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1998年(平成10年)

平成9年広審第50号
    件名
漁船第八住栄丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年7月15日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

杉?忠志、黒岩貢、横須賀勇一
    理事官
弓田邦雄

    受審人
A 職名:第八住栄丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
台板及び機関据付け台の調整ライナとの各接触面に著しいフレッチング、台板の4番主軸受キャップ取付け面に亀裂、同主軸受などが異常摩耗してクランク軸が損傷、動力取出軸の弾性ゴム継手及びガイスリンガー継手にも損傷

    原因
主機据付けボルトの締付け状態の点検不十分

    主文
本件機関損傷は、主機据付けボルトの締付け状態の点検が不十分で、同ボルトが緩んだまま主機の運転が続けられたことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年4月26日16時00分
鳥取県境港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八住栄丸
総トン数 115トン
登録長 30.00メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 684キロワット
回転数 毎分560
3 事実の経過
第八住栄丸(以下「住栄丸」という。)は、昭和49年2月に進水し、かにかご漁業に従事する鋼製漁船で、主機として株式会社新潟鉄工所が製造した6MG25BX型と称するディーゼル機関を装備し、軸系にガイスリンガー継手を介して逆転減速機が、主機前部の動力取出軸に弾性ゴム継手を介して油圧ポンプがそれぞれ設けられ、操舵室に主機の回転計、潤滑油圧力計などの計器類及び潤滑油圧力低下などの警報装置を組み込んだ主機操縦装置が備えられ、同室から主機の回転数及び逆転減速機の遠隔操作ができるようになっていた。
主機は、連続最大出力956キロワット同回転数毎分720の原型機関に出力制限装置を付設して漁船法馬力数430としたもので、就航後に同装置が取り外され、全速力前進時の回転数を毎分620までとして運転されていた。
また、主機は、特殊鋳鉄製の台板、シリンダブロック、ジャーナル径210ミリメートル(以下「ミリ」という。)クランクピン径200ミリを有する一体型鍛鋼製のクランク軸、ケルメットの表面に錫鉛合金をオーバレイした薄肉完成メタルを組み込んだ主軸受、シリンダライナ、シリンダヘッド、連接棒などで構成されており、全長が2.955メートル、全幅が1.492メートルであった。
主機の据付けは、台板と船底に固定された機関据付け台の据付け面との間に、U字型の厚さ約45ミリ奥行き125ミリ幅105ミリの調整ライナを挟み、これらを貫通する主機据付けボルトによって主機を固定するようになっており、ボルト穴が片舷につき7個設けられ、船首側を1番として順番号が付されていて、ねじの呼び径M27全長205ミリの同ボルトを両舷の1番から6番のボルト穴に、リーマ径34ミリ長さ205ミリのリーマボルトを船尾側の各7番のボルト穴にそれぞれ挿入し、ナットで締め付けたうえ、それぞれのナットには止めナットが施されていた。
ところで、主機は、主機据付けボルトに緩みを生じると、調整ライナがたたかれて、その上下の接触面が摩耗し、更に台板と機関据付け台との間に遊びを生じる状況となり、運転中の主機の振動が激しくなるほか、台板の変形などで主軸受の中心線が不正となって、繰り返し作用する応力を受けて台板、クランク軸及び主軸受などが損傷するおそれがあり、また、動力取出軸の弾性ゴム継手及びガイスリンガー継手などにも不具合を生じるおそれがあったので、主機の振動が大きくなった際には、同ボルトを点検して異常の有無の確認が行われなければならなかった。
住栄丸は、鳥取県境港を基地として、例年9月上旬から翌年6月下旬まで隠岐諸島周辺の漁場に出漁し、1航海が約10日間の操業を繰り返し行い、7月から8月までの2箇月間を休漁期間としていた。
A受審人は、昭和59年から機関長として住栄丸に乗り組み、2人の機関部員を指揮監督して機関の保守と運転に当たり、主機のピストン、シリンダヘッドの開放整備及び潤滑油の取替えなどを休漁期間中に行っており、航行中には同人のほか両機関部員による単独3時間交替の機関当直体制をとり、操業中には甲板作業に従事していることもあって同作業の合間を見て機関室をのぞく程度として機関の監視を行っていたものの、主機据付けボルトについては、自ら同ボルトの締付け状態の点検を行ったことがなく、また、修理業者に依頼するなどして同ボルトの点検整備も行っていなかった。
ところが、A受審人は、漁場に赴いて操業を繰り返していたところ、いつしか主機の振動の影響を受けるなどして止めナットが緩み、主機据付けボルトにも緩みが進行するようになり、平成8年2月ごろから主機の船尾側上部にそれぞれ隣接して設けられた空気冷却器及び過給機が以前より振動を増し、これが次第に激しくなるなど、主機の振動が大きくなるのを認めた。しかしながら、同人は、同ボルトが緩むことはあるまいと思い、早期に同ボルトの締付け状態を点検することなく、それらの緩みが進行するとともに他の同ボルトに応力が集中するなどして、緩みを生じる同ボルトの個数が徐々に増加する状況となっていることに気付かず、その後も点検、増締めをしないまま運転を続けていた。
こうして、住栄丸は、A受審人ほか8人が乗り組み、操業の目的で、同年4月13日08時00分境港を発し、隠岐諸島西方の漁場に至って操業を繰り返しているうち、かねてより緩みが進行していた主機据付けボルトの調整ライナ数個が機関据付け台から抜け落ち、主軸受の中心線が不正となって主機の振動が増し、空気冷却器及び過給機も更に激しく振動するようになり、同機油だめ内の潤滑油面が著しく泡立つことなどから軸受の損傷を懸念して少し早めに操業を切り上げ、同月21日15時ごろ同港に入港し、境港防波堤灯台から真方位258度2,300メートルの岸壁に係留した。
A受審人は、境港において、修理業者に過給機の開放調査を依頼したが、ロータ軸、軸受及びシールエア系統などに不具合箇所が見当たらず、同機油だめ内の潤滑油面が泡立つなどの原因が判明しないまま、同機の復旧作業を終え、同月26日16時00分前示の係留地点において、主機を始動して試運転を行っているうち、ガイスリンガー継手のインナースターと側板辺りから潤滑油が吹き出すのを認めて直ちに主機を停止し、主機の振動が以前よりも激しくなっていることから同業者に依頼して主機各部を点検し、右舷側及び左舷側の各1番の主機据付けボルトが抜け落ち、右舷側の2番、3番及び7番並びに左舷側の2番及び3番の同ボルトが著しく緩んでいたうえ、右舷側の1番及び7番並びに左舷側の1番、2番及び3番の調整ライナが抜け落ちているのを発見した。
当時、天候は曇で風力3の西南西風が吹き、港内は平穏であった。
住栄丸は、修理業者による主機各部の精査の結果、台板及び機関据付け台の調整ライナとの各接触面に著しいフレッチングが生じ、台板の4番主軸受キャップ取付け面に亀(き)裂が生じていたほか、同主軸受などが異常摩耗してクランク軸が損傷し、動力取出軸の弾性ゴム継手及びガイスリンガー継手にも損傷が生じていることが判明し、のち中古の機関に換装した。

(原因)
本件機関損傷は、主機の振動が大きくなった際、主機据付けボルトの締付け状態の点検が不十分で、同ボルトが緩んだまま主機の運転が続けられ、主軸受の中心線が不正となって、主軸受、台板などに繰り返し応力が作用して材料疲労を生じたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機の振動が大きくなったのを認めた場合、主機据付けボルトに緩みを生じているおそれがあったから、早期に同ボルトの締付け状態の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、同ボルトが緩むことはあるまいと思い、早期に同ボルトの締付け状態の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、同ボルトが緩んでいることに気付かないまま運転を続け、主軸受の中心線の不正を招き、主軸受、台板、クランク軸、動力取出軸の弾性ゴム継手及びガイスリンガー継手などに損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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