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1998年(平成10年)

平成9年横審第58号
    件名
旅客船道後機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年9月4日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

川原田豊、勝又三郎、河本和夫
    理事官
花原敏朗

    受審人
    指定海難関係人

    損害
左舷機の主軸受及びクランクピン各軸受メタル焼損、両舷機とも、A7及びA8各シリンダの連接棒小端部とバランスウェイトに干渉の痕跡

    原因
主機の設計・構造不良(バランスウェイト外周部と連接棒小端部の隙間)

    主文
本件機関損傷は、主機運転中、ピストン下死点位置で互いに替わる、クランク軸のバランスウェイトと連接棒の隙間が十分でなかったことによって発生したものである。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年9月3日19時44分ごろ
瀬戸内海音戸瀬戸東方
2 船舶の要目
船種船名 旅客船道後
総トン数 189トン
機関の種類 ディーゼル機関
出力 3,677キロワット
3 事実の経過
道後は、平成5年10月に進水した軽合金製双胴型の旅客船で、長さ27.65メートル、幅9.80メートル、深さ3.50メートルの船体の、船楼の船橋甲板前部に操舵室が、同室後部とその下の上甲板に総定員156名の客席が設けられ、両舷胴部の各機関室に、いずれもA株式会社B工場(以下「A社」という。)が製造した、主機の16V16FX型機関及びJ650R型ウォータージェット推進装置を連結して据え付け、操舵室から遠隔操縦されるようになっていた。
主機は、それぞれ連続最大出力1,838.8キロワット同回転数毎分1,900、全長約3.7メートル、全高約1.7メートル、全幅約1.3メートル、乾燥重量約5.5トンの過給機付4サイクル16シリンダ・V型ディーゼル機関で、径165ミリメートル(以下「ミリ」という。)の各シリンダには、V角度60度の左側列をA、右側列をBとしてそれぞれに船尾側から順番号が付され、クランク軸の主ジャーナル及びクランクピン各軸受にリーレンラガーメタルを装備し、バランスウェイトが各クランクアームに締めボルトで取り付けられていた。
また潤滑油系統は、潤滑油約200リットルを各クランク室に保有するウエットサンプ方式で、直結ポンプを出たあとの油路が潤滑油冷却器から自動逆洗式油こし器に至る経路と、遠心ろ過器を通りクランク室に戻る側流清浄の経路とに分岐され、油こし器の公称ろ過能力15ミクロンの積層エレメントを通った各部への給油が、約5.5キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)の機関入口油圧で主軸受、クランクピン軸受を順に潤滑して連接棒の油孔でピストンに導かれるなどしており、同油圧の低下により約3.3キロで油圧低下警報装置が、0.8キロで危急停止装置が作動するようになっていた。
本船は、甲板部と機関部各2名及びマリンガール1名ないし2名が乗り組み、同年12月中旬より他の旅客船とともに広島県広島港と愛媛県松山港の間を往復する旅客輸送に従事し、通常広島港の07時30分始発から21時過ぎ同港着の最終まで、1日14便のうちの3便または4便を受け持ち、両舷主機をそれぞれ75ないし80パーセント出力毎分約1,800回転の全速力に運転し、音戸瀬戸で一時減速するものの片航海が1時間10分ほど約31ノットの平均速力で運航した。
航行中は船長及び機関長が操舵室で航海当直に当たり、機関の運転状況などがCRT装置で常時監視されるとともに適宜機関室の見回りもなされ、主機については、乗組員が点検を主にした日常作業と潤滑油取り替えを350時間運転ごとに、また開放をともなう主要部分の点検や整備作業はA社の関連会社に依頼して行い、1年間約3,740時間特に問題なく運転された後、翌6年12月第一種中間検査のため入渠し、両舷主義を開放のうえ4,000時間定期の整備が行われ、やや磨耗の認められた主軸受及びクランクピン軸受の各軸受メタル、ゴムエレメントに亀裂を生じた軸系の弾性継手を取り替えるなど整備された。
ところでV16FX型機関は、A社が過去の機関製造実績をもとに、信頼性の高い高速船用主機関として、約3年前の平成3年初頭より開発に着手し、翌4年末より製造開始した機関であるが、高出力軽量化を図ってコンパクトにまとめ、かつバランスウェイト大型化など動的に均衡させることを最大限に追求した結果、運転中ピストンの下死点位置において、クランク軸クランクアームのバランスウェイトと連接棒が、回転あるいは上下に往復しながら互いにすれ違うとき、バランスウェイト外周部と連接棒小端部のピストンピン軸受ハウジング張出し部が著しく接近し、1ミリ前後の隙間で替わるように設計されていた。
そのため平成3年半ばから翌4年半ばにかけて行われた試験機の組立や試験運転の過程で、バランスウェイトとスラストメタルとの接触などが認められたので対策施行のうえ、その後製造段階でもさらに検討が重ねられるうち、クランクピン軸受メタルやスラストメタルの油隙間、あるいは回転数変動時の慣性力によっても、わずかではあるが連接棒の傾斜やクランク軸の軸方向移動などの変位を生じ、これがバランスウェイトの外周部表面の加工状態と相互に作用し、バランスウェイトの干渉と称する、外周部と小端部との擦過または接触を生ずるおそれのあることが明らかとなった。
A社設計室は、その対策を他の関連部署とともに製造後の技術事項を審議する対策会議で検討し、隙間に余裕をもたせるよう翌5年9月図面寸法に公差を入れ、さらに最終対策として同11月溶断加工のままであった、外周部の角を面取り削除する機械加工の工程を追加するなど、バランスウェイトを一部設計変更して隙間を十分に確保することとし、製造中の機関や在庫品の旧型バランスウェイトに対し直ちにこれら変更に基づいた干渉防止の措置を行った。
しかし当時16V16FX型機関の7番機及び8番機として製造され、すでに同年7月工場試験を終えていた道後の主機や、それ以前に製造され同様に旧型バランスウェイトを備えた稼働中の機関については、干渉の報告がなかったことから、そのおそれはないと判断されて何も対策が施されず、干渉するおそれの有無確認も行わないまま運転が続けられることとなった。
このような経過を経て主機は、中間検査後も入渠前と同様に運転されていたところ、開放整備のとき潤滑油系に残留した異物が要因となったのか、1年目の整備で軸受メタルを取り替えるなど、もともと潤滑油性状あるいは油こし器のろ過能力に不足があったためか、クランクピン軸受などの摩耗進行により連接棒がより大きく変位するようになり、いつしか左舷主機A7シリンダのバランスウェイト外周部と連接棒小端部が接触し、その影響で連接棒がわずかに傾斜したり次の上向き慣性力で元に戻るとき、クランクピン軸受が片当たりして面圧過大となり、同軸受メタルを次第に損傷する状況となった。
こうして本船は、同7年9月3日19時乗客34名を乗せて松山港を出港し、広島港向け両舷主機を全速力に運転して音戸瀬戸東方海上を航行中、前示クランクピン軸受メタルが終に焼損し、給油に混入した磨耗粉などで油こし器が詰まり、次第にエレメント前後の差圧が上昇してバイパス系路が開き、異物が流入したため他軸受にも損傷拡大して油圧が低下し、同日19時44分ごろ音戸大橋橋梁灯(C1灯)から真方位124度680メートルの地点において、油圧低下警報を発するとともに左舷主機が危急停止した。
当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、海上は穏やかであった。
本船は、右舷主機のみの緊急運転により続航して広島港に入港し、主機を両舷とも開放のうえ各部点検の結果、左舷機の主軸受及びクランクピン各軸受メタル焼損のほか、程度の差はあるが両舷機とも、A7及びA8各シリンダの連接棒小端部とバランスウェイトに干渉の痕跡がそれぞれ認められ、左舷機のクランク軸及び各軸受メタルとひずみを生じたクランク室などを取り替え修理するとともに、各バランスウェイトに対し外周部の角を削除する追加工を行い、さらに旧型バランスウェイトを備えた他の船の機関についても、同様に連接棒との隙間を確保する措置が講じられた。

(原因)
本件機関損傷は、主機運転中、ピストン下死点位置でクランク軸のバランスウェイトと連接棒が互いに至近を替わる際、バランスウェイト外周部と連接棒小端部の隙間が不十分で、連接棒がわずかに傾斜するなどして互いに接触し、その影響でクランクピン軸受に過大な面圧を生じたことによって発生したものである。
機関製造者が、製造後のV16FX型機関に対し、バランスウェイトと連接棒の隙間を十分に確保するよう措置しなかったことは、本件発生の原因となる。

(指定海難関係人の所為)
指定海難関係人A社設計室が、V16FX型機関のバランスウェイトを設計変更した際、製造後の機関に対し連接棒との隙間を十分に確保する措置を行わなかったことは、本件発生の原因となる。同設計室に対しては、その後隙間を確保する措置が講じられたことに徴し、勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。






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