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1998年(平成10年)

平成9年長審第51号
    件名
旅客船シーバード機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年3月6日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

安藤周二、関?彰、保田稔
    理事官
養田重興

    受審人
A 職名:シーバード機関長 海技免状:三級海技士(機関)
    指定海難関係人

    損害
A列7番シリンダのシリンダヘッド各吸・排気弁棒及び動弁装置プッシュロッドの曲損並びにシリンダライナ及びピストンの打傷等ほか

    原因
排気温度に対する管理・点検措置不十分、主機設計担当者の主機運転上の対応についての助言不適切

    主文
本件機関損傷は、シーバード側が、主機運転中、過給機リンク装置の作動不良により排気温度が過度に高い状態となった際、シリンダヘッド燃焼室周りの点検措置が十分でなかったことによって発生したものである。
主機設計担当者が、シーバード側に対し、排気温度が極度に高い状態で運転された主機の対応について適切に助言しなかったことは、本件発生の原因となる。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年5月12日13時20分
熊本県天草下島魚貫埼南西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 旅客船シーバード
総トン数 835トン
全長 62.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 8,090キロワット
3 事実の経過
シーバードは、平成9年2月に進水した最大搭載人員304人の軽合金製旅客船兼自動車渡船で、ウォータジェット推進装置を有し、主機として、株式会社A(以下「A社」という。)が製造した16V16FX型と称する定格回転数毎分1,950の清水冷却方式4サイクル16シリンダ・ディーゼル機関4基を備えていた。
主機は、右舷側から1号、2号、3号及び4号主機と呼称し、8個ずつV形に配列されたシリンダの左舷側をA列、右舷側をB列と呼び、両列シリンダには船尾側を1番として8番までの順番号が付けられ、両列1番シリンダの船尾側に過給機1台がそれぞれ装備されていた。また、主機の遠隔操縦装置及び遠隔監視装置が操舵室に設置されており、同監視装置は、過給機出口排気温度を表示するようになっていて、安全に運転するため同排気温度の制限値が摂氏520度(以下、温度は摂氏とする。)に設定されていたものの、同排気温度上昇警報装置を備えていなかった。
主機のシリンダヘッドは、特殊鋳鉄製の4弁式構造であり、吸気弁2個が船首側に、排気弁2個が船尾側にそれぞれ組み込まれ、排気弁座には径58ミリメートル(以下「ミリ」という。)の耐熱鋼製シートリングが液体窒素を用いた冷やし嵌(ば)めにより装着されており、排気出口側には棒温度計を備えていた。
主機付過給機は、A列過給機入口排気管にリンク装置で自動開閉される遮断弁を備えていて、通常運転時には両列の2台が並列に使用されるが、出入港など排気熱量の少ない低負荷運転時には、同弁が閉じられて両列各シリンダ排気がB列過給機に導かれ、同機1台だけが使用されていた。また、リンク装置は、A列過給機の船尾側に位置し、空気シリンダ、緩衝シリンダ、リンク軸及び軸継手などで構成され、圧縮空気が電磁弁を介して空気シリンダを駆動すると遮断弁が作動するようになっており、緩衝シリンダがリンク軸にねじの呼び径12ミリのナット1個で固定されていた。そして、リンク装置は、上及び左右の3方が囲いで覆われていて、同囲いを取り付けた状態では、その下方の開いた箇所からリンク軸や軸継手等の一部が目視できたものの、細部を点検することが困難であった。
A受審人は、平成9年2月21日シーバードの艤(ぎ)装員として神奈川県の造船所に赴き、各機器の検査や海上運転等に立ち会い、翌3月27日竣工した同船に機関長として乗り組み、A社側から3箇月間の予定で保証技師の乗船派遣を受け、主機の運転保守にあたっていた。
シーバードは、竣工後長崎港へ回航され、翌4月上旬習熟訓練航海を実施しているうち、離着岸操船の際に主機排気に黒煙を排出する不具合があり、その対策工事として主機付過給機部品の交換を実施することとなり、同月14日同港においてA社側による4号主機付過給機の工事が行われた際、工事に付帯して同機のリンク装置が取り外されたが、緩衝シリンダのナットが締付け不足の状態のまま復旧された。
A受審人は、4号主機付過給機の工事終了後に保証技師から報告を受けて復旧箇所の見回りを行い、同主機付過給機リンク装置の囲いの下方からその内部を点検したものの、緩衝シリンダのナットを目視することが困難なまま、同ナットが締付け不足であることを知る由もなかった。
同月16日昼シーバードは、定期航路就航に先立ち祝賀航海レセプションの目的で、長崎港岸壁を発して同港付近海域を短時間巡航したが、航行中、4号主機付過給機リンク装置の締付け不足のナットが運転の振動で緩み、通常運転に増速された際、緩衝シリンダの固定位置に変位を生じて同リンク装置が作動不良を起こし、遮断弁が閉じられたまま開かない事態となった。そして、4号主機は、A列各シリンタ排気が遮断弁で遮られ、両列各シリンダ排気がB列過給機1台だけに流入し、同過給機出口排気温度が上昇して制限値を超える一方、A列各シリンダのシリンダヘッド出口排気温度が過度に高くなり、同シリンダヘッド排気弁座の排気管側シートリンクが過大な熱応力を生じて収縮変形し、同シートリングにクリープが進行する状況となった。
A受審人は、同日出航後1時間経過して帰航中、主機の遠隔監視装置で各温度を点検しているうち、4号主機付B列過給機出口排気温度が720度を表示しているを認め、4号主機を減速したのち、機関室にいた保証技師から同主機付過給機リンク装置が排気管の熱歪(ひずみ)で漏れた高温排気による軸継手の焼付きで作動不能となった旨の報告を受け、同技師と協議して同機リンク装置の遮断弁を開いた状態で固定する応急措置をとり、同主機付過給機を常時2台使用して続航した。A受審人は、長崎港に帰航後、B列過給機出口排気温度が制限値を超えて運転された影響による4号主機の状態を懸念し、祝賀航海レセプションに参加するためシーバードに乗船していたB指定海難関係人に対し、同主機の対応についての助言を求めたものの、同人から問題ない旨の回答を得て、これを尊重し、排気温度が過度に高くなったシリンダ列のシリンダヘッドを取り外して燃焼室周りを点検する措置をとらなかったので、同主機A列各シリンダの排気管側シートリングが収縮変形しているのに気付かなかった。
B指定海難関係人は、16V16FX型機関の開発設計に携わり、同機関の設計に関する責任者としてシーバードの主機排気黒煙対策等を担当しており、保証技師から4号主機排気温度異状発生状況の報告を受けたのち、A受審人から同主機の対応についての助言を求められたが、排気温度が過度に高くなった時間が限られていて、燃焼室周りの焼付きの際に生じる冷却水温度上昇等の兆候が認められないことを踏まえて問題ないと判断し、同受審人に対し、その旨を回答したものの、同主機A列各シリンダの排気管側シートリングの寸法を計測確認するなどして燃焼室周りを点検するよう適切に助言しなかった。
こうして、シーバードは、同月18日に長崎港と鹿児島県串木野港間の定期航路に就航し、串木野港を基地として1日に2回の往復運航を繰り返した。翌5月12日11時30分シーバードは、A受審人ほか7人が乗り組み、保証技師及び車の運転者を含む旅客38人を乗せ、乗用車8台を積載して長崎港を発し、串木野港に向けて27.0ノットの対地速力で航行した。やがて、4号主機は、同主機付過給機を常時2台使用したまま回転数毎分1,885にかけて運転中、A列7番シリンダのシリンダヘッド排気弁座に装着された排気管側シートリングの収縮変形が進行していたところ、同シートリングが脱落してピストンとシリンダヘッドとの間で挟撃され、13時20分牛深大島灯台から真方位280度3.6海里の地点において、同排気弁座が排気漏れの運転状態となって異音を発し、同シリンダの排気温度が異常に高くなった。
当時、天候は晴で風力3の東風が吹き、海上は穏やかであった。
操舵室で機関当直に就いていたA受審人は、4号主機の異常に気付き、保証技師に点検させて同主機A列7番シリンダのシリンダヘッド排気弁座の前示状態を認め、同主機が運転不能と判断し、ほかの主機3基により続航した。
シーバードは、串木野港に到着したのち4号主機が精査された結果、A列7番シリンダにはシリンダヘッド各吸・排気弁棒及び動弁装置プッシュロッドの曲損並びにシリンダライナ及びピストンの打傷等があること、更にA列シリンダには1番、6番シリンダの各シリンダヘッド排気弁座の排気管側シートリンクがそれぞれ収縮変形により緩んだ状態となっていて、他シリンダの同シートリングがいずれも収縮変形していることが判明したが、各損傷部品の交換修理が行われ、また、その後B指定海難関係人の指示で、A社側による各主機の排気管形状及び過給方式の変更並びに過給機出口排気温度警報装置の増設の改善措置がとられた。

(原因)
本件機関損傷は、シーバード側が、新造船の定期航路就航に先立ち長崎港付近海域でシリンダヘッド排気弁座にシートリングが冷やし嵌め装着された主機を運転中、過給機リンク装置の作動不良により排気温度が過度に高い状態となった際、シリンダヘッド燃焼室周りの点検措置が不十分で、シートリングが過大な熱応力により収縮変形したまま運転が継続され、シートリングが脱落したことによって発生したものである。
主機設計担当者が、シーバード側から排気温度が過度に高い状態で運転された主機の対応について助言を求められた際、これに対して適切に助言しなかったことは、本件発生の原因となる。

(受審人等の所為)
A受審人が、新造船の定期航路就航に先立ち長崎港付近海域でシリンダヘッド排気弁座にシートリングが冷やし嵌め装着された主機を運転中、過給機リンク装置の作動不良により排気温度が過度に高い状態となった際、シリンダヘッド燃焼室周りの点検措置が不十分で、シートリングが過大な熱応力により収縮変形したまま運転を継続したことは、本件発生の原因となる。
しかしながら、以上のA受審人の所為は、主機設計に関する責任者として初期的不具合対策を担当していたB指定海難関係人に対し、排気温度が過度に高い状態となった際に主機の対応についての助言を求め、同人から適切な助言が得られなかった点に徴し、職務上の過失とするまでもない。
B指定海難関係人が、A受審人から排気温度が過度に高い状態で運転された主機の対応についての助言を求められた際、排気温度が過度に高い状態となったシリンダの排気管側シートリングの寸法を計測確認するなどして燃焼室周りを点検するよう、同人に対して適切に助言しなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、その後同人が主機の改善措置をとった点に徴し、勧告するまでもない。

よって主文のとおり裁決する。






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