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1998年(平成10年)

平成9年神審第61号
    件名
漁船第一漁徳丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年8月12日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

山本哲也、佐和明、西林眞
    理事官
岸良彬

    受審人
A 職名:第一漁徳丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定・旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
3番及び5番シリンダのシリンダライナに熱膨張による擦過傷、全シリンダライナのOリングが熱損

    原因
主機冷却海水系統の弁の開弁状態の確認不十分、主機警報装置の整備不十分

    主文
本件機関損傷は、シーチェスト付空気抜き弁が開弁されていることの確認が不十分であったことと、主機警報装置の整備が不十分であったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年11月2日02時10分
高知県足摺岬沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第一漁徳丸
総トン数 165トン
全長 37.78メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 661キロワット(定格出力)
回転数 毎分380(定格回転数)
3 事実の経過
第一漁徳丸は、宮崎県目井津港を基地とし、マーシャル諸島東方海域を主たる漁場として近海まぐろ延縄(はえなわ)漁業に従事する昭和60年12月に進水したFRP製漁船で、平成6年8月に主機を換装し、ヤンマーディーゼル株式会社が同年に製造したMF26-ST2型ディーゼル機関を装備し、可変ピッチプロペラを備えていた。
主機の冷却海水主系統は、右舷シーチェスト付の海水吸入弁から電動の冷却海水ポンプ(以下「海水ポンプ」という。)によって吸引加圧された冷却海水が、潤滑油冷却器、空気冷却器及び清水冷却器を順次冷却したのち、右舷側の水面上にある船外吐出口から排出されるようになっており、左舷シーチェストからも雑用水ポンプを使用して同系統に海水を供給できるよう配管され、両舷シーチェストには呼び径40ミリメートルの空気技き弁がそれぞれ設けられ、空気抜き管が上甲板まで導かれていた。なお、同空気抜き弁は、シーチェストに空気が滞留しないよう常時開弁しておく必要があったが、機関室床プレート下に取り付けられて普段開閉操作されることはなかった。
一方、主機冷却清水系統は、電動冷却清水ポンプで吸引加圧された冷却清水が、清水冷却器を経て、各シリンダのシリンダジャケットとシリンダヘッド及び過給機ケーシングを冷却して吸引管へ還流しており、運転中出口集合管で通常摂氏70度前後の冷却清水温度が同81度まで上昇すると警報装置が作動し、機関室及び操舵室の各警報盤でそれぞれ警報音を発するとともに、警報ランプが点灯するようになっていた。
A受審人は、本船新造時から機関長として乗り組み、航海中は機関員2人及び漁労長とともに交替で、操業中には1人で、それぞれ機関室当直に就いて機関の運転管理に携わっていたが、換装した主機の調子がよいこともあって、機関員及び漁労長が機関室当直中は、2時間ごとに機関室を見回らせる程度で、主として機関室上段スペースで漁具の整備や修理に当たらせていた。
ところで、A受審人は、平成8年8月に実施した第一種中間検査工事で、両シーチェスト付空気抜き弁を開放整備させたのち、下架の際当然開弁されているものと思い、運航を再開してから一度も同弁が開弁されているか確認することなく運航に従事していたので、右舷側の同弁が開弁されないまま、同シーチェストに徐々に空気が滞留しつつあることに気付かなかった。また、同人は、主機警報装置が作動したとき、警報ランプは点灯するものの、警報音が鳴らないことがあったが、同装置の整備を行っていなかった。
こうして、第一漁徳丸は、A受審人ほか9人が乗り組み、高知港で水揚げを終えて、船首1.00メートル船尾2.50メートルの喫水をもって、平成8年11月1日18時00分同港を発し、主機を毎分350回転として目井津港に向け航行の途、同日24時少し前に足摺岬を航過したころ、折からの寒冷前線の南下接近に伴って風浪が強まり、向かい風に立てて続航中、船体のピッチングに伴ってさらにシーチェストに空気を吸い込み、やがて海水ポンプが滞留した空気を吸引して揚水不能となり、冷却清水温度が上昇して警報装置が作動したが、警報音が鳴らないまま主機が過熱し始めた。
自室で休息していたA受審人は、運転音の変化で主機の異状に気付いた当直機関員からの連絡を受けて機関室に急行したところ、冷却清水の警報ランプが点灯し、海水ポンプ電動機の電流値が低下しており、主機シリンダヘッドから白煙が立ち上り主機が過熱しているのを認めたので、翌2日02時10分足摺岬灯台から真方位202度16.5海里の地点において、直ちに主機を停止した。
当時、天候は曇で風力5の西南西風が吹き、海上は波が高かった。
A受審人は、清水膨張タンクの冷却清水が沸騰していることを認め、主機各部を点検するうち、過熱した主機のシリンダヘッド冷却水路の点検口蓋(ふた)パッキンから蒸気混じりの清水が漏れ出したことから、主機使用不能と判断し、巡視船の救助を求め、最寄りの高知県土佐清水港に引き付けられた。
本船は、同港において修理業者による主機の応急修理を行って目井津港に回航したのち、改めて主機等を精査した結果、3番及び5番シリンダのシリンダライナに熱膨張による擦過傷が生じ、全シリンダライナのOリングが熱損していることなどが判明し、のちすべての損傷部品を新替えして修理された。

(原因)
本件機関損傷は、主機冷却海水系統のシーチェスト付空気抜き弁が開弁されていることの確認が不十分で、同弁が閉弁されたまま運航が続けられ、シーチェストに滞留した空気を吸引して海水ポンプが揚水不能となり、主機の冷却が阻害されたことと、警報装置の整備が不十分で、冷却清水温度が上昇した際に警報音を発しなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、機関の管理に当たり、検査工事の際シーチェスト付空気抜き弁を整備させた場合、同弁が閉弁されたまま運航を再開するとシーチェストに空気が滞留し、海水ポンプがこれを吸引して主機の冷却が阻害されるおそれがあったから、空気が滞留することのないよう同弁が開弁されているかどうか確認しておくべき注意義務があった。ところが、同人は、下架の際に当然開弁されたものと思い、運航を再開してからも一度も同弁が開弁されているかどうか確認しなかった職務上の過失により、シーチェストに滞留した空気を吸引して海水ポンプが揚水不能となり、主機の冷却阻害を招き、シリンダライナ等を損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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