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1998年(平成10年)

平成9年神審第18号(第1)
    件名
旅客船ぶるーすたー機関損傷事件(第1)

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年8月28日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

山本哲也、佐和明、西林眞
    理事官
岸良彬

    受審人
A 職名:ぶるーすたー機関長(後任) 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
B 職名:ぶるーすたー機関長(前任) 海技免状:二級海技士(機関)
    指定海難関係人

    損害
右舷機燃料ポンプの2及び5番プランジャ損傷、各プランジャのころ及びブッシュかき傷

    原因
燃料ポンプのプランジャが、燃料油に混入した微小な異物をかみ込んだこと

    主文
本件機関損傷は、主機燃料噴射ポンプのプランジャが異物をかみ込んだことによって発生したものである。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年3月31日16時50分
徳島県撫養港
2 船舶の要目
船種船名 旅客船ぶるーすたー
総トン数 275トン
全長 41.00メートル
機関の種類 過給機付4サイクル12シリンダ・ディーゼル機関
出力 3,868キロワット
回転数 毎分1,475
3 事実の経過
ぶるーすたーは、昭和62年5月に進水した2基2軸の双胴形軽合金製旅客船で、主機として、富士ディーゼル株式会社(以下「富士ディーゼル」という。)が同年に製造した、富士ピールスティック12PA4V-200VGA型と称するV形ディーゼル機関を両舷船胴に各1基装備し、それぞれ高弾性継手及びクラッチ式逆転減速機を介してプロペラ軸を駆動しており、船橋に備えた遠隔操縦装置によって主機及び逆転減速機のすべての運転操作ができるようになっていた。
両舷主機(以下、右舷主機及び左舷主機を「右舷機」及び「左舷機」という。)は、燃料に軽油を使用し、全速時の回転数が毎分1,420と定められ、各シリンダには、いずれも船尾側から左舷列は1番から6番の、右舷列は7番から12番の順番号が付されていた。また、調時歯車室が架構の船首側に設けられ、架構上の4及び5番シリンダ列と10及び11番シリンダ列の中間に、ボッシュ式の集合形燃料噴射ポンプ(以下「燃料ポンプ」という。)が設置されていた。
燃料ポンプは、3シリンダ分が一体となった上部ブロックを下部ケース上に左右に2個ずつV形に取り付け、同ブロック内にプランジャ及びバレル12組がシリンダと同じ配列で組み込んであり、下部ケース内には一体構造のカム軸が収められていた。そして、上部両ブロックの谷部に、左右両シリンダ列用に燃料調整軸2本が前後水平に取り付けてあって、調速機の動きをリンク機構を介して調整軸に伝え、プランジャの回転運動に変化させて燃料噴射量を調整するようになっていた。
また、燃料ポンプの駆動軸は、同ポンプ船首側に前後を2個の軸受で支持されて設置してあり、前端に中間歯車とかみ合う子歯車を取り付け、クランク軸歯車により中間歯車1個を介して駆動され、後端の同ポンプカム軸との連結部には、振動やトルク変動の影響を考慮してギヤカップリングが採用されていた。
ギヤカップリングは、互いに向かい合う両軸跣端のテーパー部に、それぞれ回り止め用の半月キーとともに嵌合(かんごう)した内筒を、呼び径30ミリメートル(以下「ミリ」という。)ピッチ2ミリの締付けナット(以下「センターナット」という。)で、ねじ部にネジロックと称する接着剤を塗布したうえ、50キログラムメートルのトルクで締め付けて軸に固定し、両内筒の外周に切った歯車をそれぞれ外筒内周の歯車にかみ合わせ、両外筒のフランジ部を6本のボルト(以下「カップリングボルト」という。)で結合してあった。
なお、燃料ポンプには、基準となる12番シリンダのプランジャが燃料圧縮始めとなる位置に合わせ、カム軸の後端面に合いマークが印(しる)され、また、カップリングボルトのボルト穴は、駆動軸側がボルトに合わせてリーマ仕上げとなっているのに対し、ポンプ側は円弧状の長手穴となっていて、主機の燃料噴射時期(以下「タイミング」という。)は、カップリングボルト6本を取り外して合いマークを合わせておき、主機をターニングして12番シリンダのクランク角度をピストン上死点前23ないし24度に移動し、ポンプカム軸とクランク軸の回転角度相対位置を定めたうえ、同ボルトを締め込んで設定されており、以降タイミングの狂いは同ボルトを緩めれば調整できるようになっていた。
