室の各警報盤でそれぞれ警報音を発するとともに、警報ランプが点灯するようになっていた。
A受審人は、本船建造時から乗り組み、当初は船長職を執ることもあったが、昭和63年からは専ら機関長として機関の運転管理に当たっており、減速機の潤滑油については、1週間に一度油量を点検する程度で、ほとんど減少しなかったことから運転に支障はないものと思い、平成4年9月の中間検査工事以来一度も取り替えていなかったばかりか、こし器の開放掃除も実施していなかったので、同油の汚損劣化が進行していることに気付かなかった。
本船は、A受審人ほか5人が乗り組み、平成7年4月18日17時00分泊漁港を発し、同月27日ごろフィリピン諸島東方沖合の漁場に至って操業を続けるうち、潤滑油の著しい劣化により各部軸受に腐食摩耗が発生するとともに減速機の作動油圧調整弁が固着気味となり、同油圧が10キロばかりに低下していわゆる半クラッチ状態となったことから、クラッチ板が滑って過熱し、摩耗粉が発生し始めた。
こうして本船は、操業を続けるうちクラッチ板の摩耗粉を吸引した潤滑油ポンプの歯面が異常摩耗するとともに、こし器が閉塞(へいそく)して潤滑油圧力が低下し、同年5月1日03時00分、北緯2度49分東経133度50分の地点で、減速機潤滑油の圧力低下警報装置が作動した。
当時、天候は晴で風はなく、海上は穏やかであった。
A受審人は、揚げ縄作業で操舵室の外で遠隔操船中、警報音が鳴ったので直ちに機関室に下りて主機を停止したのち、減速機を点検したところ、ケーシングが手で触れないほど過熱していたので運転を断念した。
A受審人は、その後、無線で整備業者と相談しながらこし器や冷却器の掃除などを行った結果、同業者から潤滑油ポンプが損傷しているおそれがあると指摘されたため、同ポンプを同業者に手配するとともに無線で連絡をとりあって同型ポンプの予備を持っている僚船を見つけ、同月5日夕刻、ポンプを受け取って取り替えたうえ、操業を再開した。
本船は、同月24日操業を終えて泊漁港に帰港したのち、整備業者による減速機の開放点検の結果、前進クラッチ仕組、前進歯車及び前後進歯車軸受等が著しく摩耗損傷していることが判明し、損傷部品をすべて新替えしたほか、作動油及び潤滑油系統の内部洗浄ののち潤滑油が取り替えられた。

(原因)
本件機関損傷は、主機減速機の潤滑油の性状管理が不十分で、同油が劣化して作動油圧調整弁が固着気味となり、同油圧が低下してクラッチ板に滑りが生じたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、減速機の運転管理に当たる場合、潤滑油が劣化するまま運転を続けていると、同機が損傷するおそれがあったから、同油を定期的に取り替え、また、こし器を掃除するなど、性状管理を十分行うべき注意義務があった。ところが、同人は、油量の減少がないことから運転に支障がないものと思い、同曲の性状管理を十分行わなかった職務上の過失により、潤滑油が劣化するまま運転を続け、クラッチ板に滑りを生じさせて多量の金属摩耗粉の発生を招き、前進歯車、前進クラッチ仕組、前後進歯車軸受及び潤滑油ポンプ等を損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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