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1998年(平成10年)

平成8年横審第142号
    件名
漁船第五石田丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年2月18日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

川村和夫、原清澄、西田克史
    理事官
安部雅生

    受審人
A 職名:第五石田丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
4番ピストンの冷却室頂部に亀裂、4番シリンダライナにかき傷、連接俸が曲損

    原因
主機の始動準備不十分

    主文
本件機関損傷は、主機の始動準備が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年1月16日22時ごろ
茨城県大津漁港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第五石田丸
総トン 80トン
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 669キロワット
回転数 毎分600
3 事実の経過
第五石田丸は、昭和60年11月に進水した、大中型まき網漁業に従事する鋼製網船で、主機としてヤンマーディーゼル株式会社が製造した、T250-ET2型と称する、圧縮空気方式のディーゼル機関1基が装備され、増速機などを介し甲板機用油圧ポンプを前駆動しており、船首側から順番号で呼称される主機各シリンダの球状黒鉛鋳鉄品製一体形ピストンには、上部に圧縮リング三本とオイルリング二本のピストンリングが、またピストンの浮動式ピストンピンを取り付けるボス部に、ピン脱落防止のC型止め輪が装着され、2番オイルリング溝には、潤滑油かき落とし用の油穴8個が開けられていた。
主機は、潤潤油をクランク室潤滑油だめ(以下「潤滑油だめ」という。)と別置の補助タンクに合わせて約1,900リットル保有し、潤滑油だめの同油が直結歯車式潤滑油ポンプにより、複式の金網式こし器を通り約4.8キログラム毎平方センチメートルの油圧で、潤滑油冷却器を経て主管より潤滑油系統の各部に給油され、主軸受、クランクピン軸受、連接棒を経由するピストンへの給油が、ピストン頂部裏側の冷却室とピストンピン軸受に送られたのち、潤滑油だめに戻って循環し、同冷却室に至る潤滑油がオイルリング溝の油穴を経由しシリンダライナのしゅう動面に送られるようになっており、同系統にはプライミングや機関終了後の冷却のために、電動歯車式予備潤滑油ポンプ(以下「予備潤滑油ポンプ」という。)からも給油できるよう配管が設けられていた。
本船は、平成5年4月の定期検査において主機を開放整備したあと、茨城県波崎漁港または同県大津漁港から鹿島灘及びその周辺漁場におけるいわし漁などの操業に当たり、船団の各船とともに夜半前に出港して翌日午前中に帰港するようにしていたところ、同8年1月16日09時30分ごろ漁獲物を水揚げするため大津漁港へ入港し、大津港南防波堤灯台から真方位354度270メートルばかりの岸壁に係留して作業を済ませた。
A受審人は、同1030分ごろ機関終了とし、いつものように予備潤滑油ポンプで主機を冷却したが、その後同ポンプを停止しないまま他の乗組員とともに船室で休息中、長時間給油が続けられるうち、潤滑油が4番ピストンの2番オイルリング溝の油穴やピストンピンの止め輪部を経由してシリンダ内を上昇し、同ピストンの頂部に滞留する状況となった。
ところでA受審人は、主機を始動するに当たり、シリンダ内の異物の有無確認が必要なことを知っていたが、まさかピストン頂部に潤滑油などが滞留することはあるまいと思い、整備作業などで必要なとき以外は始動準備に要する時間を惜しんでターニングなどを行わず、主機を毎分400回転の停止回転に運転のうえ、船橋操縦に切り換えるなどして機関用意を行っていた。
こうして本船は、A審人ほか22人が乗り組み、船首1.60メートル船尾2.00メートルの喫水をもって、出港することとなり、同人は、ターニングなど始動準備を行うことなく、4番ピストン頂部に潤滑油が滞留していることに気付かないまま、いきなり主機を始動したところ、同日22時ごろ前示係留地点において、滞留油がシリンダヘッドとピストンの間に挟撃され、主機は衝撃音を発するとともに同ピストンの冷却室頂部に亀(き)裂を生じた。
当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、異常に気付き、直ちに主機停止のうえクランク室を開放点検したが、状況が分からないまま再始動したところ、今度は異音なく運転できたものの、ピストン上の滞留油が排気とともに煙突から排出されて甲板に落ちてきたため、出港を取りやめ、低速で運転して波崎漁港に回航し、主機は、業者により点検の結果、前示損傷のほか4番シリンダライナにかき傷を生じ、連接棒が曲損していたが、のちいずれも損傷部品を新替えして修理された。

(原因)
本件機関損傷は、主機を始動する際、ターニングなどの始動準備が不十分で、係留中、長時間にわたる予備潤滑油ポンプの運転により、ピストンとシリンダライナのしゅう動面を経てピストン頂部に滞留していた潤滑油が、ピストンとシリンダライナとの間で挟撃されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機を始動する場合、シリンダ内の異物の有無確認が必要であることを知っていたのであるから、ピストン頂部の滞留していた潤滑油を挟撃してピストンなどに損傷を生じることのないよう、ターニングなどの始動準備を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、まさかピストン上に潤滑油が滞留していることはあるまいと思い、ターニングなどの始動準備を怠った職務上の過失により、ピストン上に滞留していた潤滑油をピストンとシリンダライナの間で挾撃し、ピストンに亀裂などの損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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