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1998年(平成10年)

平成10年門審第23号
    件名
LPG船オーバルエルピー機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年7月9日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

吉川進、畑中美秀、清水正男
    理事官
内山欽郎

    受審人
A 職名:オーバルエルピー機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
主機過給機タービンのノズルリング翼列とロータ翼端に曲がり

    原因
主機整備の際の点検不十分(シリンダ内の落下物)

    主文
本件機関損傷は、主機排気弁箱の取替え作業の際、シリンダ内の落下物の点検が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年9月9日06時45分
宮城県石巻湾
2 船舶の要目
船種船名 LPG船オーバルエルピー
総トン数 698トン
全長 65.10メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
計画出力 1,323キロワット
回転数 毎分300
3 事実の経過
オーバルエルピーは、平成3年12月に進水し、東日本の太平洋側各港間で主としてプロパン、ブタン等の石油ガスを運搬する液化ガスばら積船で、主機として阪神内燃機工業株式会社が製造した6EL30型と称するディーゼル機関と油圧クラッチ付逆転機を装備していた。
主機は、船首側を1番として順に6番までシリンダ番号が付けられ、各シリンダに吸気弁と排気弁を1個ずつ備え、各排気弁を出た排気ガスが排気管を経て、機関の右舷船尾側に置かれた過給機に導かれていた。
過給機は、ラジアル型排気ガスタービンのロータ軸に遠心ブロワを取り付け、同軸を浮動スリーブ式軸受で支える構造で、同タービンロータ周囲を、外周から排気ガスを導入するガス入口ケーシングと、排気ガスを加速する翼列で構成されるノズルリングとで囲むように組み立てられていた。
主機の吸気弁及び排気弁は、いずれも弁箱形式でシリンダヘッド中央の燃料噴射弁の両側の挿入孔に収められ、機関の回転に合わせてロッカーアームの押し下げと弁ばねとで開閉を繰り返すもので、同アーム先端から弁頭に注油される潤滑油が、弁の開閉動作で周辺に飛散しないよう動弁腕覆(以下「ばねカバー」という。)で覆われていた。また、ばねカバーは、厚さ4.5ミリメートルの鋼板を使用した溶接構造で、弁頭から弁ばね上半部を囲むようにロッカーアームの先端に呼び寸法M12の六角ボルトで取り付けられ、同ボルトの締付け面に回り止めとして呼び径12ミリメートルのばね座金(以下「ばね座金」という。)が入れられていた。
ところで、吸気弁及び排気弁を抜き出して整備したのち、シリンダ内を点検する場合は、ピストン位置が高いと、シリンダヘッドの挿入孔をとおして視認できる範囲が限定されるので、ターニングをしてピストン位置を適宣下げる必要があった。
オーバルエルピーは、A受審人ほか6人が乗り組み、平成8年9月6日15時20分、空槽で船首2.2メートル船尾4.3メートルの喫水をもって、北海道苫小牧港を発し、宮城県塩釜港に向かい、翌7日13時05分二鬼城埼灯台北東方の大原湾内に投錨して仮泊し、積荷を待つ間に、ちょうど整備時期が迫っていた主機の吸気分及び排気弁の取替えが行われることとなった。
A受審人は、機関長として機関の運転と整備全般に従事し、船内での吸気弁、排気弁の取替え作業を数多く経験しており、かねてよりすり合わせ整備を済ませ、組み立ててあった予備の吸気弁及び排気弁を用意させ、翌々8日07時30分一等機関士及び操機手を指揮し、3人で主機の4番から6番の吸気弁と全シリンダの排気弁の取外し作業を開始した。
主機は、各シリンダのばねカバーが次々に取り外されるうちに、3番排気弁のばね座金が抜け落ちて排気弁と燃料噴射弁との間に挟まるかし、続いて排気弁が抜き出されたが、その際、同ばね座金が排気弁挿入孔からシリンダ内に落下した。
A受審人は、予備の吸気弁及び排気弁を収めるに際して、各挿入孔を掃除したあと、給気弁が抜かれずに残っていた3番シリンダについては、ピストン位置が高く、シリンダ内の一部しか見ることができなかったが、見える範囲で異物が見当たらないので大丈夫と思い、ターニングをしてピストン位置を下げるなどしてシリンダ内を十分に点検することなく、落下していたばね座金に気付かないまま整備済みの排気弁の取り付けとばねカバーの組み付けを行った。
A受審人は、吸気弁及び排気弁の取替え作業を終えて試運転の準備を行い、11時30分投錨したままクラッチを中立にして主機を始動し、毎分回転数150にかけて無負荷のまま30分間試運転を行ったのち主機を停止した。
こうして、オーバルエルピーは、越えて9日06時30分同仮泊地を発して塩釜港仙台区の岸壁に向かい、06時45分二鬼城埼灯台から真方位286度1.3海里の地点で主機を航海速力の毎分回転数270としたところ、主機3番シリンダ内に落ちていた前示ばね座金が排気管を経て過給機入口ケーシングに飛び込み、ノズルリングとタービンロータの間で各翼列を次々にたたいて変形させ、過給機ブロアがサージングを生じた。
当時、天候は曇で風力3の南南東風が吹いていた。
A受審人は、ただちに回転数を下げ、各部を点検したが、異状の原因を確認できなかったので、サージングが発生しない回転数の範囲に減速して運転を続け、入港して着岸後にあらためて点検したところ、3番排気弁のばね座金が紛失していることが分かった。
精査の結果、主機過給機夕一ビンのノズルリング翼列とロータ翼端に曲がりが生じているのが確認され、オーバルエルピーは、のち過給機の損傷部が取り替えられた。

(原因)
本件機関損傷は、主機排気弁の取替え作業中、整備済みの予備弁を挿入する際、シリンダ内の点検が不十分で、作業中にシリンダ内に落下した3番排気弁のばね座金が残ったまま運転されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機の排気弁を抜き出し、挿入孔を掃除して予備弁を収める場合、3番のシリンダヘッドには吸気弁が抜かれずに残ってシリンダ内の視認範囲が限定されていたのであるから、全体が見えるようターニングをしてピストン位置を下げたうえで、シリンダ内を十分に点検すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、見える範囲で異物が見当たらないので大丈夫と思い、シリンダ内を十分に点検しなかった職務上の過失により、作業中にシリンダ内に落下していたばね座金に気付かないまま予備弁を挿入して主機を始動し、過給機に損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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