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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年7月21日19時45分 奄美大島西方沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船第二十五光正丸 総トン数 13.59トン 機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力 300キロワット 回転数
毎分2,100 3 事実の経過 第二十五光正丸は、昭和57年4月に進水した、主としてまぐろ延縄(はえなわ)漁業に従事するFRP製漁船で、主機としてアメリカ合衆国キャタピラー社製の3406DI-TA型ディーゼル機関を備え、主機の船首側の延長軸にはクラッチを介して散水ポンプ、ラインホーラ用油圧ポンプ等をベルト駆動するようにし、操舵室には主機の遠隔操縦装置、冷却清水温度上昇の警報装置等を装備していた。 主機の冷却は間接冷却方式で、冷却海水ポンプにより船底の海水吸入弁から吸引加圧された海水が、清水冷却器で冷却清水を冷却したのち船外排出され、冷却清水ポンプにより清水冷却器から吸引加圧された冷却清水が、潤滑油冷却器、シリンダジャケット、過給機等を冷却して清水冷却器に戻るようになっていた。冷却海水ポンプは、主機のクランク軸から歯車装置によって駆動されるゴムインペラ回転式で、インペラ軸と駆動歯車軸とがスプライン継手を介して結合されていたが、約2万時間を越えて運転されるうち、冷却海水ポンプのインペラ軸玉軸受に経年による摩耗が進行するなどしてポンプ軸心が振れ、同継手部に磨耗が生じ徐々に進行した。 A受審人は、平成4年1月ごろ本船を購入して以来、船長として乗り組み、4ないし5日間出漁して2ないし3日間を港で休むようにして周年まぐろ延縄漁業に従事し、主機の開放整備を行わないでいたが、同9年4月ごろになると、回転数を毎分1,300より上げると著しく燃焼不良を生じるようになり、開放整備の必要性を認識したものの、開放整備を行わなかったので、冷却海水ポンプの玉軸受及びスプライン継手部の摩耗に気付かないままとなった。 こうして本船は、A受審人が1人で乗り組み、船首0.5メートル船尾1.1メートルの喫水をもって、同9年7月16日16時鹿児島県古仁屋漁港を発して奄美群島硫黄鳥島西方沖合の漁場に至り操業していたところ、越えて同月20日16時ごろ冷却海水ポンプのスプライン継手部が著しく摩耗して駆動歯車軸の回転が同ポンプのインペラ軸に伝わらなくなり、海水による清水冷却がなされず冷却清水温度上昇警報が作動した。 A受審人は、冷却海水ポンプのゴムインペラの損傷と思い、同インペラを点検してインペラ軸が空回りすることに気付き、同ポンプが使用不能となったと判断し、散水ポンプを冷却海水ポンプの代わりに使用して主機の運転を行い、帰港して修理することにし、散水ポンプ吐出側のビニルホースを冷却海水ポンプの吸引管に差し込み、ホースバンドで接続部を固定するなどして応急配管を施し、19時ごろ主機を再始動して低速回転の毎分約600とし、約4ノットの速力で古仁屋漁港に向け帰港の途についた。 A受審人は、主機を低速で運転しても散水ポンプの吐出圧力が通常運転中の冷却海水ポンプの吐出圧力より高いことから、応急配管のビニルホースが冷却海水ポンプ吸引管との接続部から抜け出すおそれを感じ、ときどき機関室入口から機関室内を懐中電灯で照らして様子を見ていたものの、翌21日18時45分ごろ点検したのち、港も近いのでもう大丈夫と思い、運転監視を行うことなく、続航していたところ、間もなく同ホースが冷却海水ポンプ吸引管との接続部から抜け出し、機関室に海水が吹き出して浸水するままとなって主機等が冠水し、19時45分曽津島埼灯台から真方位272度12.4海里の地点において、主機が過給機の空気吸入部から海水を吸入して自停した。 当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、海上は穏やかであった。 A受審人は、機関室内を見て初めて浸水に気付き、主機が使用不能となったと判断して救助を要請し、来援した巡視船及び僚船によって古仁屋漁港へ引き付けられた。 その結果、主機の開放整備、逆転減速機、配電盤、電路等の洗浄、冷却海水ポンプ、発電機、蓄電池等の新替えがなされた。
(原因) 本件機関損傷は、主機の整備が不十分で、冷却海水ポンプのインペラ軸玉軸受に経年による摩耗が進行するなどしてポンプ軸心が振れ、同ポンプのインペラ軸と駆動歯車軸とのスプライン継手部に摩耗が生じ、著しく摩耗して同歯車軸の回転がインペラ軸に伝わらなくなり、同ポンプが使用不能となったこと及び冷却海水系統の応急配管を行った後の運転監視が不十分で、同配管のビニルホースが同ポンプ吸引管との接続部から抜け出し、海水が機関室内に浸入するままとなったことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、主機直結の冷却海水ポンプが使用不能となったため、散水ポンプにより主機の冷却を行って継続航行ができるように応急配管を行った場合、散水ポンプの吐出圧力が直結冷却海水ポンプの吐出圧力より高いことから、応急配管のビニルホースが冷却海水ポンプ吸引管との接続部から抜け出すおそれを感じていたのだから、運転監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、港も近いから大丈夫と思い、運転監視を怠った職務上の過失により、同ホースが同ポンプ吸入管との接続部から抜け出て海水が機関室内に浸入するままとなり、主機等が冠水して過給機の空気吸入部から海水を吸入して自停し、運転不能を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |