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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年6月13日18時20分 福島県鵜ノ尾埼東方沖 2 船舶の要目 船種船名
漁船第三十三日東丸 総トン数 317トン 登録長 51.10メートル 機関の種類
過給機付4サイクル8シリンダ・ディーゼル機関 出力
1,154キロワット 回転数 毎分600 3 事実の経過 第三十三日東丸(以下「日東丸」という。)は、平成元年4月に進水したまき網漁業船団付属の鋼製運搬船で、可変ピッチプロペラ推進装置を有し、主機として阪神内燃機工業株式会社(以下「阪神内燃機工業」という。)が製造した8MUH28A型ディーゼル機関を備え、船橋に主機遠隔操縦装置及び同プロペラ翼角遠隔制御装置を装備していた。 主機は、A重油が燃料油に使用されており、定格出力2,353キロワット及び同回転数毎分780(以下、回転数は毎分のものを示す。)の原機に負荷制限装置を付設して計画出力1,154キロワット及び同回転数600とし、漁船法馬力数860としたもので、就航後に同制限装置が取り外され、航海全速力前進時の回転数を710までとして運転されていた。 主機のシリンダヘッドは、各シリンダに船首側を1番として6番までの順番号が付され、排気弁2個が船首方の左右両側に、吸気弁2個が船尾方の左右両側にそれぞれ直接組み込まれた4弁式構造で、排気弁及び吸気弁が各1組のロッカーアームで駆動されていた。 ところで、排気弁は、全長402ミリメートル(以下「ミリ」という。)弁棒軸部基準径22ミリ弁傘部径105ミリのマルテンサイト系耐熱鋼製(種類SUH31)きのこ弁で、シリンダヘッドの弁座との当たり面にステライト盛金が施されており、弁棒上端部にはバルブローテータが装着されていた。そして、同弁は、長期間使用されているうち、絶えず高温の排気にさらされて腐食衰耗するので、弁棒の標準的な交換間隔が取扱説明書に記載されていなかったものの、整備の際には、次回定期整備まで使用可能か否かが確かめられるよう、微小亀(き)裂の有無に留意のうえ弁傘部の外周面の衰耗状態を入念に点検することが必要であった。 A受審人は、日東丸の新造時から一等機関土として乗り組み、平成5年1月に機関長に昇進し、主機の運転及び保守管理にあたり、同8年3月に主機の定期整備を業者に依頼し、全シリンダのシリンダヘッドを工場に陸湯げして排気弁のすり合わせ等を行うこととした。 ところが、6番シリンダ左側排気弁の弁捧は、新造時から継続使用されていたもので、弁傘外周面及び弁傘付け根部があばた状に腐食していて、同部の腐食箇所にV字状の溝を伴う微小亀裂が生じていた。 しかし、A受審人は、毎年主機の定期整備の際に不具合箇所があれば特に指示しなくても部品を交換した旨の事後報告を業者から受けていたことから、業者に整備を任せて大丈夫と思い、自ら工場に出向くかあるいは業者に指示するなどして排気弁の衰耗状態を十分に点検しなかったので、カラーチェックが実施されたものの、6番シリンダ左側排気弁の腐食箇所の微小亀裂を発見できず、同弁の弁棒を交換しないままに出漁した。 こうして、日東丸は、A受審人ほか7人が乗り組み、まぐろかつお漁業の目的で、船首2.8メートル船尾5.0メートルの喫水をもって、同年6月13日10時30分宮城県塩釜港を発し、途中同県大原湾内の餌場に寄せて活餌のいわしを積み込み、同日13時30分餌場を発して福島県塩屋埼沖の漁場に向け、主機の回転数700及びプロペラ翼角19度として14.5ノットの対地速力で航行した。主機は、運転が続けられているうち、爆発圧力等による応力が前示排気弁の腐食箇所に集中して繰返し作用したことにより、同箇所の材料が疲労していたところ、18時20分北緯37度52分東経142度55分の地点において、同弁の弁棒が弁傘付け根部で折損し、脱落した弁傘がピストンとシリンダヘッドとに挟撃され、異音を発した。 当時、天候は晴で風力3の南風が吹き、海上は穏やかであった。 船室で休息していたA受審人は、異音に気付いて機関室に急行し、機関当直者により既に減速されていた主機を停止して点検した結果、6番シリンダのシリンダヘッド、ピストン及びシリンダライナ各燃焼室面の破損、右側排気弁及び吸気弁の各弁棒の曲損並びに過給機タービン部の損傷等が判明して運転の継続を断念し、その旨を船長に報告した。 日東丸は、僚船により宮城県石巻港に曳(えい)航されたのち、各損傷部品を新替えした。
(原因) 本件機関損傷は、主機排気弁の定期整備を行う際、同弁の衰耗状態の点検が不十分で、弁傘付け根部の腐食箇所に微小亀裂を生じたまま運転が続けられ、同箇所の材料が疲労したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、業者に依頼のうえ主機排気弁を工場に陸揚げして定期整備を行う場合、同弁が長期間高温の排気にさらされているうち腐食衰耗するから、次回定期整備まで使用可能か否かが確かめられるよう、自ら工場に出向くかあるいは業者に指示するなどして同弁の衰耗状態を十分に点検すべき注意義務があった。しかるに、同人は、業者に整備を任せて大丈夫と思い、同弁の衰耗状態を十分に点検しなかった職務上の過失により、弁傘付け根部の腐食箇所に微小亀裂を生じたまま運転を続け、同箇所の材料の疲労破壊を招き、弁傘が脱落してシリンダヘッド等の破損を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |