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1998年(平成10年)

平成10年那審第19号
    件名
貨物船平成丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年8月27日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁那覇支部

井上卓、東晴二、小金沢重充
    理事官
寺戸和夫

    受審人
A 職名:平成丸機関長 海技免状:二級海技士(機関)
    指定海難関係人

    損害
直結潤滑油ポンプ焼損、同ポンプ駆動歯車のブッシュ焼損等

    原因
主機の潤滑油系統の点検不十分

    主文
本件機関損傷は、主機の潤滑油系統の点検が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年10月6日05時00分
奄美大島東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 貨物船平成丸
総トン数 696トン
全長 67.58メートル
機関の種類 過給機付14サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,177キロワット
回転数 毎分650
3 事実の経過
平成丸は、平成2年4月に進水したセメント運搬業務に従事する鋼製貨物船で、主機としてヤンマーディーゼル株式会社が製造したZ280-EN型ディーゼル機関を備え、大分県津久見港で積荷して鹿児島県の志布志港、古仁屋港、亀徳港及び早町漁港へ揚荷するなどの、主機の月間運転時間が約500時間となる運航を行っていた。
ところで、主機の潤滑油系統は、ドライサンプ方式で、二重底内のサンプタンク内に約2,700リットルの潤滑油が入れられ、潤滑油が、同タンク上に設けた主潤滑油取出弁から2筒式潤滑油1次こし器(以下、「こし器」という。)、吸入弁を介して主機直結駆動の歯車式潤滑油ポンプ(以下、「直結潤滑油ポンプ」という。)により吸引加圧され、吐出弁、潤滑油冷却器を経て潤滑油主管に至り、同主管から各部に送られ、潤滑したのちクランク室へ落下し、更にサンプタンクへ落下するようになっていた。潤滑油主管の潤滑油圧力は、機関制御室に備えられた遠隔計器盤に組み込まれた潤滑油圧力計に表示されるようになっていて、主機運転中の同圧力が3.9キログラム毎平方センチメートル(以下、「キロ」という。)であった。また、別に直結潤滑油ポンプによらない補助潤滑油系統があり、それは、サンプタンク上に設けた補助潤滑油取出弁から、潤滑油が電動の補助潤滑油ポンプにより吸引加圧されたのち、潤滑油冷却器を介して同主管に至るもので、主機停止中には手動により補助潤滑油ポンプを始動し、また、主機運転中に同主管の潤滑油圧力が2.5キロ以下に低下したときには自動的に補助潤滑油ポンプを始動し、同主管の潤滑油圧力を維持して主機各部の潤滑を行うようになっていた。そして、主機運転中の同主管の潤滑油圧力が2.5キロ以下になったときには、潤滑油圧力低下警報装置が作動するようになっていた。
潤滑油系統の吸入弁から直結潤滑油ポンプ間の吸入管は、外径約114ミリメートル長さ約2ないし3メートルの両端にフランジを設けた鋼管2本を直列に接続したもので、各フランジ間に石綿ジョイントシート製のガスケットを挟んでボルトで締め付けられていたが、機関振動等の影響を受け、いつしか吸入弁と吸入管のフランジを締め付けた8本のボルトに緩みを生じ、平成9年8月10日ごろには、締付けが緩んだフランジ間の隙間(すきま)から僅(わず)かながら空気を吸引する状況となった。このため、潤滑油主管の潤滑油圧力は、低下気味となり、更にボルトの緩みが進行して吸引する空気量が増加するようになった。また、締付けが緩んだ吸入弁と吸入管のフランジ間のガスケットは、潤滑油浸透等の影響を受けて材質の劣化が進行した。
A受審人は、新造以来機関長として乗り組み、機関の運転管理に当たっていたもので、同月28日に主機潤滑油主管の潤滑油圧力が3.7キロまで低下したことに気付き、翌29日亀徳港入港後こし器を開放して掃除を行ったものの、同圧力が回復しなかったが、潤滑油圧力の低下が直ちに主機各部に異状を来す程ではなかったので、大丈夫と思い、吸入弁と吸入管のフランジの締付け状態を確認するなどして、潤滑油系統の点検を行わず、吸入弁と吸入管のフランジを締め付けたボルトが緩み、更にその緩みが進行していることも、ガスケットの劣化が進行していることにも気付かないままとなった。
こうして平成丸は、A受審人ほか5人が乗り組み、セメント895トンを積み、船首3.03メートル船尾3.82メートルの喫水をもって、同年10月6日02時24分古仁屋港を発し、早町漁港へ向かった。そして、平成丸は、主機を毎分回転数625の全速力前進に掛けて航行中、著しく劣化したガスケットが破損し、その破片が多量の空気と共に直結潤滑油ポンプに吸引され、同日05時00分シツル埼灯台から真方位235度9.9海里ばかりの地点において、同ポンプが焼損した。
当時、天候は晴で風力3の北風が吹いていた。
当直中のA受審人は、潤滑油圧力低下警報装置の作動と補助潤滑油ポンプが自動始動したことに気付き、主機を停止して調査した結果、直結潤滑油ポンプの焼損を認め、続航不能と判断した。
平成丸は、引船によって古仁屋港へ引き付けられ、精査の結果、前示焼損のほか、同ポンプ駆動歯車のブッシュが焼損する等の損傷が生じていることが発見され、のち、いずれも新替えする修理を行った。

(原因)
本件機関損傷は、主機潤滑油主管の潤滑油圧力が低下した際、潤滑油系統の点検が不十分で、機関振動等の影響により、直結潤滑油ポンプの吸入弁と吸入管のフランジを締め付けたボルトに生じた緩みが進行し、また、緩んだフランジ間のガスケットが潤滑油浸透等の影響を受けて材質が劣化するままとなり、直結潤滑油ポンプが、著しく劣化して破損したガスケットの破片と多量の空気を吸引したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機潤滑油主管の潤滑油圧力が低下したことを認め、直結潤滑油ポンプ入口側のこし器を開放掃除したものの、同圧力が回復しなかった場合、吸入弁と吸入管のフランジの締付け状態を確認するなどして潤滑油系統の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、潤滑油圧力の低下が直ちに主機各部に異状を来す程でなかったので、大丈夫と思い、潤滑油系統の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、機関振動等の影響により直結潤滑油ポンプの吸入弁と吸入管のフランジを締め付けたボルトが緩み、更にその緩みが進行していることも、緩んだフランジ間のガスケットが潤滑油浸透等の影響を受けて材質の劣化が進行していることにも気付かないままとなり、直結潤滑油ポンプが、著しく劣化して破損したガスケットの破片と多量の空気を吸引する事態を招き、同ポンプの焼損等を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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