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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年10月3日13時30分 北海道石狩湾北方沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船第27栄徳丸 総トン数 19.85トン 登録長 17.82メートル 機関の種類
過給機付4サイクル8シリンダ・ディーゼル機関 出力
422キロワット 回転数 毎分2,000 3 事実の経過 第27栄徳丸は、昭和55年10月進水の船首船橋型のFRP製漁船で、えびかご漁業等に従事し、同63年12月に主機を換装して、三菱重工業が同57年12月に製造したS8AF-MTK型と称するV型ディーゼル機関を備え、シリンダには、右舷列の船首から船尾にかけて1番ないし4番、左舷列の船首から船尾にかけて5番ないし8番と呼称する順番号が付されていた。 主機のシリンダヘッドは、いずれもきのこ弁型の吸気、排気各弁2個を備えた4弁式のもので、排気系統が、シリンダの右舷列及び左舷列の各列ごとに独立しており、過給機が各列の船尾側にそれぞれ装備され、煙突も船体の右舷側と左舷側に分かれて設置されていた。そして排気温度は船橋の電気式指示計に各過給機の入口温度のみが表示されるようになっていた。また、シリンダヘッドは、平成4年7月に主機の損傷事故が発生した際、全数が同型機関の中古品と交換されたものであり、かつ、吸気、排気各弁は、1番及び2番両シリンダヘッドのものが新替えされたほかは、従前のものが引き続き使用されていた。 ところで、排気弁は、運転時間の経過とともに、シリンダ内で発生した燃焼カーボンがシート部に噛(か)み込まれて堆(たい)積するようになり、やがて高温の燃焼ガスが吹き抜けるようになって、弁傘部が過熱されて材料疲労を起こし、ついには亀裂を生じるおそれがあり、これを防止するため、定期的にすり合わせ等の開放整備を行う必要があった。 A受審人は、本船の新造時から乗り組み、操船のほか機関の運転管理にも当たり、毎年3月中旬から11月下旬までをえびかご漁業に、12月初旬から翌年2月中旬までをたら刺し網漁業にそれぞれ従事し、主機を年間2,500時間ばかり運転しながら年数を重ねるうち、排気弁のシート部に燃焼カーボンが堆積しはじめる状況となったが、排気色に異状がなければ大丈夫と思い、排気弁の開放整備を行うことなく、長期間にわたり運転を続けていたので、これに気付かなかった。 こうして本船は、えびかご漁業の目的で、A受審人ほか6人が乗り組み、同業船5隻とともに、同8年10月3日04時30分北海道余市港を発し、石狩湾北方の漁場に至り、主機を回転数毎分850にかけ、動力取出軸連結の漁労ウィンチ用油圧ポンプを駆動させながら、1.5ノットの低速力で、仕掛けていたえびかごはえ縄4本のうち2本目を揚げ終わったとき、8番シリンダヘッドの排気弁1個が材料疲労により弁傘周縁部に生じていた亀裂の進展で破損し、脱落した破損片がピストン頂部とシリンダヘッドとの間に挟撃されたほか左舷列の過給機に侵入して、同日13時30分幌灯台から真方位309度18.2海里の地点において、異音とともに左舷側の煙突から白煙を発した。 当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、海上は穏やかであった。 折から船橋で船尾方向を見ながら操船に当たっていたA受審人は、過給機から金属音を発しているのに気付いて直ちに主機を止め、ブロワインペラを手で回したところ、重かったので過給機が損傷したものと判断し、本船は付近で操業していた同業船に曳(えい)航されて発航地に戻り、業者による主機の開放調査が行われた結果、過給機のロータ軸、タービンケーシング、8番のピストン頂部及びシリンダヘッド触火面にそれぞれ打傷を生じていたほか、シリンダライナにかき傷を生じていることなどが判明した。
(原因) 本件機関損傷は、主機排気弁の開放整備が不十分で、長期間にわたる運転で燃焼カーボンがシート部に堆積し、燃焼ガスが吹き抜けて弁傘部が過熱され、材料が疲労したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、機関の運転管理に当たる場合、運転時間の経過とともに主機排気弁のシート部に燃焼カーボンが堆積するから、燃焼ガスが吹き抜けることのないよう、定期的に排気弁の開放整備を行うべき注意義務があった。ところが、同人は、排気色に異状がなければ大丈夫と思い、定期的に排気弁の開放整備を行わなかった業務上の過失により、排気弁の損傷を招き、ピストン、シリンダライナ及び過給機などに打傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |