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1998年(平成10年)

平成9年仙審第31号
    件名
漁船第七福徳丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年9月29日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

安藤周二、?橋昭雄、今泉豊光
    理事官
小野寺哲郎

    受審人
A 職名:第七福徳丸機関長 海技免状:三級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
2号補機の6番シリンダのピストンが過熱膨張し、同ピストンがシリンダライナ摺動面に焼付き固着して破断、連接棒が振れ回ってシリンダブロックを割損

    原因
発電機原動機の潤滑油の性状管理不十分

    主文
本件機関損傷は、発電機原動機の潤滑油の性状管理が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年4月12日10時00分(日本標準時)
アフリカ西岸沖
2 船舶の要目
船種船名 漁船第七福徳丸
総トン数 379トン
全長 53.51メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 735キロワット
回転数 毎分350
3 事実の経過
第七福徳丸(以下「福徳丸」という。)は、昭和61年9月に進水したまぐろはえ縄漁業に従事する中央船橋型の鋼製漁船で、上甲板に漁労設備、船首側から後方に冷凍魚倉及び船尾側に機関室を設け、同室の上段に冷凍機区画及び下段の中央部に主機を配置し、船内電源装置として、主機の右舷側に電圧225ボルト容量350キロボルトアンペア3相交流の1号発電機及び左舷側に同電圧容量の2号発電機を備え、各発電機駆動用の過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関の原動機を装備していた。
2号発電機原動機(以下「2号補機」という。)は、株式会社新潟鉄工所が製造した6NSBC-G型と称し、各シリンダには船首側を1番として6番までの順番号が付されており、一体型のアルミニウム合金製のピストンが装着され、ピストン冷却噴油ノズル(以下「噴油ノズル」という。)がシリンダライナの下方に取り付けられていて、潤滑油が口径4ミリメートルの同ノズルからピストンヘッドのシェーカー形冷却室に噴出するようになっていた。同機の潤滑油系統は、総油量が約130リットルで、クランク室下部の油だめから直結式潤滑油ポンプに吸引された油が、油冷却器及びノッチワイヤ複式の油こし器を経て潤滑油主管に至り、同主管から主軸受及びクランクピン軸受の系統と、噴油ノズル、調時歯車装置及び動弁装置などの系統とに分岐し、各部の潤滑あるいは冷却を行い、油だめに戻って循環しており、油清浄装置として遠心式濾(ろ)過器を付設していた。
ところで、2号補機の潤滑油は、長時間使用されているうちにカーボン粒子及びスラッジ等の燃焼生成物の混入により汚れるとともに高温にさらされて性状の劣化が進行するので、定期整備の標準として、500時間の運転を経過するごとに油を取り替えることが取扱説明書で指示されていた。
A受審人は、平成5年3月に福徳丸の機関長として乗り組み、2号補機を常用運転しており、同7年12月上旬に業者に依頼して同機のピストンを抜き出すなどの定期整備を行い、その際に油だめ内部及び噴油ノズルなどがそれぞれ掃除されて潤滑油が新油と取り替えられ、同月16日いったん下船した。
福徳丸は、船員15人が乗り組み、操業の目的で、船首1.85メートル船尾4.70メートルの喫水をもって、同月18日11時50分宮城県気仙沼港を発し、インドネシア共和国ベノア港に寄せて同国人船員6人を乗せたのち、翌8年1月11日A受審人がモーリシャス共和国ポートルイス港において機関長として復船し、大西洋の漁場に向かい、同月29日同漁場に至って操業を繰り返した。その後、2号補機の潤滑油は、気仙沼港を出港してから連続運転による消費分に見合う量が補給されていたものの、定期整備の標準取替え時間を大幅に超えて使用されていたので、汚損劣化が進行して燃焼生成物のスラッジ等が噴油ノズルに付着し、これが次第に増加する状況となっていた。
しかし、A受審人は、2号補機の潤滑油の管理にあたり、半年ごとの間隔で同油を取り替えていて、継続使用しても特に差し支えないものと思い、同油を適正間隔で取り替えるなどしてその性状管理を十分に行うことなく、前示状況のままに運転を続けた。
こうして、福徳丸は、主機を回転数毎分240にかけて5.0ノットの対地速力で航行しながら揚げ縄の操業を行い、漁労設備及び冷凍魚倉冷却用等に電力負荷190キロワットで給電して2号補機を単独運転中、同機の潤滑油が2,693時間使用されて著しく汚損劣化していたところ、6番シリンダの噴油ノズルがスラッジ等の付着により噴油量不足の状態となり、同シリンダのピストンが過熱膨張し、平成8年4月12日10時00分北緯6度29分西経27度8分の地点において、同ピストンがシリンダライナ摺(しゅう)動面に焼付き固着して破断し、連接棒が振れ回ってシリンダブロックを割損し、同機が異音を発した。
当時、天候は晴で風がほとんどなく、海上は穏やかであった。
A受審人は、自室で休息中、異音と停電に気付いて機関室に急行し、船内電源を1号発電機に切り替えて復旧したが、2号補機の損傷を認めて運転不能と判断し、その旨を船長に報告した。
福徳丸は、2号補機の修理のため、操業を打ち切ってカナリア諸島ラスパルマス港に向かい、業者が同港に出張して各損傷部品を新替えした。

(原因)
本件機関損傷は、発電機原動機の潤滑油の性状管理が不十分で、同油が長時間使用されて著しく汚損劣化したまま運転が続けられ、ピストン冷却噴油ノズルがスラッジ等の付着により噴油量不足の状態となり、ピストンが過熱したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、発電機原動機の潤滑油の管理にあたる場合、同油の汚損劣化が進行するとピストン冷却噴油ノズルがスラッジ等の付着により噴油量不足の状態となるおそれがあったから、同油を適正間隔で取り替えるなどしてその性状管理を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、潤滑油を継続使用しても特に差し支えないものと思い、同油を適正間隔で取り替えるなどしてその性状管理を十分に行わなかった職務上の過失により、ピストン冷却噴油ノズルの噴油量が不足し、ピストンが過熱膨張してシリンダライナ摺動面に焼付き固着を招き、ピストンの破断により連接棒が振れ回り、シリンダブロック等の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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