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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年11月12日11時30分 北海道目梨郡羅臼町相泊漁港沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船恵昌丸 総トン数 19.69トン 登録長 17.97メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力
250キロワット 回転数 毎分1,800 3 事実の経過 恵昌丸は、昭和57年6月に進水し、定置網漁業に従事する鋼製漁船で、9月から11月を操業期間として月間約180時間、その他の期間を定置網の手入れなどにあたる操業準備期間として月間約20時間、それぞれ稼働していた。 主機は、三菱重工業株式会社が製造した6ZDAC-1型ディーゼル機関で、給気系統に空気冷却器が装備され、各シリンダには船首方から順番号が付されていた。 主機の潤滑油系統は、オイルパン内の潤滑油が主機直結の歯車ポンプによって吸引加圧され、冷却器、フィルタを経て主管に至り、一方が主軸受、クランクピン軸受などへ、他方が吸排気弁、カム軸などへ供給されるようになっていた。 ところで、主機の空気冷却器は、主機の右舷側上部に設置され、空気冷却器箱内には多数のフィン付冷却管で構成される管巣が設けられ、同冷却管の内部を主機直結海水ポンプによって吸引加圧された海水が通り、一方、同冷却管の外側を過給機から送られた給気が通り、冷却されたのち各シリンダに送られるようになっていた。そして、空気冷却器箱と海水入口管フランジとの接続部は、同冷却器箱を貫通するフランジ管継手状の接続金物(以下「コネクタ」という。)を介してボルト締めする構造になっており、コネクタと管板との間から冷却海水が給気側へ漏出しないように、コネクタの外周にOリングが装着されていた。 また、空気冷却器は、就航以来使用してきたもので、運転時間の経過とともにコネクタに腐食や振動による変形、Oリングに経年による硬化などを生じ、いつしか、冷却海水がOリング装着部から給気側へ漏出し、各シリンダの燃焼室へ流入する一方、一部が空気冷却器箱のコネクタ貫通部より外部へ少量漏洩(えい)するようになった。 A受審人は、平成8年5月船長として乗り組み、同月主機の潤滑油を新替え後、定置網の手入れなどの操業準備に従事していたところ、主機の空気冷却器箱のコネクタ貫通部から冷却海水が外部に少量漏洩しているのを認めた。ところが、同人は、運転上格別異状が認められないのでそのまま運転を継続しても問題あるまいと思い、空気冷却器の整備を業者に依頼せず、同年9月の操業期間に入ると同海水の漏洩により漏洩箇所周辺に塩が付着する状況になったものの、依然業者に整備を依頼せずに操業を繰り返していた。 その後、恵昌丸は、空気冷却器の前示Oリング装着部から冷却海水の漏出が増大するとともに、燃焼室への同海水の流入も増大して燃焼不良が進み、特に船尾傾斜のため漏出水の流入が多くなっていた6番シリンダにおいて、吸気弁弁棒部が塩分や燃焼不良によって生じた炭化物のため潤滑不良となり、更に、停泊中など燃焼室に流入した漏出水がクランク室に流下して潤滑油に混入し、同油が徐々に劣化するようになった。 同年11月上旬、A受審人は、主機運転中、空気冷却器から外部への漏水量が増大するとともに煙突から出る煙が黒っぽくなったのを認め、慌てて同冷却器の整備を業者に依頼したところ、管巣部品などが手元になく取り寄せるのに数日かかると言われ、それまで大丈夫と思ってそのまま操業を繰り返していた。 こうして、恵昌丸は、A受審人ほか2人が乗り組み、羅臼町相泊漁港に回航する目的で、同月12日11時00分同町羅臼漁港を発し、主機を回転数毎分1,700で運転して航行中、6番シリンダ吸気弁の弁棒部が潤滑不良の進行によりスティックを生じ、11時30分相泊港南防波堤灯台から真方位175度1キロメートルの地点において、弁傘部がピストンに叩(たた)かれて破損し、破片が排気系統に侵入して過給機のタービン翼に損傷を生じ、煙突から黒煙を吹き出して主機の回転が低下した。 当時、天候は晴で風力1の西風が吹き、海上は穏やかであった。 A受審人は、直ちに主機を停止して機関室へ急行し、潤滑油量及び冷却清水量を点検したところ、適正量であることが確認されたが、回転が低下したことなどから主機の運転継続不能と判断し、付近を航行中の僚船に無線で救助を求め、恵昌丸は、僚船に曳(えい)航されて相泊漁港に入港した。
(原因) 本件機関損傷は、主機の空気冷却器と海水入口管との接続部から外部に冷却海水が漏洩した際、空気冷却器の整備が不十分で、同海水が給気側に漏出したまま運転が続けられ、吸気弁弁棒部が塩分や燃焼不良によって生じた炭化物によりスティックしたことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、主機の空気冷却器と海水入口管との接続部より外部に冷却海水が漏洩するのを認めた場合、同海水が給気側へも流入しているおそれがあったから、空気冷却器を整備すべき注意義務があった。しかるに、同人は、運転上格別異状が認められないので、そのまま運転を継続しても問題あるまいと思い、同冷却器を整備しなかった職務上の過失により、同海水が給気側に漏出したまま運転を続けて吸気弁弁棒部がスティックする事態を招き、シリンダヘッド、ピストン、シリンダライナなどを損傷させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |