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1998年(平成10年)

平成9年横審第79号
    件名
油送船愛和丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年9月30日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

川原田豊、勝又三郎、河本和夫
    理事官
花原敏朗

    受審人
A 職名:愛和丸機関長 海技免状:三級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
過給機の各軸受焼損、ロータ軸やケーシングも損傷

    原因
主機過給機の通油状況の確認不十分

    主文
本件機関損傷は、主機過給機の通油状況の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年12月7日07時45分ごろ
横須賀港沖
2 船舶の要目
船種船名 油送船愛和丸
総トン数 699トン
登録長 70.21メートル
機関の種類 ディーセル機関
出力 1,323キロワット
3 事実の経過
愛和丸は、平成元年8月に進水した、ガソリンや軽油などの輸送に従事する油送船で、機関室には主機として連続最大回転数毎分280の過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関が、逆転機を介しプロペラ軸系に直結されるとともに、荷油ポンプをクラッチで連結して前駆動するようになっており、機関本体と過給機に独立の潤滑油系統が設けられ、主機を機側で始動のあと操舵室操縦盤で遠隔操縦し、操縦盤又は機関室の操縦装置監視盤に油圧や温度など主機の運転状態に対する警報装置が装備されていた。
過給機は三菱重工株式会社が製造したMET30SR型で、その潤滑油系統には、サンプタンクの約1,200リットルのタービン油が、吸入側と吐出側に油こし器を備えた電動の潤滑油ポンプにより、潤滑油冷却器、自動温度調整弁及び圧力調整弁を経て、1.2ないし1.3キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)の入口油圧でケーシング内部の油路を通り、ロータ軸をほぼ中央部で支持する平軸受のタービン側とブロワー側各軸受に給油されていた。一方同油系統は主機潤滑油系からも給油できる配管になっていたが、配管接続部に取り付けた盲板と入口弁で通常は分離されており、過給機の系統には入口側に給油圧0.6キロで作動する潤滑油圧力低下と、出口側サイトグラスを経たあとのエアーセパレータに摂氏80度で作動する潤滑油温度上昇の各警報装置が備えられていた。
本船は、A受審人ほか6人が乗組み、同7年12月6日京浜港川崎区で軽油2,000キロリットルを積み、横須賀港停泊中の自衛艦に供給する目的で、同日14時10分同港外に到着したが翌日朝まで仮泊することになり、機関終了後同人と一等機関士の機関部員二人が、15時から主機と主機過給機潤滑油系の油こし器を掃除するなどの機関室作業を行い、同受審人が、過給機潤滑油系の30メッシュ金網を備えた吸入側とノッチワイヤー式の吐出側各油こし器の掃除を行った。
A受審人は、油こし器掃除の際、それにつながる配管の弁を漏油防止のため閉めることにしており、このときも過給機の潤滑油入口弁を閉めて作業したが、同日16時過ぎに機関室作業を終えたあと同弁を開けるのを失念し、さらに作業を終えたあと同こし器エアー抜きのため、ポンプを運転して吐出圧が高いのを認めたものの、ハンドル前の計器盤で過給機の給油圧、サイトグラスの通油状況をいずれも確認せず、潤滑油系統が閉鎖状態であることに気付かないまま船室に戻って休息した。
翌7日06時20分A受審人は、一等機関士とともに機関用意にかかり、主機及び過給機の各潤滑油ポンプなどを運転したが、このときも過給機の給油圧や通油状況を点検せず、ポンプを運転しているので大丈夫と思い、そのあとすぐ朝食をとるため食堂に行き、07時過ぎ両人が機関室に下りてきてスタンバイに備え主機を始動することとし、各部の状況確認を適切に行うことなく同受審人が機関室上段にいて、一等機関士が機側で主機始動のうえ警報装置の元スイッチ投入を行った。警報装置への通電と同時にいくつかの停止中機器とともに、過給機油圧低下の警報も吹鳴したが、いつもの操作に伴うこととして直ちに監視盤の警報停止ボタンを押し、警報ブザーを停止しただけで両人とも依然として状況確認をせず、主機を毎分約120回転に運転して遠隔操縦に切り替え、作業などに従事するため甲板に上がった。
こうして本船は、07時20分抜錨のうえ船長が操舵室で一人で操船に当たり、港内に向け微速前進し徐々に主機を毎分210回転まで増速するうち、過給機の各軸受が潤滑阻害され、過熱した滞留油がエアーセパレータに流入したことにより、07時45分ごろ横須賀港東北防波堤東灯台から真方位065度640メートルの地点において、過給機潤滑油温度上昇の警報ブザーが吹鳴し、これを認めた船長が直ちに主機を減速した。
当時、天候は晴で風力1の北北西風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、食堂で待機中に船長から過給機異常の連絡を聞いて機側ハンドル前に急行し、計器盤で過給機油圧の異常低下を認めてようやく前示入口弁の閉鎖を思い出し、主機フライホイールの上にある同弁を開け、サイトグラスで通油しているのを確かめ、その後も主機の運転を続けたが、過給機は各軸受の焼損によりロータ軸やケーシングも損傷しており、その後同機はロータ軸を換装するなど修理された。

(原因)
本件機関損傷は、主機過給機の油こし器を掃除した際、作業後の通油確認が十分でなかったばかりか、主機始動時の各部の状況確認も適切に行わず、過給機への給油を遮断した状態で運転し、軸受の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機過給機の油こし器を掃除した場合、潤滑油系統を開放したり入口弁を閉めたりしていたのであるから、作業を終えたあと通油状況を十分に確認すべき注意義務務があった。しかし同人は、その確認をしなかったばかりか、ポンプを運転しているので大丈夫と思い、主機始動時にも各部の状況確認を適切に行わなかった職務上の過失により、ロータ軸などを損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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