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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成7年11月10日21時20分 青森県津軽半島北西方沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船第五進栄丸 総トン数 19.97トン 登録長 16.95メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力
250キロワット 回転数 毎分1,890 3 事実の経過 第五進栄丸(以下「進栄丸」という。)は、昭和43年3月に進水し、いか一本釣漁業などに従事する木製漁船で、主機としてアメリカ合衆国カミンズディーゼル株式会社が製造した清水冷却式KT1150M型ディーゼル機関を装備し、シリンダには船首方から順番号を付け、船橋から主機及びクラッチの遠隔操作ができるようになっていた。 主機の冷却清水系統は、主機直結の冷却清水ポンプによって加圧された清水が二方に分かれ、一方が潤滑油冷却器を経てシリンダライナ、シリンダヘッドを、他方が排気マニホルドをそれぞれ冷却したのち出口集合管に送られ、続いて自動温度調整弁で清水タンク、清水冷却器を経由するものと、それらをバイパスするものとに分かれ、再び同ポンプの吸入側で合流するようになっていた。なお、シリンダは、ライナ型で、シリンダライナ下部に装着したOリングによってジャケット内の冷却清水の漏洩(えい)を止めていた。 進栄丸は、平成7年10月20日20時ごろ、北海道礼文島付近の海域で操業中、主機の冷却清水ポンプ軸が同軸を支えている玉軸受が著しく摩耗したかして折損し、冷却清水が循環されなくなって冷却水温度上昇警報装置が作動した。操舵室にいたA受審人は、機関室へ駆け下りて過熱した主機を停止し、冷却清水量などを点検して正常であることを確認したものの過熱原因が不明のため操業を切り上げ、主機の停止と低速運転を繰り返して同島の香深井(かふかい)漁港に入港した。 翌21日、A受審人は、地元の鉄工所に過熱原因の調査を依頼したところ、冷却清水ポンプ軸の折損が判明したが、鉄工所に同ポンプの在庫がなく取り寄せるのに時間がかかるので稚内港にて修理することとし、応急配管して雑用水系統から冷却清水系統へ海水を供給しながら同港に入港し、機関販売業者に依頼して同ポンプを新替えした。 その後進栄丸は、青森県北津軽郡小泊村小泊漁港へ回航する目的で、同年11月2日稚内港を発して北海道西方沖を南下中、荒天の日が多く最寄りの港に避難しながら同漁港に向かっていたところ、前示の冷却清水ポンプ軸の折損により主機が過熱したとき、3番シリンダのシリンダライナ下部Oリングが過熱硬化してその機能が低下したため、シリンダジャケット内の冷却清水が同Oリング装着部からクランク室に漏洩して潤滑油に混入するようになり、やがて、同油が劣化して主軸受メタルなどが潤滑不良気味となり、同月10日06時ごろ、クランク室ミスト抜き管から白煙を生じた。A受審人は、直ちに主機を停止し、清水タンク内を点検して水量が減少しているのを認め、清水を補給したのち低速運転にて08時00分小泊漁港に入港した。 A受審人は、岸壁に係留したのち機関室に下りて主機回りを点検し、潤滑油量の増加及び同油の性状劣化と冷却清水量の減少とを認め、潤滑油中に冷却清水が混入しているものと判断したものの、同清水の漏洩箇所が分からなかった。ところが、同人は、出漁して主機を運転していればそのうち漏水箇所がはっきりし、それから修理しても間に合うと思い、水圧試験などによる漏水箇所の調査を整備業者に依頼しなかったので、3番シリンダのシリンダライナ下部Oリング装着部から漏水していることに気付かず、オイルパン内の潤滑油を新替えしたのみで操業を再開することとした。 こうして進栄丸は、A受審人ほか1人が乗り組み、同日13時00分小泊漁港を発し、15時ごろ同漁港北西方の漁場に至り主機のクラッチを切ってパラシュート形シーアンカーを入れ、17時ごろ主機を回転数毎分1,550にかけ集魚灯を点灯して操業を開始したところ、漏れた冷却清水で潤滑油が著しく劣化し、このため3、4、5番主軸受が潤滑不良により焼損し、21時20分小泊岬北灯台から真方位306度15海里の地点において、クランク室ミスト抜き管から黒煙が吹き出し、冷却水温度上昇警報装置が作動した。 当時、天候は曇で、風力1の西風が吹き、海上は穏やかであった。 A受審人は、機関室に下り、清水タンク内の水量の著しい減少とオイルパン内の潤滑油量の増加及び同油の白濁とを認めて操業を打ち切り、清水を補給したのち主機を再始動し、低速運転と停止とを繰り返して小泊漁港に入港した。 その結果、主機は、前示損傷のほかクランク軸、主軸受ハウジング部に焼損、カム軸に剥(はく)離、1、4、5、6番のシリンダヘッド触火面及び過給機排気出口ケーシングに過熱による亀裂などの損傷を生じており、修理業者に中古機関との換装を勧められたが、船体も老朽化していたことから船体及び機関を廃棄した。
(原因) 本件機関損傷は、主機潤滑油中に冷却清水が混入した際、漏水箇所の調査が不十分で、シリンダライナ下部Oリング装着部より同清水がクランク室内に漏洩したまま運転が続けられたことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、主機潤滑油中に冷却清水の混入を認め、同清水の漏洩箇所が不明であった場合、劣化した潤滑油により主軸受などが焼損することのないよう、業者に依頼して水圧試験などによる漏水箇所の調査をすべき注意義務があった。しかるに、同人は、出漁して主機を運転していればそのうち漏水箇所がはっきりし、それから修理しても間に合うと思い、業者に依頼して水圧試験などによる漏水箇所の調査をしなかった職務上の過失により、冷却清水がシリンダライナ下部Oリング装着部から漏洩して潤滑油が著しく劣化したまま運転を続け、主軸受、クランク軸などを焼損させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |