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1998年(平成10年)

平成8年広審第128号
    件名
漁船第五事代丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年8月25日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

杉?忠志、上野延之、織戸孝治
    理事官
弓田邦雄

    受審人
A 職名:第五事代丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
排気マニホルドの仕切り壁、過給機のロータ軸、軸受、案内翼、遮熱板及びタービンケーシングなどが損傷、2番シリンダのピストン及びシリンダライナなども損傷

    原因
主機の過負荷運転を避ける措置不十分

    主文
本件機関損傷は、主機の過負荷運転を避ける措置が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年3月8日21時00分
島根県七類港北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第五事代丸
総トン数 19トン
全長 23.65メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 529キロワット
回転数 毎分1,800
3 事実の経過
第五事代丸(以下「事代丸」という。)は、平成4年3月に進水した、中型まき網船団に所属するFRP製灯船で、主機としてヤンマーディーゼル株式会社が製造した6NH160-EN型と称するディーゼル機関を装備し、主機の動力取出軸にベルト駆動される舵機用油圧ポンプ及び充電用発電機、更にエアクラッチを介して容量50KVAの交流発電機2台及び漁労機器用油圧ポンプをそれぞれ備え、操舵室に主機の回転計及び潤滑油圧力計などの計器類並びに潤滑油圧力低下及び冷却清水温度上昇の警報装置が組み込まれた主機操縦装置を設け、同室から主機及び逆転減速機の遠隔操縦ができるようになっていた。
主機は、シリンダ径160ミリメートル、ピストン行程185ミリメートルの漁船法馬力数190のもので、各シリンダに船尾側を1番として6番までの順番号が付され、各シリンダヘッドには、排気弁2個、吸気弁2個及び燃料噴射弁があって、動弁装置として吸・排気弁駆動用ロッカーアームが1組ずつ取り付けられており、中央部の仕切り壁により前後に分けられた排気ガス通路を有する排気マニホルドが同ヘッドの右舷側に、冷却清水、冷却海水、潤滑油、吸気などの各圧力計及び主機の回転計を組み込んだ主機計器盤が左舷側前部にそれぞれ設けられていたほか、各シリンダのシリンダ出口及び過給機出口に排気温度計が設けられていた。
主機の排気弁から排出された排気ガスは、1番、2番及び3番シリンダを1群として排気マニホルドの後部排気ガス通路に、4番、5番及び6番シリンダを1群として同マニホルドの前部排気ガス通路にそれぞれ導かれ、同マニホルド中央部上面の排気ガス出口フランジ部上方に据え付けられたRU140型と称する排気ガスタービン過給機に流入したのち、煙突から大気に放出されるようになっていた。
また、主機の冷却水系統は、密閉清水冷却式で、主機前部にある清水冷却器を兼ねた清水タンク内の冷却水が、直結の冷却清水ポンプにより吸引加圧されて冷却清水入口主管に至り、同主管から各シリンダのシリンダジャケット、シリンダヘッド及び排気マニホルドを順次冷却し、自動温度調節弁を経て、清水冷却器を経由するものと、清水冷却器をバイパスするものとに分かれ、次いで清水タンク出口管で再び合流し、同ポンプに還流するようになっていたが、同マニホルドの仕切り壁には冷却清水が循環していなかった。
ところで、主機製造時の陸上試運転の際の排気温度は、全負荷時の回転数毎分1,800(以下、回転数は毎分のものを示す。)において、シリンダ出口で摂氏380度(以下、排気温度については「摂氏」を省略する。)ないし390度、過給機入口で470度ないし480度、過給機出口で350度であり、また、10パーセント過負荷時の回転数1,856においては、シリンダ出口で410度ないし435度、過給機入口で500度ないし510度、過給機出口で375度であったが、一般に、過給機付ディーゼル機関は、各シリンダから排出された排気ガスが過給機のタービン入口に達する間に熱エネルギーが増加し、更に排気温度が上昇して各部に過大な熱応力が作用するおそれがあるため、機関メーカーでは、排気温度の限界値として、過給機出口の排気温度で450度までと定め、運転中、適宜排気温度を点検のうえ、排気温度が異常に上昇している場合には、直ちに主機の回転数を下げるとともに、速やかにその原因調査を行うよう主機取扱説明書に記載していた。
