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1998年(平成10年)

平成8年仙審第87号
    件名
漁船寿福丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年2月4日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

大山繁樹、葉山忠雄、半間俊士
    理事官
里憲

    受審人
A 職名:寿福丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
全主軸受及び2ないし6番のクランクピン軸受などが焼損、クランク軸の2番ジャーナル部が著しく焼損、2番連接棒が変形

    原因
主機直結のピストン式冷却水ポンプのグランド部の点検不十分

    主文
本件機関損傷は、主機直結のピストン式冷却水ポンプのグランド部の点検が不十分で、漏洩した海水がクランク室内へ浸入したことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年6月6日05時10分
秋田県金浦(このうら)港北西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船寿福丸
総トン数 14.99トン
全長 14.98メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 183キロワット
回転数 毎分1,300
3 事実の経過
寿福丸は、昭和54年8月に進水したFRP製漁船で、小型機船底びき網漁業に従事し、主機として、三菱重工業株式会社が54年に製造した6GFAC-1型ディーゼル機関1基を装備していた。
主機は海水冷却式で、海水吸入コックから海水を直結のピストン式ポンプ(以下「冷却水ポンプ」という。)によって吸引加圧し、潤滑油冷却器、入口主管を経てシリンダごとに分流し、シリンダジャケット、シリンダヘッド、排気集合管を順次冷却した後、船外へ放出するようになっていた。
冷却水ポンプは、主機クランク室左舷側船尾寄りに横向きに取り付けられていて、カム軸船尾端に取り付けられた偏心内輪の回転が、偏心外輪を介して左右の往復運動に変換され、摺(しゅう)動筒及びピストン軸を経て複動式ピストンへ伝えられ、ピストンの往復運動によって加圧された海水の圧力脈動を空気室で緩和して送り出すようになっていた。ピストン軸がシリンダ底を貫通する部分は、スタフィングボックスを設けてその内部に数条のグランドパッキンを挿入し、グランドナットで同パッキンの張力を調整する構造になっており、グランド部の過熱を防ぐため、若干の漏水を生じる程度にグランドナットの締め方を調整する必要があり、グランド部からの漏水は、シリンダとクランク室間の空所(以下「漏水受け」という。)に落ち、その下部に取り付けられたドレン管を伝って船底へ排出されるようになっていた。漏水受けには点検窓が設けられており、主機運転中でもグランド部からの漏水状態を点検し、グランドナットの調整をすることができるようになっていた。
A受審人は、平成2年9月以来船長として主機の運転及び保守管理に当たっていたもので、同4年7月業者によって冷却水ポンプの開放整備が行われた後、日帰り操業を繰り返していたところ、同ポンプのグランドパッキンが衰耗して漏水量が増加し、また、漏水受けのドレン管がごみや漏水中の塩分のため次第に詰まり、漏水がドレン管から十分排出されずに漏水受けに滞留し、クランク室と摺動筒との隙(すき)間からクランク室内に浸入するおそれがあった。しかし、同受審人は、主機に過熱などが認められなかったことから冷却水ポンプに異状あるまいと思い、機関室巡視において同ポンプのグランド部の状態を十分に点検することなく、操業に従事していた。
寿福丸は、A受審人ほか3人が乗り組み、同8年6月6日02時秋田県象潟港を発し、同県金浦港沖合の漁場に向かい、03時ごろ同漁場に至って操業を開始したところ、冷却水ポンプドレン管の詰まりが更に進み、漏水がドレン管から十分排出されずにクランク室内に浸入して潤滑油が劣化し、05時ごろ第1回の揚網を終了して主機を回転数毎分1,000にかけて漁場を移動中、劣化した潤滑油のため全主軸受及び2ないし6番のクランクピン軸受などが焼損し、05時10分金浦港灯台から真方位292度5.6海里の地点において、主機が異音を発した。
当時、天候は晴で風力1の南風が吹き、海上は穏やかであった。
操船中のA受審人は、機関室に駆け降りて主機を停止し、クランク室右舷側を開放したところ、白煙が吹き出したので運転不能と判断して救助を求めた。
寿福丸は、来援した僚船によって象潟港に引航され、精査した結果、前示損傷のほかクランク軸の2番ジャーナル部が著しく焼損しているうえに、2番連接捧が変形しているのが認められ、のちにこれらの損傷部品を新替えし、冷却水ポンプを整備した。

(原因)
本件機関損傷は、主機直結のピストン式冷却水ポンプのグランド部の点検が不十分で、漏洩した海水やごみや塩分で詰まったドレン管から十分排出されずに漏水受けに滞留してクランク室内に浸入し、潤滑油が劣化したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、海水冷却方式で、ピストン式直結冷却水ポンプを有する主機の運転及び保守管理に当たる場合、同ポンプはグランド部からの漏水があり、ドレン管が詰まっていると、漏洩した海水が漏水受けに滞留してクランク室内へ浸入するおそれがあるから、機関室巡視の際など同ポンプグランド部の状態を十分に点検すべき注意義務があった。ところが、同人は、主機に過熱などが認められなかったことから、冷却水ポンプに異状あるまいと思い、同ポンプのグランド部点検を十分にしなかった職務上の過失により、漏洩した海水がごみや塩分で詰まったドレン管から十分排出されずにクランク室内に浸入して潤滑油の劣化を招き、クランク軸などの焼損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しでは海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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