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1998年(平成10年)

平成10年門審第15号
    件名
漁船第三十三幸盛丸機関損傷事件〔簡易〕

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年7月29日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

吉川進
    理事官
根岸秀幸

    受審人
A 職名:第三十三幸盛丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
1、2、3及び5番のクランクピン軸受が焼き付き、1番及び2番のピストンとシリンダライナが焼損

    原因
主機の開放整備不十分(ナットの緩み)

    主文
本件機関損傷は、主機の開放整備が不十分で、潤滑油ポンプの潤滑油出入口ふたのナットが緩み、潤滑油圧力が低下したまま運転が続けられたことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年8月5日20時00分
大隈海峡東部
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十三幸盛丸
総トン数 19.98トン
登録長 14.95メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 481キロワット
回転数 毎分1,940
3 事実の経過
第三十三幸盛丸(以下「幸盛丸」という。)は、昭和54年5月に進水した、中型まき網漁業に従事するFRP製漁船で、主機として株式会社小松製作所が製造したEM679A-A型と呼称する、逆転減速機付ディーゼル機関1基を装備していた。
主機は、船首側から1番ないし6番の気筒番号が付され、油だめの船首側に潤滑油ポンプを内蔵し、クランク室のオイルミストを操舵室後部で大気に放出していた。
主機の潤滑油は、クランク室底部の標準油量107リットルの油だめから潤滑油ポンプで吸引・加圧され、冷却器及びこし器を経て潤滑油主管とピストン冷却管とに分かれ、同主管から主軸受、クランクピン軸受更にピストンピンに至るもののほか、カム軸受、カム駆動歯車、動弁装置及び過給機軸受にそれぞれ供給され、一方ピストン冷却管から各ピストン下部に向けて噴出し、それぞれ油だめに戻るものであったが、同冷却管入口には、潤滑油圧力が1.2キログラム毎平方センチメートル以上にならないと開かない圧力下限弁が取り付けられていた。
潤滑油ポンプは、クランク軸で駆動されるギヤポンプで、主動歯車と従動歯車とを収めるポンプケーシングの船尾側に軸受ふたを兼ねる潤滑油出入口ふた(以下「出入口ふた」という。)が4組の締付ボルトとナットで取り付けられ、出入口ふたに吸入管と吐出管とが接続され、前示標準潤滑油量では、ポンプケーシングの約半分までが常時潤滑油の中に浸されるようになっていたが、いつしか機関の振動で出入口ふたのナットに緩みが生じていた。
A受審人は、船長兼漁労長として乗船し、平成元年5月に本船を購入以来、主機の管理を専ら機関員に任せ、潤滑油、同こし器及び燃料弁ノズルを取り替えるなどの定期的な整備を行わせていたが、ピストン抜出しの整備をしたことがなく、平素自ら船橋の計器盤で潤滑油圧力計を見ていなかったので、潤滑油主管の圧力が徐々に低下していることに気付かなかった。
幸盛丸は、網船として操業するために主機が月間260時間ほど運転され、ピストンリングとシリンダライナに経年の摩耗が生じていたところ、平成8年8月5日17時ごろ鹿児島県内之浦港において出港に備えて主機を始動して暖機中、前示潤滑油ポンプの出入口ふたに生じた隙間からの漏洩(ろうえい)で潤滑油圧力が低下してピストン冷却油が止まり、ピストンが過熱しで燃焼ガスが吹き抜け、白煙がオイルミスト管から大量に放出された。
A受審人は、機関員から白煙放出の連絡を受け、鉄工所の係員を呼んで相談したところ、出漁を取り止めるよう提言されたが、操業して帰港後に点検させても大丈夫と思い、休漁して主機を整備させることなく、灯船、運搬船など僚船を先に出港させ、本船も続けて出港することとした。
こうして、幸盛丸は、A受審人ほか6人が乗り組み、19時00分内之浦港を発し、主機を回転数毎分1,800にかけて大隅海峡東部の漁場に向かったところ、潤滑油圧力の低下でクランクピン軸受が異常摩耗し、潤滑油ポンプの出入口ふたの隙間から噴出する潤滑油とピストンから吹き抜ける燃焼ガスで油だめの潤滑油がオイルミスト管に吹き上がり始め、同時15分主機を回転数毎分1,300に減速して魚群の探索を開始し、南下しているうちに、同時45分ごろオイルミスト管から放出された潤滑油が船尾で投網を準備していた乗組員に降りかかったが、そのまま運転が続けられ、20時00分火埼灯台から真方位176度7.4海里の地点において、クランクピン軸受が焼き付き、主機が停止した。
当時、天候は曇で風力5の北東風が吹き、海上はうねりがあった。
A受審人は、機関員に主機の点検をさせ、油だめの潤滑油量が異状に減少し、機関が過熱しているとの報告を受けて航行不能と判断し、僚船を呼んで鹿児島県山川港に曳(えい)航させた。
幸盛丸は、精査の結果、主機潤滑油ポンプの出入口ふたに隙間が発見され、1、2、3及び5番のクランクピン軸受が焼き付き、1番及び2番のピストンとシリンダライナが焼損しているのが判明し、のち主機が換装された。

(原因)
本件機関損傷は、主機の開放整備が不十分で、ピストンリングとシリンダライナの摩耗が進行していたところ、更に機関の振動で潤滑油ポンプの出入口ふたのナットが緩み、潤滑油圧力が低下したまま運転が続けられ、ピストンの冷却とクランクピン軸受の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、購入以来開放整備をしていなかった主機が、出港準備をするうちにクランク室から白煙状のオイルミストを多量に放出するようになった場合、機関主要部に異状が発生していることが予想できたのであるから、出漁を取り止め、主機を開放して整備させるべき注意義務があった。ところが、同人は、操業後に点検させても大丈夫と思い、主機を開放して整備させなかった職務上の過失により、出漁して主機の主要部の潤滑と冷却が阻害される事態を招き、クランクピン軸受及びピストンとシリンダライナに損傷を生じさせるに至った。






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