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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成7年7月14日15時20分 青森県八戸港北東方沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船第八漁進丸 総トン数 19トン 登録長 17.69メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力
404キロワット 回転数 毎分1,450 3 事実の経過 第八漁進丸(以下「漁進丸」という。)は、昭和61年3月に進水したFRP製漁船で、主機として、株式会社新潟鉄工所が製造した6NSBA-M型ディーゼル機関を備え、燃料油をA重油とし、操舵室に主機の遠隔操縦装置及び警報装置を装備していた。 主機の潤滑油系統は、総油量が約100リットルで、クランク室底部の油受から直結式潤滑油ポンプに吸引された油が、油冷却器及びノッチワイヤ複式の油こし器を経て入口主管に至り、同主管から主軸受、クランクピン軸受、ピストン冷却噴油ノズル、調時歯車装置及び動弁装置などに分岐し、各部の潤滑あるいは冷却を行い、油受に戻るようになっており、油清浄装置として遠心式濾(ろ)過器を付設していた。 ところで、主機の潤滑油は、長時間使用するうちカーボン粒子及びスラッジ等の燃焼生成物の混入により汚れるとともに高温にさらされて性状の劣化が進行するほか、新油と取り替える際に燃焼生成物や古油が油受内部に残留していると、その影響により新油が急速に汚れて変質劣化しかねないので、定期整備の標準として、運転が300時間を経過するごとに油受内部を掃除のうえ油の取替え及び同じく500時間ごとに油こし器の掃除をそれぞれ行うことが取扱説明書で指示されていた。 A受審人は、以前に先代第八漁進丸(総トン数19トン)に船主船長として乗り組み、同船が従業制限小型第2種のさけます流し網漁業に従事したことから、共に乗り組んだB受審人に機関長の職務を執らせており、平成7年3月下旬に漁進丸を購入して従業制限小型第1種のいか一本釣り漁業に従事するにあたり、従前どおり、自らが船主船長として乗り組み、同受審人に機関長の職務を執らせて機関に関する職務のすべてを任せた。 B受審人は、漁進丸が引き渡された際、前任機関長から同年2月に主機の定期整備を行って潤滑油を取り替えた旨の引継ぎを受け、出漁に先立ち同油の油こし器の掃除を行い、主機の運転及び保守管理にあたった。 漁進丸は、同年5月9日北海道浦河港を発し、日本海の兵庫県沖漁場に至って操業を開始したのち、北上するいかを追いながら漁場を青森県東岸沖に移動して操業を続け、越えて7月13日朝八戸港に入港した。主機の潤滑油は、運転による消費分に見合う量が補給されていたものの、浦河港から出漁して既に運転時間が約550時間経過し、定期整備の標準取替え時間を大幅に超えて使用されていたので、汚損劣化が進行しており、一方油こし器の掃除が適切に行われないまま、燃焼生成物が混入し、油こし器のエレメントが次第に目詰まりする状況になっていた。 しかし、B受審人は、検油棒で油受の潤滑油量が適量に維持されていることを確かめただけで、潤滑油を継続使用しても大丈夫と思い、油受内部を掃除のうえ同油の取替え及び油こし器の掃除を行うなどして、同油の性状管理を十分に行うことなく、油こし器を前示状況のままに次の出漁に備えた。 こうして、漁進丸は、A及びB両受審人ほか甲板員1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.75メートル船尾2.50メートルの喫水をもって、翌14日15時00分八戸港を発し、同港北東方沖合の漁場に向け、主機を回転数毎分1,300にかけて8.5ノットの対地速力で航行中、潤滑油の著しい汚損劣化により油こし器のエレメントが目詰まりし、潤滑油圧力が低下する事態となったものの、警報装置が不具合であったかして作動しないまま、主機の運転が続けられた。やがて、主機は、船首側から2番目に位置する2番シリンダのクランクピン軸受が潤滑不良となり、15時20分鮫角灯台から真方位039度2.2海里の地点において、同軸受の上下メタルが急激に摩滅焼損し、ピストンの頂面がシリンダヘッドの下面に当たって異音を発した。 当時、天候は曇で風力2の北風が吹き、海上は穏やかであった。 B受審人は、船尾甲板でいか釣り機の準備作業中、異状に気付いた甲板員から連絡を受け、機関室に急行して主機を停止し、ターニングを試みて2番シリンダ内部に異音を認め、損傷状態等が分からないまま、主機の運転継続を断念した。 漁進丸は、僚船により八戸港に曳(えい)航され、主機を精査した結果、2番シリンダのピストン、連接捧及びシリンダライナ等の損傷並びにクランクピンの焼付き等が判明し、各損傷部品を新替えした。
(原因) 本件機関損傷は、主機潤滑油の性状管理が不十分で、同油が著しく汚損劣化したまま運転が続けられ、クランクピン軸受が潤滑不良となったことによって発生したものである。
(受審人の所為) B受審人は、潤滑油系統内総油量約100リットルの主機の運転及び保守管理にあたる場合、出漁以来長時間潤滑油を使用し、同油の汚損劣化の進行により油こし器のエレメントが目詰まりして潤滑油圧力が低下するおそれがあったから、入港時に油受内部を掃除のうえ同油の取替え及び油こし器の掃除を行うなどして、同油の性状管理を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、潤滑油を継続使用しても大丈夫と思い、同油の性状管理を十分に行わなかった職務上の過失により、クランクピン軸受が潤滑不良となって軸受メタル等の損傷を招き、運転継続のできない事態を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。 |