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1998年(平成10年)

平成9年広審第72号
    件名
漁船共進丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年8月28日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

杉?忠志、上野延之、横須賀勇一
    理事官
弓田邦雄

    受審人
A 職名:共進丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定・旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
全カム軸受、1番、2番及び3番シリンダの各燃料カム並びに1番及び2番シリンダの同ポンプ駆動装置、1番、2番及び3番シリンダの吸気弁及び排気弁の各駆動装置など損傷

    原因
主機潤滑油こし器を開放整備して復旧する際、こし筒の点検不十分

    主文
本件機関損傷は、主機潤滑油こし器を開放整備して復旧する際、こし筒の点検が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年9月20日04時10分
日本海西部
2 船舶の要目
船種船名 漁船共進丸
総トン数 86トン
登録長 28.00メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 661キロワット
回転数 毎分395
3 事実の経過
共進丸は、昭和63年5月に進水した、主に沖合底びき網漁業に従事する鋼製漁船で、主機として株式会社赤坂鐡工所が製造したT26SR型と称するディーゼル機関を装備し、主機の動力取出軸にエアクラッチを介してベルトで駆動される容量60KVAの交流発電機2台及び油圧ポンプ2台をそれぞれ備え、操舵室に主機の操縦装置、警報装置及び計器盤を設け、同室から主機及び逆転減速機の遠隔操縦ができるようになっていた。
主機は、シリンダ径260ミリメートル(以下「ミリ」という。)、ピストン行程440ミリのもので、各シリンダに船首側を1番として6番までの順番号が付され、各シリンダのシリンダヘッド中央部に燃料噴射弁があり、左舷側にカム室、各シリンダのボッシュ式燃料噴射ポンプ、吸気弁及び排気弁の各プッシュロッドが、右舷側に吸気管及び排気集合管がそれぞれ設けられていた。
主機の潤滑油系統は、クランク室底部の油だめから直結の潤滑油ポンプにより吸引加圧された潤滑油が、圧力調整弁によって約3キログラム毎平方センチメートルに調圧されたのち、潤滑油こし器及びワックス式温度調整弁を備えた潤滑油冷却器を経て、呼び径65ミリの入口主管の船首端に至り、同主管からシリンダごとの枝管に分流して主軸受、クランクピン軸受及びピストンピン軸受を順に潤滑するほか、同主管の船尾端から呼び径15ミリの枝管及び継手ボルトを介してカム室内に設けられたカム軸注油路に導かれ、カム軸受、カム及び燃料噴射ポンプなどの駆動装置を潤滑し、いずれも油だめに戻るようになっており、更に同主管から分流した一部の潤滑油が6番シリンダの船尾左舷側に設けられた機側計器盤の圧力計に至るもの、潤滑油圧力低下警報装置及び潤滑油圧力低下自動停止装置に至るもの、そのほかに同こし器の出口管から分流して遠心式清浄器に至り、不純物が除去されて油だめに戻るもの、及び圧力調整弁から分流して補助潤滑油タンクに至り、オーバーフローして油だめに戻るものとなっていた。
また、主機の潤滑油こし器は、機関室の船尾右舷側に据え付けられており、こし器本体を2個並列した複式のもので、同本体のそれぞれに250メッシュの金綱を取り付けた高さ337ミリ直径140ミリのこし筒を挿入し、潤滑油がこし筒の内側から外側に通過してスラッジ及びカーボンなどの不純物を捕捉(ほそく)するようになっていた。
ところで、主機のカム軸は、シリンダごとの排気カム、燃料カム及び吸気カムが装着されていて、船首側から1番から7番までの順番号が付されたカム軸受でカム室内のシリンダブロックに取り付けられており、6番シリンダ後部のクランク軸に取り付けられたクランク軸歯車によりこれとかみ合う中間歯車を介してカム軸駆動歯車が駆動されて回転し、装着されたそれぞれのカムにより、排気弁、燃料噴射ポンプ及び吸気弁の各駆動装置を上下に作動させて、排気弁及び吸気弁の開閉時期、同ポンプの噴射時期などを制御するようになっていたが、カム軸注油路への潤滑油供給量が著しく減少したまま運転を続けると、カム軸受及びカムが損傷するほか、駆動装置のガイドピストンなどが膠着(こうちゃく)して主機の回転数が変動するおそれがあった。
共進丸は、兵庫県香住港を基地として、隠岐諸島周辺から山口県沖合の日本海西部の漁場で、1航海が3日ないし5日間の操業を9月から翌年5月まで繰り返し、毎年6月1日から8月末日までの期間を休漁期間として船体及び機関の整備を行っていたところ、例年どおり平成8年6月1日から休漁期となったので、同月5日から定期検査工事を行うこととなり、主機を開放整備して受検し、同工事を同月下旬に終えたのち、同港内に係留して越えて9月1日の漁の解禁まで停泊待機することとなった。
A受審人は、進水時から機関長として乗り組み、1人で機関の運転と保守にあたり、前示の定期検査工事に立ち会って主機各部の点検整備を行い、油だめ及び補助潤滑油タンクの潤滑油の全量を取り替え、復旧後に試運転を行って異常のないことを確認したものの、試運転後に潤滑油こし器を開放したところ、潤滑油中に混入したカーボンや糸屑(いとくず)などの不純物でこし筒が汚れていたことから、操業を開始するまで潤滑油の油通しを兼ねて1週間ごとに30分間ばかりの係留運転を行い、その都度、同こし器の開放整備を行っていた。
同年9月1日から操業を開始した共進丸は、3日ないし5日ごとに基地である香住港に帰港し、停泊時の整備作業として、A受審人が潤滑油こし器を開放し、こし筒に付着した不純物などを、点検したうえでこし筒の掃除を繰り返し行っており、航行中及び操業中に主機の潤滑油圧力が低下して警報装置が作動することも、主機の燃焼状態が不良となることもなく、順調に4航海目の操業を終えて同月17日22時20分同港に帰港した。
A受審人は、入港作業を終えて主機を停止し、いつものように潤滑油こし器を開放し、抜き出したこし筒の支柱ナットを緩めて、取っ手、こし筒押え及びこし筒底板を取り外し、こし筒を軽油で洗浄して圧縮空気で金網に付着していた不純物を除去したのち、機関室底板にこし筒底板を置き、これにこし筒、こし筒押え及び取っ手を順に取り付けて支柱ナットを締め付け、同こし器を復旧することとした。しかしながら、同人は、こし筒を洗浄し、付着していた不純物を圧縮空気で除去したので大丈夫と思い、こし筒の外側に異物が付着していないかどうかなど、こし筒を十分に点検することなく、組立てを終えたこし筒を順次同こし器本体に挿入してカバーを取り付けたので、小さなビニール片がこし筒底板などに付着していたかして、これが同こし器内に侵入したことに気付かないままカバー押えボルトを締め付けて同こし器の開放整備を終えた。
こうして、共進丸は、A受審人ほか10人が乗り組み、沖合底びき網漁を行う目的で、船首1.6メートル船尾3.1メートルの喫水をもって、同月19日09時30分香住港を発し、23時ごろ隠岐諸島西方沖合の漁場に至って操業を繰り返しているうち、潤滑油こし器内に侵入した小さなビニール片が、次第に潤滑油冷却器から入口主管へと移動し、いつしか同主管とカム軸注油路に至る枝管とを接続する継手ボルトの油孔部に入り込み、同注油路への潤滑油供給量が著しく減少してカム軸受のほか、吸気弁、燃料噴射ポンプ及び排気弁の各駆動装置の潤滑が阻害されるようになり、翌20日03時45分3回目の操業を終え、主機を回転数毎分370の全速力前進にかけて漁場移動中、04時10分北緯35度34分東経131度56分の地点において、特に注油不足で潤滑阻害となっていた1番シリンダの同ポンプ駆動装置のガイドピストンが膠着し、シリンダ内への燃料の噴射が不能となって主機の回転数が変動した。
当時、天候は曇で風力2の東北東風が吹き、海上は平穏であった。
船首甲板上で漁獲物の選別作業に従事していたA受審人は、主機の異常に気付いて機関室に急行し、1番シリンダの排気温度が著しく低下していたところから、指圧器弁を開弁して同シリンダが燃焼していないのを知り、燃料噴射弁の不調と考え、主機を停止して同噴射弁を予備のものと取り替えて主機を始動したものの、排気温度が上昇せず、主機の回転数が変動したままであったので、燃料がシリンダ内に噴射されていないものと推測して燃料噴射ポンプを取り外したところ、同ポンプ駆動装置のガイドピストンが突き上げられたままの状態で、ターニングを行っても上下に作動しないのを認め、同ポンプの調整ボルト側から手差しで注油しながら軽くたたいているうち同ピストンが作動するようになったので、05時ごろ同ポンプを復旧し、再度主機を始動して運転を再開したが、同シリンダの排気温度が不安定であったうえ、更に2番シリンダの同ポンプ駆動装置も膠着気味となったところから、全速力での運転は不能と判断して事態を船長に報告した。
共進丸は、主機1番及び2番シリンダの両燃料噴射ポンプ駆動装置などに手差しで注油しながら運転を続けて同日20時ごろ香住港に帰港し、同港において、修理業者により主機各部を精査した結果、入口主管とカム軸注油路に至る枝管とを接続する継手ボルトの油孔部に小さなビニール片が詰まっているのが発見され、全カム軸受、1番、2番及び3番シリンダの各燃料カム並びに1番及び2番シリンダの向ポンプ駆動装置が損傷していたほか、1番、2番及び3番シリンダの吸気弁及び排気弁の各駆動装置などにも損傷が生じていることが判明し、のち損傷部品の取替え修理が行われた。

(原因)
本件機関損傷は、主機潤滑油こし器を開放整備して復旧する際、こし筒の点検が不十分で、こし筒に付着していた小さなビニール片が同こし器内に侵入し、これが入口主管とカム軸注油路に至る枝管とを接続する継手ボルトの油孔部に入り込み、同注油路への潤滑油供給量が著しく減少し、カム軸各部の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機潤滑油こし器を開放整備して復旧する場合、同こし器内に異物を侵入させることのないよう、こし筒の外側に異物が付着していないかどうかなど、こし筒を十分に点検すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、こし筒を洗浄し、付着していた不純物を圧縮空気で除去したので大丈夫と思い、こし筒を十分に点検しなかった職務上の過失により、同こし器内に小さなビニール片を侵入させ、継手ボルトの油孔部を詰まらせてカム軸注油路への潤滑油供給量の著しい減少を招き、全カム軸受、1番、2番及び3番シリンダの各燃料カム並びに1番及び2番シリンダの両燃料噴射ポンプ駆動装置のほか、1番、2番及び3番シリンダの吸気弁及び排気弁の各駆動装置などを損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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