A受審人は、進水時から船長として乗り組み、機関の保守及び運転にもあたり、島根西郷港を基地とし、隠岐諸島周辺の漁場に網船、運搬船及びほかの灯船とともに夕方ごろ出漁して翌日06時ごろ帰港する操業形態をとっており、主機の取扱いについては、1箇月ないし2箇月ごとに潤滑油及び潤滑油こし器フィルタエレメントを取り替え、不具合箇所が生じた際にはその都度修理業者に依頼して整備を行っていたほか、始動する前に潤滑油量及び冷却清水量を確認するとともに、運転中、適宜機関室に赴いてビルジ量及び主機計器盤の各圧力計などの点検を行い、年間230日ないし260日間の操業に従事していた。
しかし、A受審人は、主機の回転数を決めるにあたり、船舶件名表を見て主機の計画回転数が1,800となっていたところから、全速力前進時の主機の回転数を約1,800に定めて運転していたところ、魚群探索及び裏こぎに従事していた際に、しばしば主機の排気ガスが著しく変色し、運転音及び船体振動が激しくなることから、主機の負荷が増大するのを認めたが、短時間の運転なので大丈夫と思い、操縦ハンドルを操作して回転数を下げるなど、主機の過負荷運転を避ける措置をとることなく、そのまま操業を続けていた。
ところが、主機は、魚群探索及び裏こぎに従事中、排気温度が著しく上昇した状態で運転が繰り返されるうち、過大な熱応力が排気マニホルドの仕切り壁に作用し、いつしか材料が熱疲労して同仕切り壁に亀裂(きれつ)が生じ、これが次第に進展する状況となった。
こうして、事代丸は、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首尾とも0.75メートルの等喫水をもって、同7年3月8日16時00分島根県西郷港を発し、隠岐諸島南方の漁場に至り、主機を回転数1,800の全速力前進にかけて魚群探索中、かねてより排気マニホルド仕切り壁に生じていた亀裂が更に進展して、欠損した破片が過給機に侵入し、同日21時00分七類港九島灯台から真方位000度6.1海里の地点において、主機が異音を発するとともに煙突から黒煙を排出しはじめた。
当時、天候は晴で風力1の北風が吹き、海上は平穏であった。
操舵室にいたA受審人は、主機の異常に気付き、直ちに操縦ハンドルを操作して主機の回転数を減じ、機関室に急行して冷却清水量、潤滑油量、主機計器盤などを点検したが、それらに異常が認められなかったので、再び同ハンドルを操作して主機の増速を試みたものの、煙突からの排気ガスが黒変したままであったことから魚群探索不能と判断し、網船に乗船中の漁労長に事態を伝え、修理のため主機の回転数を約600の微速力前進として鳥取県境港に向かった。
事代丸は、境港において、修理業者により主機各部を精査した結果、排気マニホルドの仕切り壁、過給機のロータ軸、軸受、案内翼、遮熱板及びタービンケーシングなどが損傷していたほか、2番シリンダのピストン及びシリンダライナなどにも損傷が生じていることが判明し、のち損傷部品の取替え修理が行われた。

(原因)
本件機関損傷は、主機を全速力運転として魚群探索及び裏こぎに従事する際、主機の過負荷運転を避ける措置が不十分で、排気温度が著しく上昇した状況で主機の運転が繰り返され、排気マニホルドの仕切り壁が過大な熱応力により亀裂を生じ、欠損した破片が過給機に侵入したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機を全速力運転として魚群探索及び裏こぎに従事中、排気ガスが著しく変色し、運転音及び船体振動が激しくなるなど負荷が増大するのを認めた場合、排気温度の著しい上昇により主機各部に過大な熱応力が作用して損傷するおそれがあったから、操縦ハンドルを操作して回転数を下げるなど、主機の過負荷運転を避ける措置をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、短時間の運転なので大丈夫と思い、主機の過負荷運転を避ける措置をとらなかった職務上の過失により、熱応力により排気マニホルドの仕切り壁に損傷を招き、過給機のロータ軸、軸受、案内翼、遮熱板及びタービンケーシングなどのほか、2番シリンダのピストン及びシリンダライナなどにも損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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