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1998年(平成10年)

平成9年神審第17号
    件名
旅客船ぶるーすたー機関損傷事件(第2)

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年8月28日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

山本哲也、佐和明、西林眞
    理事官
岸良彬

    受審人
A 職名:ぶるーすたー機関長(後任) 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
右舷機燃料ポンプの駆動軸側半月キー折損、駆動軸と内筒のテーパー部に著しい肌荒れ、同軸キー溝の隅にクラック

    原因
主機整備業者の点検不十分(燃料ポンプ駆動軸のカップリング部)

    主文
本件機関損傷は、主機整備業者が、燃料噴射ポンプ駆動軸の点検を十分に行わなかったことによって発生したものである。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年4月7日10時50分
徳島県徳島小松島港
2 船舶の要目
船種船名 旅客船ぶるーすたー
総トン数 275トン
全長 41.00メートル
機関の種類 過給機付4サイクル12シリンダ・ディーゼル機関
出力 3,868キロワット
回転数 毎分1,475
3 事実の経過
ぶるーすたーは、昭和62年5月に進水した2基2軸の双胴形軽合金製旅客船で、主機として、富士ディーゼル株式会社(以下「富士ディーゼル」という。)が同年に製造した、富士ピールスティック12PA4V-200VGA型と称するV形ディーゼル機関を両舷船胴に各1基装備し、それぞれ高弾性継手及びクラッチ式逆転減速機を介してプロペラ軸を駆動しており、船橋に備えた遠隔操縦装置によって主機及び逆転減速機のすべての運転操作ができるようになっていた。
両舷主機(以下、右舷主機及び左舷主機を「右舷機」及び「左舷機」という。)は、燃料に軽油を使用し、全速時の回転数が毎分1,420と定められ、各シリンダには、いずれも船尾側から左舷列は1番から6番の、右舷列は7番から12番の順番号が付されていた。また、調時歯車室が架構の船首側に設けられ、架構上の4及び5番シリンダ列と10及び11番シリンダ列の中間に、ボッシュ式の集合形燃料噴射ポンプ(以下「燃料ポンプ」という。)が設置されていた。
燃料ポンプは、3シリンダ分が一体となった上部ブロックを下部ケース上に左右に2個ずつV形に取り付け、同ブロック内にプランジャ及びバレル12組がシリンダと同じ配列で組み込んであり、下部ケース内には一体構造のカム軸が収められていた。そして、上部両ブロックの谷部に、左右両シリンダ列用に燃料調整軸2本が前後水平に取り付けてあって、調速機の動きをリンク機構を介して調整軸に伝え、プランジャの回転運動に変化させて燃料噴射量を調整するようになっていた。
また、燃料ポンプの駆動軸は、同ポンプ船首側に前後を2個の軸受で支持されて設置してあり、前端に中間歯車とかみ合う子歯車を取り付け、クランク軸歯車により中間歯車1個を介して駆動され、後端の同ポンプカム軸との連結部には、振動やトルク変動の影響を考慮してギヤカップリングが採用されていた。
ギヤカップリングは、互いに向かい合う両軸先端のテーパー部に、それぞれ回り止め用の半月キーとともに嵌合(かんごう)した内筒を、呼び径30ミリメートル(以下「ミリ」という。)ピッチ2ミリの締付けナット(以下「センターナット」という。)で、ねじ部にネジロックと称する接着剤を塗布したうえ、50キログラムメートルのトルクで締め付けて軸に固定し、両内筒の外周に切った歯車をそれぞれ外筒内周の歯車にかみ合わせ、両外筒のフランジ部を6本のボルト(以下「カップリングボルト」という。)で結合してあった。
なお、燃料ポンプには、基準となる12番シリンダのプランジャが燃料圧縮始めとなる位置に合わせ、カム軸の後端面に合いマークが印(しる)され、また、カップリングボルトのボルト穴は、駆動軸側がボルトに合わせてリーマ仕上げとなっているのに対し、ポンプ側は円弧状の長手穴となっていて、主機の燃料噴射時期(以下(「タイミング」という。)は、カップリングボルト6本を取り外して合いマークを合わせておき、主機をターニングして12番シリンダのクランク角度をピストン上死点前23ないし24度に移動し、ポンプカム軸とクランク軸の回転角度相対位置を定めたうえ、同ボルトを締め込んで設定されており、以降タイミングの狂いは同ボルトを緩めれば調整できるようになっていた。
本船は、A株式会社(以下「A社」という。)が運営する、徳島県徳島小松島港、同県撫養(むや)港、関西国際空港付属の泉州港、神戸港及び大阪港の5港を組み合わせた3系統の定期航路に、僚船7隻とともに順次就航していたもので、機関部乗組員2人については、一括公認を受けた、機関長及び一等機関士がそれぞれ2人と一等機関士兼任機関長1人の計5人が、午前便と午後便とに分けて半日交代で、4日乗船後1日休日の就労体制のもとに乗下船を繰り返していた。
また本船は、就航時から富士ディーゼルと両舷主機の定期整備の契約を結んでいて、同社が毎年各部を順次点検して計画整備し、定期検査の年には両機を整備工場に陸揚げして完全開放していたが、同社がディーゼル機関の製造を中止した平成3年4月以降は、アフターサービス業務を引き継いだB株式会社(以下「B社」という。)が同様の整備にあたるようになった。
A受審人は、C株式会社に所属していた同3年7月から、同社が借船した本船及び僚船2隻に順次乗船していたもので、同6年7月ごろからは専ら本船に乗船していたところ、同年12月に同社がA社に吸収合併されたことから、引き続き本船において、A社の定める就労体制に従って乗下船を繰り返していた。
B受審人は、同3年6月に一等機関士としてC株式会社に入社し、同6年12月に吸収合併されてA社に移籍し、一等機関士兼任機関長として、一括公認された本船及び僚船7隻に、機関長または一等機関士として2ないし3箇月ごとの間隔で乗船勤務していた。
本船は、同612月の第3回定期検査の際、両舷主機がB社館山工場に搬入され、同社の手により、燃料ポンプ及びギヤカップリング部の開放整備等を含む完全開放が施行され、同月27日から運航を再開していたところ、右舷機の同ポンプ駆動軸テーパー部と内筒との圧着面に、微小な異物が侵入していたものか、その後の運転中振動と変動トルクの影響で、いつしかフレッチングが発生して徐々に進行し、半月キーが摩耗して軸と内筒がわずかにずれ始めた。
A受審人は、翌4月1日早朝ようやく右舷機燃料ポンプを取り替え終えて、手順どおりにタイミングを合わせに取り掛かった。
ところで、主機は、燃料ポンプカム軸の回転方向がクランク軸と同じく船尾側から見て反時計方向で、後端のナットに締め勝手の力を掛けると同軸系に反回転方向の力が掛かることとなり、A受審人がポンプ軸系に緩みがないか確かめた際、駆動軸と内筒のずれが正常位置まで戻され、移動量がわずかでこのことに気付かないままタイミングが調整されたものか、調整を終えた右舷機が試運転されたところ、再び同部がずれて排気口から出港時と同様の白煙が発生した。
A受審人は、燃料ポンプを取り替えても状態が変わらなかったので、タイミングの調整に不具合があったものかと思い、ポンプ軸系に緩みがないか確認したうえ、再度カップリングボルトを緩めてタイミングを調整し、試運転を行ったが再びタイミングがずれて状態が変わらなかったことから、駆動軸側に異状が発生したものと判断し、会社に報告して大阪市の造船所に回航のうえ修理することを取り決めた。
本船は、同日11時15分撫養港を出港し、左舷機のみの運転で大阪港に向かい、この間にA受審人が、再度右舷機12番シリンダのクランク角度をピストン上死点前24度とし、カップリングボルトを緩めて遅れ方向にずれていた合いマークを合わせ、同ボルトを締め付けて試運転を行ったところ、ポンプ駆動軸と内筒がずれたままタイミングが修正された位置に定まったことから、燃焼状態が正常となり、両舷機を使用して15時45分造船所岸壁に着岸した。
C指定海難関係人は、富士ディーゼルで製造したPA200型及びPA185型の2機種約50基についてアフターサービス業務を担当し、整備計画を立てて自社の工場で整備し、あるいは船内整備に出向いて技術指導を行うなどしていたもので、A社から連絡を受けて修理工事を指揮監督するため同造船所に赴いた。
造船所岸壁に着岸後A受審人は、A社工務監督及びC指定海難関係人と打ち合せ、理由は判然としないまま、回航中タイミングの調整で右舷機の運転が正常となったことを報告し、ギヤカップリングの点検をC指定海難関係人に依頼したうえ、その後の工事を同監督とB社に任せ、同日18時ごろほかの乗組員とともに休息した。
C指定海難関係人は、5人ばかりの部下を指揮して右舷機各部の点検に取り掛かり、燃料ポンプを一度取り外してポンプ側のギヤカップリンク部を開放点検し、タイミングを微調整したうえ設置したが、駆動軸側については、接着剤を過熱除去しないままセンターナットに50キログラムメートルのトルクを掛けて緩みがないか点検しただけで、大丈夫と思って同部を開放しなかった。このため同人は、同軸テーパー部と内筒にずれが生じていて、そのまま運転を再開すると負荷変動時の衝撃や振動によって圧着力がますます弱まり、半月キーに回転方向の剪断(せんだん)力が集中して折損するおそれがある状態となっていることに気付かなかった。
また、C指定海難関係人は、燃焼不良の影響がないか念のため1番シリンダのピストンを抜き出してライナ内面を点検し、クランク室内各部も確認したうえ、翌4月2日03時ごろ係留運転を行い、07時20分からA受審人等立会いのもと海上試運転に掛かり、右舷機の運転状態は良好であると判断して工事を終了した。
本船は、同2日09時10分大阪港を出港して運航を再開していたところ、同4月7日から就航航路が変更となり、07時05分徳島小松島港を発して08時55分神戸港に入港し、同港において、次の徳島小松島港到着時に交代予定となっていたA受審人が後任機関長として乗船した。
こうして本船は、船長ほか3人が乗り組み、A受審人及び旅客22人を乗せ、09時05分神戸港を発し、徳島小松島港徳島区に至って専用岸壁に着岸操船中、両舷主機が停止回転の毎分600まで減速されたのち逆転機クラッチが中立とされた際、10時53分徳島沖の洲導流堤灯台から真方位317度620メートルの地点で、右舷機燃料ポンプの駆動軸側半月キーが折損し、同軸と内筒が更にずれてタイミングが大きく遅れ、排気管から激しく白煙を吹き出した。
当時、天候は曇で風力2の北西風が吹き、港内は穏やかであった。
客室の座席に着席して着岸状況を見ていたA受審人は、いつもより大きな船体振動を感じて右舷機排気管からの白煙に気付き、先日の事故と同様に燃料ポンプの異状が発生したものと思い、着岸したのち前任機関長等とともに右舷機を点検し、タイミングが大きく遅れていることが判明したので、同ポンプ駆動軸側の損傷と判断し、A社に報告した。
本船は、左舷機の運転で大阪市の造船所岸壁に回航され、右舷機のギヤカップリング部を開放して点検したところ、駆動軸と内筒のテーパー部に著しい肌荒れが生じ、半月キーが剪断力で折損し、内筒が円周方向に約1.5ミリずれ、同軸キー溝の隅にクラックが発生していること等が判明し、のち損傷部品をすべて新替えして修理された。
C指定海難関係人は、当該損傷がフレッチングの進行によって嵌合部の圧着力が低下したことによるものと判断し、本船左舷機及び僚船について同部を順次点検し、また、センターナット締付け時には同嵌合部の当たりを前もって十分確認するなど以前からの注意事項を改めて部下に通達し、同種事故の再発防止に努めた。

(原因)
本件機関損傷は、主機整備業者が、燃料ポンプ駆動軸のカップリング部に発生したフレッチングが進行してタイミングがずれ、同ポンプの損傷が重なって燃焼不良となった主機の修理を行った際、駆動軸側のカップリング部の点検が十分に行われず、同フレッチングが修理されないまま運転が再開されたことによって発生したものである。

(受審人等の所為)
C指定海難関係人が、タイミングのずれ等によって燃焼不良となった主機の修理を行った際、燃料ポンプ駆動軸側のカップリング部の点検を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
C指定海難関係人に対しては、A社所有船の同型主機のカップリング部に異状がないか点検し、また、同部組立時における注意事項を改めて部下に通達するなど、同種事故の再発防止対策を講じている点に徴し、勧告しない。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。






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