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1998年(平成10年)

平成9年函審第60号
    件名
漁船恵昌丸機関損傷事件(第2)

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年8月31日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大山繁樹、米田裕、大石義朗
    理事官
里憲

    受審人
A 職名:恵昌丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
全主軸受、1番、3番、4番及び5番各クランクピン軸受などが焼損、クランク軸が焼損、潤滑油ポンプが異常摩耗

    原因
主機整備の際の点検不十分(主軸受など)

    主文
本件機関損傷は、空気冷却器から漏れた冷却海水が燃焼室内に流入して吸気弁などに損傷を生じ、その修理に当たった際、主軸受などの点検が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年11月15日03時50分
北海道目梨郡羅臼町相泊漁港沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船恵昌丸
総トン数 19.69トン
登録長 17.97メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 250キロワット
回転数 毎分1,800
3 事実の経過
恵昌丸は、昭和57年6月に進水し、定置網漁業に従事する鋼製漁船で、9月から11月を操業期間として月間約180時間、その他の期間を定置網の手入れなどにあたる操業準備期間として月間約20時間、それぞれ稼働していた。
主機は、三菱重工業株式会社が製造した6ZDAC-1型ディーゼル機関で、給気系統に空気冷却器が装備され、各シリンダには船首方から順番号が付されていた。
主機の潤滑油系統は、オイルパン内の潤滑油が主機直結の歯車ポンプによって吸引加圧され、冷却器、フィルタを経て主管に至り、一方が主軸受、クランクピン軸受などへ、他方が吸排気弁、カム軸などへ供給されるようになっていた。
ところで、主機の空気冷却器は、主機の右舷側上部に設置され、空気冷却器箱内には多数のフィン付冷却管で構成される管巣が設けられ、同冷却管の内部を主機直結海水ポンプによって吸引加圧された海水が通り、一方、同冷却管の外側を過給機から送られた給気が通り、冷却されたのち各シリンダに送られるようになっていた。そして、空気冷却器箱と海水入口管フランジとの接続部は、同冷却器箱を貫通するフランジ管継手状の接続金物(以下「コネクタ」という。)を介してボルト締めする構造になっており、コネクタと管板との間から冷却海水が給気側へ漏出しないように、コネクタの外周にOリングが装着されていた。
また、空気冷却器は、就航以来使用してきたもので、運転時間の経過とともにコネクタに腐食や振動による変形、Oリングに経年による硬化などを生じ、いつしか冷却海水がOリング装着部から給気側へ漏出し、各シリンダの燃焼室へ流入する一方、一部が空気冷却器箱のコネクタ貫通部より外部へ少量漏洩(えい)するようになった。
A受審人は、相泊漁港に入港後恵昌丸を上架し、空気冷却器から外部への漏水と煙が黒っぽくなったこととの状況から、同冷却器の冷却海水が給気側へ漏出して燃焼不良を生じていた可能性がある旨を、地元の整備業者に話して主機の開放を行わせたところ、前示損傷のほか、6番シリンダにおいて、ピストン頂面及びシリンダヘッド触火面に打傷、シリンダライナに縦傷、連接棒に曲損をそれぞれ生じ、また、空気冷却器の管巣、コネクタなどに変形を生じるなどしており、これらを新替えした。ところが、同人は、オイルパン内の潤滑油が空気冷却器から漏洩した冷却海水の長期に亘(わた)る混入により著しく劣化し、このため主軸受、クランクピン軸受などが潤滑不良により肌荒れを生じていたが、漏水箇所などを修理したので運転に支障あるまいと思い、主軸受などを点検しなかったのでそのことに気付かず、同月14日前示の新替えのみで工事を終了した。
こうして、恵昌丸は、工事後初めて出漁することになり、A受審人ほか7人が乗り組み、翌15日03時30分主機を始動し、岸壁を移動して氷を積込み後同時45分相泊漁港を発し、主機を回転数毎分1,000にかけて同港内を航行中、肌荒れの生じていた全主軸受、1番、3番、4番及び5番各クランクピン軸受などが焼損し、03時50分相泊港南防波堤灯台から真方位180度400メートルの地点において、主機が異常音を発するとともにクランク室ミスト抜管から白煙を生じた。
当時、天候は晴で風力1の南南東風が吹き、海上は穏やかであった。
操船中のA受審人は、直ちに主機を停止し、間もなく、クランク室ミスト抜管から白煙が出なくなったが、主機を再始動すると損傷を拡大させると判断し、相泊漁港で出漁準備中の僚船に無線で救助を求めた。
恵昌丸は、僚船に曳航されて相泊漁港に入港し、上架後、業者が開放点検した結果、前示軸受損傷のほか、クランク軸が焼損、潤滑油ポンプが異常摩耗しており、損傷部品を新替えした。

(原因)
本件機関損傷は、空気冷却器から漏れた冷却海水が燃焼室に流入して吸気弁、ピストンなどが損傷し、その修理に当たった際、主軸受などの点検が不十分で、同海水混入のため劣化した潤滑油により肌荒れの生じていた主軸受などを新替えしないまま運転されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、空気冷却器から漏れた冷却海水が給気とともに燃焼室へ流入して吸気弁、ピストンなどを損傷し、その修理に当たった場合、燃焼室へ漏出した冷却海水がクランク室に流下して潤滑油に混入し、同油の劣化により主軸受などに肌荒れを生じているおそれがあったから、同軸受などを点検すべき注意義務があった。しかるに、同人は、漏出箇所を修理したので運転に支障あるまいと思い、主軸受などを点検しなかった職務上の過失により、同軸受などに肌荒れを生じたまま運転を続け、同軸受、クランク軸などを焼損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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