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1998年(平成10年)

平成10年横審第14号
    件名
漁船第五十八一丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年8月27日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

川原田豊、勝又三郎、河本和夫
    理事官
相田尚武

    受審人
A 職名:第五十八一丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定・履歴限定)
    指定海難関係人

    損害
3番シリンダのピストンや連接棒のほか、シリンダライナ、クランク軸及び台板を取り替え

    原因
主機の整備・点検不十分(潤滑油こし器の掃除)

    主文
本件機関損傷は主機潤滑油こし器の掃除が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aの四級海技士(機関)の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年6月24日07時10分ごろ
鳥島南方海上
2 船舶の要目
船種船名 漁船第五十八一丸
総トン数 119トン
登録長 31.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 617キロワット
3 事実の経過
第五十八一丸は、昭和63年9月に進水した、まぐろはえ縄漁業に従事する鋼製漁船で、主機にはヤンマーディーゼル株式会社が製造した、T240-ET2型と称する各シリンダに船首側から順番号が付された、連続最大回転数毎分670の過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関を装備し、前部駆動装置を介して発電機をベルト駆動するとともに、減速逆転機を経て可変ピッチプロペラに連結されており、機関室で主機を始動したのち操舵室からの遠隔操縦により主機とプロペラが運転されていた。
主機は、システム油をクランク室の油だめとセミドライタンクに合計約660リットル保有し、約230リットルの油ための同油が直結ポンプ、または電動の補助潤滑油ポンプで同油系統に送油され、油路が複式の潤滑油こし器に至る経路と、セミドライタンクを循環して油だめに戻る経路とに分岐し、同こし器から冷却器を通った油が調圧弁を経たあと、計器盤に表示される4ないし4.5キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)の入口油圧で、クランク軸の主軸受からクランクピン軸受を経てピストン冷却など各部に給油されており、同油圧が2.5キロ以下になると、操舵室と機関室の警報盤でそれぞれ油圧低下警報を発するようになっていた。
本船は、A受審人ほか日本人乗組員5人が乗り組み、中部太平洋キリバス諸島周辺の漁場に出漁して日本の港で漁獲物の水揚を行い、途中で外国人乗組員の乗下船のためアメリカ合衆国グアム島に寄港する、一航海が3ないし4箇月の操業に従事中、平成8年6月1日神奈川県三崎港で水揚後、第3回目の定期検査で伊豆半島の造船所に入渠して業者により主機が開放整備され、吸気弁摺り合わせやシステム油の取り替え、潤滑油こし器エレメントの破損していた金網を、150メッシュから200メッシュに張り替えるなどしたのち静岡県清水港に回航され、同月22日16時出漁の目的で同港を出港した。
ところで開放整備後の主機は、クランク室の内部が拭き取り掃除されていても、各部に残留付着しているカーボンなどの微小異物が、その後の運転中に洗い出されて潤滑油こし器で捕捉され、エレメントを掃除することにより除去されていた。しかし、整備後もしばらくの間は、船体動揺や振動により異物が新たに洗い出されることがあるので、油圧低下を認めたときは、異物がなくなるまで同こし器の掃除を繰り返さないとそれが詰まり、さらに油圧が低下して軸受などの潤滑が阻害されるおそれがあった。
主機の運転に際しA受審人は、潤滑油こし器の切り替えハンドルを常に中立位置として両ろ筒を並列に使用しており、適正に片方ずつ使用のときに比べ通油量は制限されているものの、油圧を4ないし4.5キロに維持しておれば給油量は適正に確保されている状態であった。しかし同人は、出港後漁ろう長として船内作業指揮のかたわら機関室見回りにも当たっていたところ、残留異物で同こし器が詰まりやすい状況であったが、業者が整備しているので大丈夫と思い、機関部担当者に指示するなどして油圧の確認や同こし器の掃除を十分に行わず、同こし器が詰まって油圧がやや低下していることに気付かないまま運転を続けた。
こうして同6月24日本船は、A受審人が操舵室で当直に、他の乗組全員が上甲板で操業準備のため漁具整備に当たり、主機の回転を毎分約640プロペラピッチ17度の全速力でグアム島に向け鳥島南方海上を航行中、主機潤滑油こし器の詰まりと、ろ筒の並列使用や金網の目の細かいことが重なって給油量が急激に減少し、同日07時ごろ油圧低下警報が吹鳴するとともに、3番シリンダのクランクピン軸受やピストンなどの潤滑が阻害された状態となった。甲板作業中の機関部員が約2キロに油圧低下しているのを認め、ろ筒の切り替えハンドルを片方に切り替えると油圧は回復したが、そのまま続航するうち、潤滑阻害により生じた損傷が進行し、同日07時10分ごろ北緯28度56分東経140度26分の地点において、同ピストンがシリンダライナに焼き付くなどして主機が停止した。
当時、天候は晴で風力1の東風が吹き、海上は穏やかであった。
異常に気付いたA受審人が、急ぎ機関室におりて主機各部を点検すると、油だめの油量は正常でターニングはできるものの、3番シリンダにピストン焼損などが認められ、造船所などと連絡の結果、本船は運航不能となって救助を求め、静岡県安良里漁港に曳(えい)航され、同シリンダのピストンや連接棒のほか、シリンダライナ、クランク軸及び台板を取り替えるなど修理された。

(原因)
本件機関損傷は、主機を開放整備したあと運転するに当たり、潤滑油こし器の掃除が不十分で、同こし器に詰まりを生じたまま運転が続けられ、油圧が低下して軸受などの潤滑が阻害されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機を開放整備したあと運転する場合、潤滑油こし器が残留異物で詰まるおそれのある状況であったから、油圧が低下して軸受などが潤滑阻害されることのないよう、同こし器を十分に掃除すべき注意義務があった。しかし同人は、業者が整備しているので大丈夫と思い、同こし器を十分に掃除しないまま運転を続けた職務上の過失により、給油量が不足して軸受などを焼損するに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項2号を適用して同人の四級海技士(機関)の業務を1箇月停止する。

よって主文のとおり裁決する。






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