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1998年(平成10年)

平成9年長審第53号
    件名
漁船第五十七喜久丸機関損傷事件〔簡易〕

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年3月18日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

安藤周二
    理事官
養田重興

    受審人
A 職名:機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
タービン入口囲冷却壁に破孔

    原因
主機付過給機タービン入口囲冷却壁の点検不十分

    主文
本件機関損傷は、主機付過給機タービン入口囲冷却壁の点検が十分でなかったことによって発生したものである。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年3月12日08時30分
東シナ海南部
2 船舶の要目
船種船名 漁船第五十七喜久丸
総トン数 124.50トン
全長 37.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 661キロワット
3 事実の経過
第五十七喜久丸(以下「喜久丸」という。)は、昭和54年9月に進水した以西・沖合底びき網漁業に従事する鋼製漁船で、主機として、同48年5月に株式会社新潟鉄工所が製造した6MG25BX型と称する4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関を備え、主機架構前側上方には同社製造のNHP180C型と称する軸流式排気ガスタービン過給機(以下「過給機」という。)を装備していた。
主機は、定格出力882キロワット及び同回転数毎分720(以下、回転数は毎分のものとする。)の原機に負荷制限装置を付設して計画出力661キロワット及び同回転数620とし、漁船法馬力数530としたものであったが、就航後に同装置が取り外され、燃料油にA重油を使用し、航海中の全速力前進回転数の上限を650として運転されていた。
過給機は、排気集合管と接続されたタービン入口囲、煙突に至る排気管と接続されたタービン出口囲及びブロワ囲等から成り、タービン入口囲及び同出口囲には冷却水ジャケットが設けられていた。そして、冷却水ジャケットは、主機の冷却水系統から分岐した海水で冷却されるようになっており、保護亜鉛が冷却壁に取り付けられていた。
ところで、過給機は、タービン入口囲及び同出口囲の冷却壁が排気側からの腐食と冷却水側からの浸食により経年衰耗するので、稼動後2年以上経過したものにつき定期的に両囲冷却壁各部の肉厚測定を行って衰耗状態を点検することが取扱説明書で指示されていた。また、タービン入口囲及び同出口囲は、冷却壁の肉厚が足りていても腐食あるいは浸食箇所を生じると、高負荷など運転状況によっては、これが早い速度で進行して破孔を生じ、漏水発生に至るおそれがあるので、過給機の整備を行う際には、腐食や浸食箇所の有無を点検のうえ同箇所を応急的に補修するかあるいは予備と交換するなどの措置が必要であった。
A受審人は、平成8年7月4日に喜久丸の機関長として乗り組み、同月9日に第1種中間検査を受検するため業者による過給機の整備が行われ、タービン入口囲冷却壁各部の肉厚測定及び水圧試験が実施されたものの、来歴不明のまま長期間使用されていた同入口囲の冷却壁下部に生じた局部的な腐食及び浸食箇所が発見されないまま復旧されることとなり、同箇所が次回定期整備時までの間の運転に耐えがたい状態であったが、同機の整備が行われているから大丈夫と思い、自ら同入口囲冷却壁の腐食や浸食箇所の有無を点検しなかった。
こうして、過給機は、その後主機の運転が継続されているうち、タービン入口囲冷却壁下部が腐食及び浸食の進行により衰耗して肉厚不足の状態になっていた。
喜久丸は、A受審人ほか10人が乗り組み、操業の目的で、船首2.70メートル船尾3.70メートルの喫水をもって、同9年2月6日09時00分長崎港を発し、東シナ海の男女群島女島西方沖の漁場に至り、その後東シナ海南部に漁場を変えながら操業し、越えて3月12日朝運搬船の到着を待つ目的で主機を停止回転数440にかけて漂泊中、過給機のタービン入口囲冷却壁の前示衰耗箇所に微小破孔を生じて冷却水ジャケットの海水が少しずつ漏洩(えい)し、漏水が排気集合管内を伝わって各シリンダのシリンダヘッドの排気口に浸入し、同日08時30分北緯26度57分東経124度03分の地点において、各シリンダが燃焼不良となり、運転に変調を生じて煙突から黒煙の排気を発した。
当時、天候は曇で風力1の南東風が吹き、海上は平穏であった。
船室で休息していたA受審人は、機関当直者から主機の運転状態の異状を告げられ、機関室に急行して過給機を点検し、排気集合管内に漏水を認めてタービン入口囲冷却壁に破孔を生じたと判断したが、これを修理することも無過給とする措置をとることもできないまま、運転の継続を断念し、その旨を船長に報告した。
喜久丸は、船舶所有者に救助の手配を求め、僚船により長崎港に曳(えい)航され、のち過給機の修理が行われた。

(原因)
本件機関損傷は、過給機タービン入口囲冷却壁の点検が不十分で、同冷却壁に局部的な経年衰耗箇所を生じたまま運転が継続されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人が、業者による過給機の整備が行われた際、タービン入口囲冷却壁の点検が不十分で、同冷却壁に局部的な経年蓑耗箇所を生じたまま運転を継続したことは、本件発生の原因となる。
しかしながら、以上のA受審人の所為は、同人の乗船直後に業者による過給機の整備が行われてタービン入口囲冷却壁各部の肉厚測定及び水圧試験が実施された点に徴し、職務上の過失とするまでもない。






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