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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成7年12月25日22時30分 播磨灘 2 船舶の要目 船種船名
貨物船豊洋丸 総トン数 198.45トン 登録長 25.35メートル 機関の種類
4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力
110キロワット(計画出力) 3 事実の経過 豊洋丸は、昭和24年に進水した木造貨物船で、同44年に主機を換装し、焼玉機関に換えて久保田鉄工株式会社が同年に製造したM6D50A-J型と称する、計画回転数毎分1,200のディーゼル機関を装備しており、同63年にA受審人が買船して以降、専ら広島県豊田郡の大崎上島から大阪港堺泉北区間の運航に従事していた。 主機は、海水直接冷却の無過給機関で、機関後部の同一台板内にクラッチ式逆転機を収めて上半カバーで覆ってあり、更に同カバーと台板の後端垂直面に、減速機がボルトで直接取り付けられていた。 減速機は、逆転機出力軸(以下「入力軸」という。)にキー止めされ前後両側に玉軸受を配した小歯車と、その直下に位置し、前後両側に円錐(えんすい)ころ軸受を配して減速機出力軸(以下「出力軸」という。)にキー止めされた大歯車とからなる、減速比が約0.31のもので、これら構成部品がケーシング内に収められていた。 ところで、減速機の潤滑は、ケーシング底部に入れた約8リットルの潤滑油を大歯車でかき上げ、歯面の潤滑とともに、はねかけ注油により各軸受を潤滑するようになっており、入力軸主機側及び出力軸船尾側のケーシング各貫通部には、V字形断面のオイルシールが背面に巻いたコイルリングで軸面に圧着される状態で装着してあって、同油が入力軸に添って主機台板内部に、あるいは出力軸に添ってケーシング外部に、それぞれ漏洩(ろうえい)するのを防いでいた。また、ケーシング底部には冷却水室が設けてあり、船底弁から同水室を経て、主機直結の冷却海水ポンプで吸引される海水によって、同油が冷却されるようになっていた。 A受審人は、本船購入時から自ら機関長として船長と2人で乗り組み、交代で航海当直にも就きながら機関の運転管理にあたり、同当直の前後に機関室に入って機器の状態を確認していた。しかし、同人は、減速機の潤滑油量について、買船当初は、出港前に主機の同油量とともに必ず点検するようにしていたが、ほとんど減少しなかったので、そのうち省略し始め、1ないし2年に1度機関整備の際に同油を新替えするだけで、日常の点検は全く行わないようになった。 本船は、平成7年10月に検査工事のため広島県因島市の造船所に入渠し、機関工事については、個人経営の機械整備業者が主機、発電機原動機、減速機等の開放整備を行い、うち減速機は、潤滑油とともに全軸受、入力軸のオイルシール等が新替えされた。ところが、同オイルシールを取り付ける際、人力軸との圧着面に異物をかみ込んだものか、運転を再開すると、潤滑油が主機台板内に漏洩する状態となったが、外部からの点検では発見できる箇所ではなく、同月下旬、A受審人立会いのもと各機器の試運転を行い、良好と判断されて同工事を完了した。 運航を再開したA受審人は、入渠前と同様に、減速機の潤滑油がほとんど減少しないものと思い、一度も同油量を点検することなく、運転を続けていたので、同油が主機台板内に漏曳し、徐々に減少していることに気付かなかった。 こうして本船は、A受審人ほか1人が乗り組み、雑貨約76トンを積載し、同年12月25日11時05分大崎上島を発し、堺泉北区に向け主機回転数を毎分1,100にかけて航行中、減速機入力軸の両玉軸受が潤滑不良により焼損し、同日22時30分上島灯台から真方位245度1,100メートルの地点で、主機の回転数が低下した。 当時、天候は雪で風力4の北西風が吹き、海上は波が高かった。 操舵室で航海当直に就いていたA受審人は、主機の回転数低下に気付いてクラッチを切り、機関室に急行して減速機ケーシング上部が異様に過熱していることを認め、潤滑油検油棒で油量を確かめたところ、先端に油が付着せず、上部蓋(ふた)を開いたうえ内部を点検して軸受の焼損を発見し、海上保安部に運航不能となった旨連絡した。 本船は引船に曳航(えいこう)されて兵車県姫路港飾磨区の岸壁に着岸し、前示機械整備業者の手により、減速機の入力軸両玉軸受及び出力軸オイルシールを取り替え、しばらくの間減速機の潤滑油を頻繁に補給しながら運航を続け、のち、入力軸オイルシールを新替えして修理された。
(原因) 本件機関損傷は、主機減速機の潤滑油量の点検が不十分で、同油がオイルシールから漏洩して油量が減少するまま、補給されることなく運転が続けられ、軸受の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、主機減速機の管理にあたる場合、潤滑油量が減少するまま運転を続けると軸受等が損傷するおそれがあったから、定期的に同油量を点検すべき注意義務があった。ところが、同人は、減速機の潤滑油はほとんど減少しないものと思い、同機を開放整備後も、定期的に同油量を点検しなかった職務上の過失により、同油が減少していることに気付かないまま運転を続け、同機の軸受を焼損させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |