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1998年(平成10年)

平成9年長審第61号
    件名
漁船第十六海盛丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年3月19日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

安藤周二、関?彰、保田稔
    理事官
養田重興

    受審人
A 職名:第十六海盛丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
2番、4番及び5番シリンダのピストンとシリンダライナ焼付

    原因
主機ピストンの整備不十分

    主文
本件機関損傷は、主機ピストンの整備が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年2月17日14時30分
鹿児島県阿久根港北西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第十六海盛丸
総トン数 19トン
登録長 16.99メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 558キロワット
3 事実の経過
第十六海盛丸(以下「海盛丸」という。)は、平成2年6月に進水した中型まき網漁業船団付属のFRP製網船で、主機として、ヤンマーディーゼル株式会社が製造した6N160-EN型と称する、定格回転数毎分1,400(以下、回転数は毎分のものとする。)の過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関を備えていた。
主機は、A重油が燃料油に使用されており、各シリンダには船尾側を1番として6番までの順番号が付されていた。
ところで、主機のピストンは、一体型でピストンリング溝4条がピストンヘッドに設けてあり、圧力リング3本及び油掻(か)きリング1本のピストンリングがそれぞれピストンリング溝に装着されており、定期整備の標準として、2年間隔または8,000ないし10,000時間の運転を経過するごとにピストン抜出しを行い、燃焼生成物のカーボン等を除去し、ピストンリングを交換することが取扱説明書で指示されていた。また、主機の潤滑油は、クランク室下部の油受に200リットルが入れられ、油受内に装着された直結駆動歯車式潤滑油ポンプによって吸引加圧された後、複式油濾(こし)器を経て油冷却器に至り、入口主管を介して各シリンダの主軸受、クランクピン軸受及びピストンなどに送られる油と、過給機に送られる油とに分岐し、各部を潤滑あるいは冷却して油受に戻るようになっていた。
A受審人は、海盛丸の新造時から船長として乗り組み、船団魚撈(ろう)長の職務を兼務して操業の指揮を執りながら、主機の運転保守にもあたり、日帰り出漁の都度、潤滑油量や冷却清水量等を点検し、全速力航行時には定格回転数にかけ、年間に約3,000時間運転していた。A受審人は、半年間隔で業者による潤滑油の定期更油及び油濾器の掃除を実施し、時折燃料噴射弁を整備する措置をとっていたものの、ピストン抜出しやシリンダヘッド取外し等の定期整備を乗船以来長期間実施しないで運転を続けているうち、同8年末には、シリンダヘッドの燃焼室周りに付着したカーボンが増加し、燃焼不良の運転状態となって排気に黒煙を生じ、ピストンリング溝がカーボンの付着により汚れ、次第にピストンリングの膠(こう)着が発生する状況になった。しかし、A受審人は、いつものとおり出漁を繰り返し、主機の排気に黒煙を生じているのを認めていたものの、運転には特に差支えがないものと思い、出漁の合間に業者によるピストン抜出し整備を行うことなく、そのまま主機を運転していた。
こうして、海盛丸は、A受審人ほか11人が乗り組み、操業の目的で、船首1.00メートル船尾1.80メートルの喫水をもって、同9年2月17日14時00分鹿児島県脇本漁港を発し、同県上甑(かみこしき)島北方沖合の漁場に向けて10.0ノットの対地速力で航行し、主機を定格回転数にかけて運転中、2番、4番及び5番シリンダのピストンリングの膠着が進行し、燃焼ガスがクランク室に吹き抜け、ピストンとシリンダライナとの摺(しゅう)動面の潤滑が阻害され、14時30分阿久根港倉津埼灯台から真方位318度2.9海里の地点において、同シリンダのピストンとシリンダライナとが金属接触して焼き付き、煙突の排気管から黒煙及びオイルミスト管から白煙をそれぞれ排出し、異音を発した。
当時、天候は晴で風力3の北北東風が吹き、海上には白波があった。
操舵室で操船していたA受審人は、黒煙等の異状に気付いて主機を減速したが、運転を続けるのが難しいと判断し、操業を断念のうえ反転して脇本漁港に向け、低速で続航した。
脇本漁港に帰港して主機を精査した結果、1番、3番及び6番シリンダのピストンリングは、膠着の発生がないものの、カーボンの付着により作動不良の状態が認められたが、のち前示焼付きによる損傷部品の交換修理が行われた。

(原因)
本件機関損傷は、主機ピストンの整備が不十分で、ピストンリングが膠着し、燃焼ガスの吹抜けによりピストンとシリンダライナとの潤滑が阻害されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人が、主機の運転保守にあたり、排気に黒煙を生じているのを認めた場合、ピストン抜出し定期整備を長期間実施していなかったから、燃焼生成物のカーボン等を除去して良好な運転状態にするよう、出漁の合間等に業者によるピストン抜出し整備を行うべき注意義務があった。ところが、同人は、運転には特に差支えがないものと思い、同整備を行わなかった職務上の過失により、ピストンリングを膠着させて燃焼ガスの吹抜けを招き、潤滑を阻害させてピストンとシリンダライナとの焼付きを生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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