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1998年(平成10年)

平成9年函審第41号
    件名
漁船美登丸25号機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年3月19日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

岸良彬、大島栄一、大石義朗
    理事官
山本宏一

    受審人
A 職名:美登丸25号機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
2番ピストンが過熱膨張してシリンダライナに焼付、Oリング溶損、3番及び6番のピストンとシリンダライナ焼付き気味

    原因
主機の過負荷運転を防止する措置不十分

    主文
本件機関損傷は、主機の過負荷運転を防止する措置が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年10月15日09時00分
北海道厚岸湾南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船美登丸25号
総トン数 124.90トン
全長 37.90メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 753キロワット
回転数 毎分563
3 事実の経過
美登丸25号は、昭和54年6月に進水した沖合底びき網漁業に従事する鋼製の漁船で、可変ピッチプロペラを有し、主機として、株式会社赤阪鉄工所(以下「赤阪鉄工所」という。)が製造した6U28型ディーゼル機関を備え、船橋から主機回転数及びプロペラ翼角の遠隔制御ができるようになっていた。
主機は、就航時、定格出力1,323キロワット同回転数毎分680(以下、回転数は毎分のものを示す。)の原機を、空気冷却器を不装備とし、出力制限装置を付設して計画出力551キロワット同回転数540として登録されていたが、同56年6月に空気冷却器を増設し、同制御装置を燃料噴射ポンプのラック目盛りで22となるように再調整して、計画出力753キロワット同回転数563として再登録され、その後同制御装置の設定が解除されていた。
A受審人は同60年6月に乗り組み、主機の常用回転数を、航海中は670、曳(えい)網中は665にそれぞれ定めて運転していたところ、曳網中、しばしば排気温度が機関取扱説明書に記載されている上限値の摂氏420度を超えるようになったこと及びサージングが頻発するようになったことから、機関メーカーの指導を受け、平成6年7月過給機を石川島播磨重工業株式会社製のVTR251-2型から同社製のVTR254-11型に新替えした。
ところで、主機は、過給機の性能が向上すると、各シリンダに供給される空気量が増えて、排気温度が低下する傾向にあり、同温度を従来と同じになるように運転すると、各シリンダには従来よりも多量の燃料が噴射されていることとなり、過大な熱負荷を生じるので、燃料噴射ポンプのラック目盛りを基準にして運転する必要があった。
A受審人は、過給機新替え後、従来と同一の翼角で運転中、主機の排気温度が上限値に比べてかなり低くなったのを認め、その後の運転管理に当たり、排気温度を基準にして運転すると、従来よりも燃料噴射量が増えるおそれがあったが、排気温度が上限値を超えなければ大丈夫と思い、燃料噴射ポンプのラック目盛りを基準にするなどの、過負荷運転を防止する措置をとることなく、曳網中の常用翼角を従来よりも0.5度増やしたので、ラック目盛りが最大で31となることがあり、ピストンに過大な熱負荷がかかる状態となった。
こうして本船は、A受審人ほか14人が乗り組み、操業の目的で、同8年10月15日02時30分北海道釧路港を発し、05時ごろ厚岸湾南方沖合の漁場に至り、08時00分当日2回目の投網を始め、同時30分曳網を開始し、回転数665翼角13.8度として曳綱中、2番ピストンが過熱膨張してシリンダライナに焼き付きはじめ、同ライナが発熱して下部の水密Oリングが溶損し、冷却清水がシリンダブロックの検水孔及びクランク室に漏れ出て冷却が粗害され、3番及び6番のピストンとシリンダライナも焼き付き気味となり、09時00分厚岸灯台から真方位200度17.8海里の地点において、冷却温度上昇警報装置が作動するとともに、2番シリンダの燃焼ガスがクランク室に吹き抜けて同室安全弁が作動した。
当時、天候は曇で風はほとんどなく、海上は穏やかであった。
折から機関室当直中のA受審人は、主機を止めて各部を調査したところ、前示漏水と潤滑油こし器内に多量の金属紛が詰まっているのを認めたほか、重くてターニングができないことが分かり、2番シリンダの減筒運転の準備に取り掛かったものの、ピストンとともにシリンダライナも抜け出てきたので運転を断念し、本船は僚船に引かれて発航地に帰着した。
その後、主機の開放調査が行われた結果、前示損傷が判明し、のち損傷した部分がいずれも新替えされた。

(原因)
本件機関損傷は、過給機新替え後における、主機の過負荷運転を防止する措置が不十分で、排気温度を基準にして運転が続けられ、従来よりも燃料噴射量が増え、ピストンが過大な熱負荷を受けて過熱膨張したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、過給機新替え後の主機の運転管理に当たる場合、排気温度を従来と同じになるように運転すると、従来よりも燃料噴射量が増えるおそれがあったから、燃料噴射ポンプのラック目盛りを基準にして運転するなどの、過負荷運転を防止する措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、排気温度が上限値を超えなければ大丈夫と思い、過負荷運転を防止する措置をとらなかった職務上の過失により、ピストンとシリンダライナとの焼付きを招き、これらを焼損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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