本船は、A株式会社(以下「A社」という。)が運営する、徳島県徳島小松島港、同県撫養(むや)港、関西国際空港付属の泉州港、神戸港及び大阪港の5港を組み合わせた3系統の定期航路に、僚船7隻とともに順次就航していたもので、機関部乗組員2人については、一括公認を受けた、機関長及び一等機関士がそれぞれ2人と一等機関士兼任機関長1人の計5人が、午前便と午後便とに分けて半日交代で、4日乗船後1日休日の就労体制のもとに乗下船を繰り返していた。
また本船は、就航時から富士ディーゼルと両舷主機の定期整備の契約を結んでいて、同社が毎年各部を順次点検して計画整備し、定期検査の年には両機を整備工場に陸揚げして完全開放していたが、同社がディーゼル機関の製造を中止した平成3年4月以降は、アフターサービス業務を引き継いだB株式会社(以下「B社」という。)が同様の整備にあたるようになった。
A受審人は、C株式会社に所属していた同3年7月から、同社が借船した本船及び僚船2隻に順次乗船していたもので、同6年7月ごろからは専ら本船に乗船していたところ、同年12月に同社がA社に吸収合併されたことから、引き続き本船において、A社の定める就労体制に従って乗下船を繰り返していた。
B受審人は、同3年6月に一等機関士としてC株式会社に入社し、同6年12月に吸収合併されてA社に移籍し、一等機関士兼任機関長として、一括公認された本船及び僚船7隻に、機関長または一等機関士として2ないし3箇月ごとの間隔で乗船勤務していた。
本船は、同6年12月の第3回定期検査の際、両舷主機がB社館山工場に搬入され、同社の手により、燃料ポンプ及びギヤカップリング部の開放整備等を含む完全開放が施行され、同月27日から運航を再開していたところ、右舷機の同ポンプ駆動軸テーパー部と内筒との圧着面に、微小な異物が侵入していたものか、その後の運転中振動と変動トルクの影響で、いつしかフレッチングが発生して徐々に進行し、半月キーが摩耗して軸と内筒がわずかにずれ始めた。
両舷主機の燃料油系統には、それぞれ1次こし器と複式のノッチワイヤ形2次こし器が設けられ、機関部乗組員が定期的に開放掃除しており、右舷機の2次こし器は、本船が撫養港と大阪港間に就航していた同8年3月29日、最終便終了後、翌日の荒天予想に備えて撫養港から避泊した徳島県亀浦港において、機関長として乗船していたB受審人が一等機関士と2人で、通常の注意を払って掃除を行っていた。
翌30日本船は、折から発達した低気圧の影響で、兵庫県南部に強風波浪注意報が発表されるなか、撫養港から大阪港まで2往復して16時35分撫養港に入港したが、さらに天候が悪化したことから残り1往復を欠航とした。そして、翌31日07時10分定刻に撫養港を出港して運航を再開したところ、右舷機燃料ポンプ駆動軸側の内筒のずれに伴ってタイミングが遅れ始め、また、前日の荒天航行中、燃料油管に付着していた微小な異物が脱落して右舷機燃料ポンプに至ったものか、キャビテーションでやや間隙(かんげき)が大きくなっていた2及び5番の各プランジャが同異物をかみ込み、プランジャとバレル摺動(しゅうどう)面にかき傷が生じ始めた。
こうして本船は、同日14時10分大阪港でA受審人が交代乗船し、14時40分同港を発し16時30分撫養港に到着した。そして、A受審人ほか3人が乗り組み、旅客101人を乗せ、16時45分大阪港に向け撫養港を発して離岸操船中、タイミングの遅れとともに、燃料ポンプ2及び5番プランジャが固着気味となったことが重なり、右舷機の左舷列各シリンダが着火不良となった。
甲板上で出港配置に就いていたA受審人は、排気管からの白煙の状態で異状に気付き、機関室に入ったところ、右舷機の回転が大きく変動していたので各シリンダの燃焼状態を点検し、左舷列に不着火のシリンダを認め、同日16時50分中瀬灯標から真方位300度300メートルの地点で、右舷機の正常運転が不能となった旨を船長に報告した。
当時、天候は曇で風力2の北西風が吹き、港内は穏やかであった。
A受審人は、本船が岸壁に引き返して乗客を他船へ移乗させたのち、一等機関士とともに、右舷機の各燃料噴射弁、調時歯車系統など各部を点検し、またタイミングの遅れを疑って燃料ポンプカム軸後端のナットにスパナを掛け、締め勝手に力いっぱい回してみる方法で、同軸系統に緩みがないか確認したが、特に異状を認めなかったので、燃料ポンプの不良と判断して、予備の燃料ポンプを陸上に手配し、B社に技師の来援を依頼した。
右舷機燃料ポンプは、A受審人と到着したB社の技師らにより、予備ポンプと取り替えられ、のち専門工場に搬送されて精査の結果、2及び5番プランジャが異物をかみ込んで損傷し、各プランジャのころ及びブッシュが潤滑油中の異物によりかき傷を生じていること等が判明し、不良部品をすべて取り替えて修理された。

(原因)
本件機関損傷は、右舷機の燃料ポンプのプランジャが、燃料油に混入した微小な異物をかみ込んだことによって発生したものである。

(受審人等の所為)
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。






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