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1998年(平成10年)

平成10年門審第32号
    件名
漁船第八昇盛丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年7月17日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

吉川進、畑中美秀、西山烝一
    理事官
内山欽郎

    受審人
A 職名:第八昇盛丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
各シリンダライナが焼損、シリンダブロックに破口、クランク軸曲損

    原因
主機冷却水ポンプの駆動装置の整備と冷却水温度警報装置の整備不十分

    主文
本件機関損傷は、主機冷却水ポンプの駆動装置の整備が十分でなかったことと、冷却水温度警報装置の整備が十分でなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場折
平成9年1月3日06時40分
対馬東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八昇盛丸
総トン数 14トン
全長 19.90メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 433キロワット
回転数 毎分1,900
3 事実の経過
第八昇盛丸(以下「昇盛丸」という。)は、平成2年12月に進水したいか一本釣りに従事するFRP製漁船で、主機として三菱重工業株式会社が製造したS6A3-MTK型と呼称するディーゼル機関1基を装備し、その船首側には、集魚灯などに給電する出力300キロボルトアンペアの三相交流発電機を直結していた。
主機の冷却水系統は、間接冷却方式で、海水で冷却される冷却水タンクの清水が、冷却水ポンプで吸引・加圧され、潤滑油冷却器を冷却したのちシリンダブロックに入ってシリンダライナ、シリンダヘッドを順に冷却し、その後排気マニホルドの冷却ジャケットを通って再び同タンクに戻るもので、同タンク上部には、標準設定温度が摂氏98度の冷却温度警報用センサー(以下「水温センサー」という。)が取り付けられ、操舵室の機関警報盤で警報を発するようになっていた。
冷却水ポンプは、機関船首側の主軸プーリ、冷却水ポンプ前端のポンプ軸プーリ及びテンションプーリの三点に掛け回したVベルト(以下「ベルト」という。)で駆動されており、同ベルトの張力の調整をするときは、玉軸受2個で可動式の調整板に取り付けられたテンションプーリの位置を移動するようになっていた。
また、潤滑油系統は、潤滑油ポンプで加圧された潤滑油が、こし器を経て前示冷却器で冷却され、各軸受、歯車などの主要部を潤滑するほか、ジェットノズルから各ピストン下部に噴出して冷却するようになっていた。
昇盛丸は、対馬から山口県北方沖合までの海域を主な漁場とし、夕刻出漁して翌朝帰港する操業を行い、主機が漁場までの往復航行と操業中の発電機駆動のために年間3,500時間ほど運転され、冷却水ポンプの駆動ベルトについては、定期整備の一環としてほぼ1年ごとに新替えされていたが、テンションプーリの玉軸受が就航以来取り替えられずに使用されていた。
A受審人は、昇盛丸の就航以来、船長として機関の運転と整備に従事し、潤滑油のこし器と潤滑油の取り替えを定期的に行うほかは鉄工所に点検と整備を依頼しており、平成8年3月冷却水ポンプのベルトを鉄工所に依頼して取り替えたのち、同年4月ごろ運転で緩んだベルトの張力を自分で調整した際に、テンションプーリの玉軸受にがたを生じているのに気付いたが、特に支障ないものと思って同軸受の取替えを依頼せず、また機関警報についても、その後定期的に水温センサーのテストを依頼するなど温度警報装置の整備をすることなく運転を続けた。
こうして昇盛丸は、平成9年1月2日16時A受審人ほか1人が乗り組み、船首0.8メートル船尾1.5メートルの喫水をもって長崎県下県郡豊玉町位之端を発し、琴埼北東沖合の漁場で主機を回転数毎分1,800にかけて発電機に切り替え、操業をするうち、前示テンションプーリの玉軸受が過熱し、翌3日06時ごろ操業を終えて主機を回転数毎分1,700にかけ、定係地に向けて航行し始めたところ、同プーリの玉軸受が固着してベルトが急激にすり減り、ついにベルトの摩擦力がなくなって冷却水ポンプの回転が停止し、冷却水の流れが途絶えて潤滑油温度と機関出口の冷却水温度が上昇したが、水温センサーが不良で警報が吹鳴せず、冷却が阻害されたピストンが膨張して機関の回転数がわずかに低下したあともそのまま運転が続けられ、06時40分琴埼灯台から真方位138度8海里の地点でシリンダライナと焼きついた4番シリンダのピストンが上下に割れ、次いで連接棒がシリンダライナを割って音響を発した。
当時、天候は晴で風力3の西風が吹いていた。
A受審人は、異音を聞いて主機を停止し、機関室に入って主機底部と周辺に潤滑油が飛散しているのを見て運転不能と判断し、近くにいた僚船に曳(えい)航を依頼した。
昇盛丸は、精査の結果、各シリンダライナが焼損し、4番連接棒でシリンダブロックに破口を生じ、ピストンの破片が連接棒大端部とクランク腕に挟まれてクランク軸が曲損していることが判明し、のち主機が換装された。

(原因)
本件機関損傷は、主機冷却水ポンプの駆動装置の整備と冷却水温度警報装置の整備が不十分で、同ポンプ駆動ベルトのテンションプーリの玉軸受が固着してベルトが急激にすり減り、同ポンプが停止して冷却水の流れが途絶えたまま運転が続けられたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受番人は、機関の運転と管理に当たる場合、運転中に冷却水温度が上昇したときいつでも機関の停止ができるよう、定期的に水温センサーのテストを依頼するなど温度警報装置の整備を行うべき注意義務があった。しかし、同人は、駆動ベルトの定期的な取替えと調整を行っているので大丈夫と思い、水温センサーの整備を行わなかった職務上の過失により、ベルトがすり減って冷却水の流れが途絶したときに冷却水温度警報が吹鳴せず、主機の運転が続けられ、ピストンが過熱して割れシリンダブロックの破口、クランク軸の曲がりなど主要部に損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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