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1998年(平成10年)

平成9年函審第53号
    件名
漁船第18美晴丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年2月26日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

岸良彬、大石義朗、平野浩三
    理事官
山本宏一

    受審人
A 職名:第18美晴丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
クランク軸のピン部、1番連接捧の大端部、全数の主軸受及びクランクピン軸受に焼損

    原因
主機潤滑油の油量管理不十分

    主文
本件機関損傷は、主機潤滑油の油量管理が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年11月2日06時30分
北海道知床半島東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第18美晴丸
総トン数 8.40トン
登録長 12.35メートル
機関の種類  過給機付4サイクル4シリンダ・ディーゼル機関
出力 40キロワット
回転数 毎分1,500
3 事実の経過
第18美晴丸は、昭和56年9月に進水した、さけ定置網漁業に従事するFRP製の漁船で、主機として、三菱重工業株会社が同50年2月に製造した4P-2型と称するディーゼル機関を備え、シリンダには船首側を1番とする順番号が付されていた。
主機の潤滑油系統は、直結潤滑油ポンプによりクランク室底部の油だめから吸引された潤滑油が、油冷却器及び油こし器を順に経て潤滑油入口主管に至り、各部に注油されたのち、再び油だめに戻る経路となっており、油だめの標準油量が24リットルで、主機の右舷後部に検油捧が装備されていた。
機関室は、船尾寄りに位置し、甲板上に機関室囲いが設けられていて、同囲いの天井右舷後部に出入口を備え、出入口からキースィッチによる始動操作ができるようになっていたほか、油圧計及び回転計等が組み込まれた計器盤を監視できるようになっていた。また、同囲いの後方左舷側に、回転数制御ハンドル、逆転減速機操作ハンドル及び操舵輪を備えた操舵スタンドが設けられていた。
A受審人は、平成3年に乗り組み、操船のほか機関の運転管理にも当たり、同8年1月毎年1回定例的に実施している主機潤滑油の新替えを自ら行い、その後、定置網設置作業に続き、同年9月から始まった漁獲作業に従事しているうち、潤滑油が消費されて油面が低下する状況となったが、発航に際し、少しでも早く出漁しようと思い、油量を計測することなく主機を始動していたので、これに気付かないまま運転を続けていた。
こうして本船は、出漁の目的をもって、A受審人ほか甲板員3人が乗り組み、同年11月2日04時30分北海道知円別漁港を発し、同漁港沖合の漁場に至って操業を終え、06時20分漁場を発進し、同受審人が操舵スタンドに立って、いつものように機関室囲いの同室出入口に蓋(ふた)をかぶせた状態として、主機を回転数毎分1,000にかけて帰港の途、潤滑油の不足で油面が著しく低下して潤滑油ポンプが空気を吸い込み、クランクピン軸受等の潤滑が阻害され、06時30分知円別港東防波堤灯台から真方位040度1.5海里の地点において、主機の回転が低下するとともに煙突から黒煙を発した。
当時、天候は晴で風力1の北北東風が吹き、海上は平穏であった。
A受審人は、直ちに主機を止め、機関室に入って様子を見たものの、不具合箇所が分からなかったので運転を断念し、本船は来援した僚船により発航地に引き付けられた。
その後、主機の開放調査が行われた結果、クランク軸のピン部、1番連接棒の大端部、全数の主軸受及びクランクピン軸受に焼損を生じていることなどが分かり、のちいずれも新替えされた。

(原因)
本件機関損傷は、主機潤滑油の油量管理が不十分で、潤滑油が不足したまま運転が続けられ、クランクピン軸受等の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、機関の運転管理に従事する場合、主機潤滑油の油面が低下していることを見落とさないよう、発航の都度油量を計測すべき注意義務があった。ところが、同人は、少しでも早く出漁しようと思い、発航の都度油量を計測しなかった職務上の過失により、潤滑油が不足してクランクピン軸受等の潤滑阻害を招き、クランク軸の焼損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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